ASDで会話に悩んだ20代、コミュニケーション克服の体験談
更新日:2026/07/09
「人と話していても、なんだか噛み合わない」
「悪気はないのに、相手を不快にさせてしまう」——
ASD(自閉スペクトラム症)のあるHさん(20代)は、幼少期からこうしたコミュニケーションのつまずきを抱えてきました。一般就労を経て退職し、自立訓練(生活訓練)エンラボカレッジに通った2年間で、Hさんは会話への向き合い方を少しずつ変えていきます。
この記事では、人と話すことがネガティブだったHさんが、会話の楽しさを知り、次の進路へ踏み出すまでの歩みを、ご本人へのインタビューから紹介します。
プロフィール
- Hさん
- 年代 : 20代
- 診断名 :ASD、強迫神経症
- エンラボ歴:2年
- 好きなこと:LIVEに行くこと、ゲームをすること
ご自身の困りごと
- 相手の言葉をそのまま受け取ってしまう
- 悪気がなくとも、相手を不快にさせてしまう
- 暗黙の了解が苦手で、受け取れず苦労することがあった
幼少期からの困りごとが原因で退職し診断を受けた
—診断を受けたきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
物心ついた幼少期から、会話の中で他者との意識のズレが起こり人とぶつかってしまうことがありました。
ただ、新卒で一般就労するまではそういった診断を受けたことがなく、入社後1年半ほどが経ってから退社し、初めて診断を受けました。
—ご自身の困りごとはどのようなものがあったのでしょうか?
人と話していて「なんか噛み合ってない」と思うことがあり、人から言われることもありました。
特に多かったのは、自分の中で悪気はなくとも、相手を言葉で不快にさせてしまうことでした。コミュニケーション部分でのトラブルが多かったように思います。
また、言葉通りに受け取ってしまい、その裏にある内容を読み取れずにトラブルになったこともありました。
コミュニケーション部分でのトラブルになると、人と話すことに対してネガティブな感情が生まれてしまう。そうすると人と話していても楽しくなくなり、一人でいることが多くなっていました。
心療内科の主治医の先生から勧められエンラボカレッジを見学
—なぜエンラボカレッジを見学しようと思ったのでしょうか?
心療内科の主治医の先生にいくつか福祉事業所を紹介をしてもらいました。その中で困りごとへの対処の部分でエンラボカレッジが合っていると勧めてもらいました。
エンラボカレッジを実際に調べて、両親に相談したところ背中を押してくれたため見学をすることに決めました。
—初めて見学に行った時のことを教えてください。
まずはでっかい黒板。すごいなと思いました(笑)
見学の時は感情学というワークの「怒り」がテーマだったと思います。黒板をぼーっと眺めながら「怒りの感情を知るってなんだろう?」と思い見ていました。
その中で利用者の皆さんが日常でイラっとするポイントを色々と挙げていて、意見交換をしているのをみて自分もこのワークを受けてみたいと思い、興味を持ちました。
「学校みたい」というのが第一印象です。
「2年で学びきれるか」不安を抱えながら利用スタート
—利用をスタートしたときのことを教えてください。
自立訓練(生活訓練)が最大2年間という有期限の中で、20年間困っていたコミュニケーションという大きな課題を学べるのか、という不安があったことを覚えています。
当時は夜型の生活だったこともあり、週2〜3日の通所からスタートしていました。
—最初はどのような目標を設定されていたのでしょうか?
大きく分けると「生活習慣の改善」と「コミュニケーション能力のアップ」です。「生活習慣の改善」は、数か月ほどかけて週5日の通所ができるようになりました。
そこから、日々さまざまなワークを受けられるようになりました。
エンラボカレッジで、会話の楽しさを知ることができた
― 通うことで、不安はどのように解消されていきましたか?
「人と話すことへのネガティブな感情」については、ワークでの発言が大きかったです。
手を挙げて意見を言うと、一緒に受けている利用者さんから感想や反応が返ってきます。同じことを言っても、「いいね」と受け取る人もいれば、別の見方をする人もいる。人によって反応がこんなに違うんだ、と実際のやりとりのなかで分かっていきました。
「相手にどう受け取られるかは人それぞれなんだ」と思えるようになってから、”正しく話さなきゃ”という気負いが少しずつ抜けていきました。発言と反応のやりとりを繰り返すうちに、会話への抵抗感がなくなっていって、話すこと自体を楽しいと感じられるようになったと思います。
― 利用前の困りごとは、どのように解消されていきましたか?
