知的障害とは?原因や発達障害との違い、種類・診断基準などを解説します。

公開日:2023/07/13

知的障害とは、知的機能の遅れなどにより勉強や仕事などの社会生活や、対人関係や日常生活で困難が生じる障害のことです。

知的障害は軽度から最重度まで4つに分かれているだけでなく、一人ひとりの性格や周りの環境によっても困りごとは変わってきます。

そのため、知的障害の理解とともに、その人の困りごとも把握したうえで対策を取っていくことが大切です。

この記事では、知的障害の原因やよく聞かれる発達障害との違い、特徴や種類、知的障害のある方が活用できる支援について紹介します。

知的障害とは

知的障害とは、IQで表される知的機能や生活を送るための適応能力に遅れがあり、勉強や仕事などの社会生活と、コミュニケーションや交通機関の利用などの日常生活で困難が生じる障害のことです。知的障害は軽度、中度、重度、最重度の4つに分けられていて、おおむね18歳までに生じるとされていますが、子供のころには気づかれず、大人になり仕事を始めてから判明する場合もあります。

 

程度によっても異なりますが、知的障害のある方は以下のような領域で困難が見られることがあります。

 

  • 記憶力、言語力、判断力などの概念的な領域
  • 他者の立場に立つことや共感すること、人間関係の構築などの社会的な領域
  • 自身の健康管理、金銭管理、仕事などの責任感などの実用的な領域

 

こういった困難から、日常生活や学校生活、仕事において困りごとが生じるとされています。

 

ただし、知的障害といっても困りごとは人によって異なるため、自分の困りごとを把握して必要な支援の利用や対策を立てていくことが大事となります。

 

※)「知的障害」は主に福祉や行政の場で使われる名称で、医学的には「精神遅滞」や「知的能力障害」などの名称が使われることが多くあります。

ただ、現在は知的障害の名称が一般的にも広く使われているため、この記事でも知的障害と表記しております。

知的障害の原因

知的障害の原因としては、染色体異常や生まれた後の事故などさまざまなことが考えられています。原因が生じる時期を大きくわけると、先天的要因、周産期要因、後天的要因があり、それらの要因が一つだけではなく複数が関わっている可能性もあるほか、原因が不明な場合も多くあります。おおむね18歳までに生じることが基準となっているため、18歳以上に遭遇した事故などで知的機能が低下しても知的障害とは診断されない場合が多いです。

 

ただ、知的障害があっても子供のころには気づかれずに、大人になってから仕事などで困ることが増えて病院を受診して知的障害と診断されることもあります。

先天的要因

知的障害の先天的要因とはダウン症などの染色体異常や、遺伝の影響、妊娠早期のアルコールや薬物の摂取などが要因になるといわれています。妊娠中のスクリーニング検査で判明することもあります。

周産期要因

周産期とは妊娠後期~生後まもなくの時期のことです。この時期に母親が感染症にかかることや、アルコールや薬物の摂取、出産時に何らかの問題が起こることが要因の一つになるといわれています。

後天的要因

知的障害の後天的要因とは、周産期を過ぎた後に子供のケガ、病気、栄養失調などにより要因が生じることをいいます。

 

百日咳や日本脳炎などの脳炎が影響することがありますが、予防接種を受けることで罹患する確率を下げることもできます。

知的障害と発達障害の違いとは

知的障害と発達障害の違いとしては、知的障害がおおむね18歳までに生じた知的機能と適応能力の遅れにより生活の中で困りごとが起こっているのに対して、発達障害は生まれつき脳機能に偏りがあることで生じるさまざまな特性の影響で生活の中で困りごとが起こっているという点が挙げられます。ただ、知的障害と発達障害は併存することがあるほか、発達障害の中に知的障害が分類されていることもあります。

発達障害とは?

発達障害は先天的に脳の機能に偏りがあることで、対人関係や物事のとらえ方などに特性が生じ、周りの環境とその特性がうまく合わないことでさまざまな困りごとが起こる障害のことです。

 

発達障害にはいくつか分類があり、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動性)、LD/SLD(学習障害/限局性学習症)などに分かれています。

 

ASDは、対人関係やコミュニケーションの困難、特定の物事へのこだわり、視覚過敏や聴覚過敏などの感覚過敏といった特徴があります。

 

ADHDは、不注意(一つのことに注意しつづけられない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(頭に浮かんだことを止められない)といった特徴があります。

 

LD/SLDは、知的機能の遅れはないが、読み、書き、計算など特定の分野の学習に大きな困難があるという特徴があります。

 

こういった特徴から、学校や仕事、周りの人との人間関係で悩みが続くことで、うつ病など別の疾患が発症することもあり、これを発達障害の二次障害と呼ぶことがあります。

 

発達障害の困りごとや二次障害を防ぐためにも、支援機関のサポートなども活用し、自分に合った環境を整えていくことが大切です。

 

知的障害かチェックする方法はある?