「相手の言葉をそのまま受け取ってしまうこと」については、一度ひと呼吸おいてから、相手に確認を取れるようになりました。「それって、こういうことで合っていますか?」と、認識の確認を取るようにしています。
「悪気がなくとも、相手を不快にさせてしまう」ことは、今も一番の課題です。なぜ相手にとって不快なのかが分からず、今でもポロっと言ってしまうことがあります。ただ、言ってしまった後に何が不快だったのかを相手に聞き、今後は起きないように行動できるようになりました。
「暗黙の了解が苦手」なことは、以前はそれが「暗黙の了解」であることにも気づけていませんでした。今は気づくことができ、本や他の利用者さんの意見を参考に学べたと思います。それでも分からないことは、人に聞くという対処方法を取るようにしています。
大きな課題であったコミュニケーションの困りごとが解消され、同時に日常生活での対処方法も身についたと感じています。
― ワークを通して対処方法を学ばれたのですね。好きだったワークはありますか?
Life Lab.(ライフラボ)とSocial Lab.(ソーシャルラボ)です。
Life Lab.は、将来のことを色々と考えていくワークです。卒業したあとで、将来どんなことがしたいかを実際に自分で考えることができたと思います。
Social Lab.は、ちょっと遊びの要素があるワークです。個人的には、どのワークよりもコミュニケーションの実践の場だと考えていました。コミュニケーションのワークで事例を学び、Social Lab.で実践を行う。何よりゲームなどの遊びを含めたものだったので、楽しみながらコミュニケーションを学ぶことができたと思います。

※エンラボカレッジ 8つのプログラム
エンラボカレッジでの出会いが進路選択のきっかけに
—現在の卒業先はどのように選ばれたのでしょうか?
生活習慣が整い、コミュニケーション能力も身についてきた頃に、就労継続支援A型事業所に行きたいことをスタッフに相談しました。
慣れてきた生活習慣や通勤時間などを考えたとき、就労継続支援A型からスタートすることで、少しずつステップアップしていけるのではないかと考えました。エンラボカレッジでの友人が就労継続支援A型で働いていたことも、進路選択のきっかけになりました。
—これからの目標について教えてください。
現在の就労継続支援A型で経験を積んで、次のステップへ準備を進めています。デスクワークでのPC作業が自分に合っていると感じているため、事務全般の仕事を検討しています。
また、エンラボカレッジでの友人との付き合いが続いているので、たまに会って会話をすることを、今後も続けたいと考えています。
「人付き合いはどこで繋がるか分からない」— これからも大切にしたい
—エンラボカレッジの2年間はどのような時間でしたか?
第二の学校みたいで、とても楽しかったです。主治医や両親の意見を振り切って、働くという選択肢もあったのですが、エンラボカレッジに通所したことで今があると考えています。
人と会話することの楽しさを知ることができ、友人がきっかけで卒業先も決めることができました。人付き合いはどこで繋がるか分からないと感じています。今後も大切にしていきたいです。
—インタビューを読まれる方に伝えたいことを教えてください。
自分と向き合うことは、とても大変です。ときには、すごく勇気がいることもあります。
でも、考え続けることに意味があると思います。僕も未だに自分を探し続けているので、一緒に頑張っていきましょう。

※スタッフと談笑するHさん
スタッフからのコメント
エンラボカレッジでの生活の中で、自分と他人との意見の相違に気づいている部分があり、メインの課題として取り組んでいました。
相手の気持ちも大事にしながら、断り方や伝えたいことを練習されていて、とても難しい課題に挑戦されていたと思います。
挑戦を続けることで、プログラム以外でも他の利用者に声をかけ、利用者同士の交流を促進し、集団全体に良い影響をもたらしてくれていました。
他者とのコミュニケーションや生活の中で「引っかかり」があったときはスタッフに相談し、整理することで、ご自身の価値観・傾向、他者との違いについて理解を深めていく姿勢がとても素敵でした。
これからも無理をせず進んでいってほしいと思います。引き続き応援しております。
ASD・コミュニケーションと自立訓練のよくある質問
ASDで会話やコミュニケーションが苦手でも、変わっていける?
Hさんの場合、ワークで色々な人の意見に触れ、「反応は人によって違う」と実際に体験するなかで、会話への抵抗感が少しずつやわらいでいきました。
Hさんも「苦手を完全になくす」のではなく、確認を取る・後から聞くといった対処方法を増やす方向で向き合ってきました。特性の背景や工夫は発達障害のある方はコミュニケーションが苦手?でも解説しています。
ASDの人が自立訓練(生活訓練)で取り組めることは?
生活習慣の改善やコミュニケーションの練習など、働く前の土台づくりに取り組めます。Hさんは週2〜3日の通所から始め、数か月かけて週5日通えるようになりました。利用できる期間は原則として最大2年間です。詳しくはエンラボカレッジのプログラムをご覧ください。
自立訓練のあと、ASDの人にはどんな進路がある?
就職だけでなく、就労移行支援や就労継続支援(A型・B型)、進学・復学など、進路はさまざまです。Hさんは、生活とコミュニケーションの土台が整った段階で就労継続支援A型を選び、次のステップを見据えています。自分のペースで進路を選べることが特徴です。