自身や子供、周りの方に困りごとがあり、「知的障害かも?」と感じることがあるかもしれません。

 

インターネットで調べると「知的障害のチェックシート」などが見つかることがあると思います。確かに知的障害のある方の傾向と言えるものはありますが、実際の特徴は一人ひとり異なっていて、チェックシートに当てはまっても知的障害とは限りません。

 

また、困りごとが知的障害以外の障害などが原因ということも考えられ、その場合は対処法も異なってきます。気になることがあったら自己判断せずに専門医の診断を受けるようにしましょう。

 

知的障害の診断の場所や流れについては、次の章でお伝えします。

知的障害の診断

知的障害かもしれないと思ったときは、専門医のいる医療機関に行き、検査などを通して診断を受けることになります。

 

具体的な知的障害の診断の場所や流れを紹介します。

診断できる場所

まず、知的障害の診断は、専門医のいる病院で行います。

 

一般的には子供の知的障害の診断は小児科で行うことが多く、大人の知的障害の診断は精神科で行うことが多いといわれています。

 

しかし、すべての小児科や精神科で知的障害の診断が行えるわけではありません。自分で探すのが難しい、受診先を迷う、といったときは自治体の障害福祉窓口などに相談してみましょう。

診断基準

知的障害は基本的に問診と知能検査、適応能力検査の結果をもとに専門医が判断をします。

問診では本人や家族へ、子供のころの様子や学校での成績など知的障害に関する質問をしていきます。

 

知能検査では、「ウェクスラー式知能検査」「田中ビネー知能検査」などの種類があり、検査を受ける方の年齢などによって使い分けています。

 

適応能力検査も「ASA 旭出式社会適応スキル検査」「S-M社会生活能力検査」などいくつか種類があり、こちらも対象者の年齢などによって使い分けています。

 

このような問診や検査の結果をもとに、医師の判断で知的障害の診断を受けることになります。

療育手帳

知的障害のある方が活用できる支援の一つに「療育手帳」があります。療育手帳とは、知的障害のある方へ交付される障害者手帳のことです。

 

療育手帳を取得すると、税金の控除や交通機関などの割引を受けることができます。また、障害者雇用といって、障害のある方向けの働き方ができるようにもなるなどさまざまなメリットを受けることができます。

 

療育手帳の取得には申請や手続きが必要となりますので、詳細は自治体の障害福祉窓口や、18歳未満の方は児童相談所、18歳以上の方は知的障害者更生相談所にお問い合わせ下さい。

 

また、療育手帳は自治体独自が運用しているため名称が異なる場合もあり、東京都では「愛の手帳」、名古屋市では「愛護手帳」と呼ばれています。

知的障害の種類(程度)

知的障害は程度によって、「軽度」「中度」「重度」「最重度」の4つの種類に分かれていて、種類によって日常生活や仕事での困りごとも変わってきます。

 

知的障害の種類はIQと呼ばれる「知能指数」と、身の回りのことなど生活を営むうえで必要となる「適応能力」の兼ね合いで分類されています。

 

IQ(知能指数)の目安ですが、

 

 

I ・・・ おおむね20以下

II ・・・ おおむね21~35

III ・・・ おおむね36~50

IV ・・・ おおむね51~70

 

 

と区切られており、Ⅰから順に最重度に近くなっています。

ただ、IQが同じでも実際にできることや苦手なことは一人ひとり異なっています。

 

そのため、IQの目安に加えて適応能力として、身体の動かし方や言葉の理解度、人とのコミュニケーションの円滑さなどの要素も含めて、最終的に知的障害の程度が判断されます。

知的障害の特徴・症状

軽度や重度などの知的障害の程度によって、それぞれ表れる特徴が変わってきます。目安となるIQに幅があるように、実際に表れる特徴にも状況によって幅がありますので、傾向として参考にしてください。

軽度(IQ50以上70以下)

軽度の知的障害のある方の特徴として、文字や言葉を用いた意思疎通はおおむね問題がなく、集団での対人関係もこなすことが可能です。

日常生活でも身の回りのことも自分ででき、それほど困る場面もなく生活できる方が多いようです。仕事においても型の決まりがある業務などを自分で進めていくことができるとされています。

中程度(IQ35以上50未満)

中程度の知的障害のある方の特徴として、会話はある程度できるものの複雑な文章を書くことは難しいといわれています。対人関係でも支援が必要となる場合があります。

 

日常生活で身の回りのことは基本的には自分でできますが、苦手なことには時として支援が必要です。仕事面では、他の人の指導を受けながら単純な作業をこなすことができるとされています。

重度(IQ20以上35未満)

重度の知的障害のある方は、文字や数などの理解が難しく、意思疎通に支援が必要となることが多い特徴があります。

 

日常生活では、身の回りのことや健康管理が一人では難しく、支援が必要な場面が多い傾向があります。仕事では簡単な手伝いなどは可能ですが、常に支援が必要な状態です。

最重度(IQ20未満)

最重度の知的障害のある方は、文字や数字、言葉などをほとんど使うことができず、他者との意思疎通が難しいといわれています。

 

身の回りのことや健康管理などは一人で行うことができず、医療や看護の手が必要となることが多いです。仕事もほとんど難しい状態だといわれています。

大人の知的障害

知的障害はおおむね18歳までに生じる障害ですが、子供のころは気づかれずに大人になってから仕事などのつまづきによって知的障害の診断を受ける方もいます。そういった場合を大人の知的障害と呼ぶことがあります。

 

年齢によって知的障害自体が変わるわけではありませんが、学校を卒業して仕事を始めるなどライフステージが変わってくるにしたがって困ることも変わってきます。

 

そのため、必要な支援や対策も異なってきます。ここでは、大人の知的障害のある方で、仕事や日常生活で困っている場合に活用できる支援機関を紹介します。

 

日常生活の相談ができる支援機関

まずは、知的障害のある方が日常生活で困りごとがある際に相談できる支援機関を紹介します。

知的障害者更生相談所

知的障害者更生相談所とは、知的障害のある方やその家族を対象として、専門的な支援を提供している機関です。

 

18歳以上の方の知的障害の判定、療育手帳の交付、その他の手当の認定などを行っているだけでなく、他の支援機関と連携してサポートを行っています。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターとは、知的障害をはじめ障害のある方が地域で自立した生活を営めるように、仕事と生活の両方のサポートをする支援機関です。

 

働くことで悩んでいる方へ、アドバイスや訓練の提供、他の支援機関と連携してのサポートなどもしています。生活面では、健康管理や役所への手続き、障害年金についてなど、幅広く日常生活の悩みについてアドバイスなどの対応をしています。

 

自治体の障害福祉窓口

知的障害について自治体の障害福祉窓口へ相談することもできます。

 

自治体の窓口に相談することで、その時の状況に合った支援機関を紹介してもらえることがあります。また、自治体独自に知的障害のある方への支援を行っている場合は、その案内を受けることも可能です。

 

自治体によって窓口の名称が異なることがあるため、迷ったら市役所などの総合窓口へお問い合わせください。

働くことに関して頼れる支援機関

次に知的障害のある方が働くために活用できる支援機関を紹介します。

ハローワーク

ハローワークは正式には公共職業安定所といい、就職の相談や求人の検索などを行うことができる行政機関です。

 

ハローワークには障害のある方専門の相談窓口があり、知的障害のある方も利用することができます。窓口では専門の担当者が一貫してサポートしていて、障害の特徴などを踏まえて自分に合った求人の紹介や、就職活動のアドバイスなどのサービスを受けることができます。

就労移行支援

就労移行支援とは、知的障害などの障害のある方が利用でき、仕事のスキルを身につける訓練の提供や、就職活動のサポートが得られる支援機関です。

 

利用期間は2年間で、利用者はその間にさまざまなプログラムや職場実習などに取り組んでスキルを向上させていくとともに、書類作成の指導や面接の練習などスタッフに協力してもらいながら就職活動を進めていきます。

 

また、就職してからも同じ職場で長く続けられるように、利用者とスタッフが定期的に連絡を取り合い、職場で困ったことがあったときに仲介をするといった支援もおこなっています。

 

 

就労継続支援

就労継続支援も、知的障害などの障害のある方が利用できる機関です。就労継続支援の特徴として、利用者に働く場を提供するという点が挙げられます。

 

就労継続支援はA型とB型の2種類があり、両方とも利用者は事業所に通いながら生産活動などの仕事を行い、報酬を得ることができます。

 

A型は「雇用型」と呼ばれていて、利用者と事業所が雇用契約を結んだうえで利用します。最低賃金が保障されることもあり、B型よりも報酬が高い傾向があります。

 

B型は「非雇用型」といって、雇用契約を結ばずに利用します。そのため、最低賃金が保障されずに比較的低い報酬となる場合が多いです。しかし、利用時間に融通が利くなど自分のペースで働きやすいという特徴があります。

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