【エンラボストーリー】働く自信をつかむまで。感情のコントロールに悩んだASD・ADHDのAさんが前に進めた理由
公開日:2025/07/24
 
    エンラボカレッジの自立訓練(生活訓練)を経て卒業し、就労実習で企業から高く評価されたAさん。
発達障害(ASD・ADHD)のあるAさんは、当初、感情のコントロールが難しく、人とのコミュニケーションにも悩みを抱えていました。
「相手の立場に立って考える」という視点を身につけながら、自分自身と向き合ってきたAさんの歩みを伺いました。
※写真はイメージイラストです。
プロフィール
- Aさん
- 年代:20代
- 診断名:ASD・ADHD
- エンラボ歴:2年
ご自身の困りごと
- 感情のコントロール方法を学びたい
- 想定外の出来事が起こると、パニックになってしまう
- 雑音があると、指示の内容を聞き取りにくい
- 業務マニュアルや指示に図やイラストがないと、内容を理解しづらい
感情のコントロールに悩み、エンラボを見学
ー診断を受けた経緯やきっかけを教えてください
幼少期から発達障害の傾向があると指摘されていましたが、本格的に診断を受けたのは社会人になってからです。
大学卒業後に入社した企業で、職場の方に言われたことをきっかけに、医療機関を受診しました。
ーこれまではどういった特性がありましたか?
診断を受けるまでは、自分に障害があるという認識はありませんでした。
ただ、子どもの頃から予想外の出来事や心ない言葉に対して強く反応し、怒りを爆発させてしまうことがよくありました。
こうした特性は、社会人になってからも影響し、感情のコントロールが難しく、これまでに2度の解雇を経験しました。
当時は「誰も自分のことを理解してくれない」と感じることが多くありました。
ー働くうえで困っていたことはどのような点ですか?
業務中に想定外のことが起きると、混乱してパニックになり、感情的に怒ってしまうことがありました。
また、雑音の多い環境では業務指示が聞き取れなかったり、図や矢印などの視覚的な説明がないと業務内容を理解しづらいこともありました。
さらに、働いている最中に急に話しかけられると咄嗟に言葉が出ず、「は?」と返してしまったり、上司などから厳しい言葉をかけられると強く言い返してしまうことがあり、職場で適切なコミュニケーションを取ることが難しい状況でした。
今振り返ると、コロナ禍などの影響もあり、日々大きな不安を抱えていたことが背景にあったと思います。
当時は、不安をうまく伝える手段がわからず、怒鳴るという行動でしか気持ちを表現できなかったのだと思います。
ーエンラボのことを知ったきっかけを教えてください。
働くうえでの困難について相談した際、東京都障害者職業センターの担当者から「自立訓練(生活訓練)」の利用を提案されました。
そのときに初めて、エンラボカレッジや自立訓練という福祉サービスの存在を知りました。
長く働く基礎を学ぶためにエンラボへ
ーエンラボの見学はどなたと行きましたか?
母と一緒に見学に行きました。
広々とした空間に黒板があり、木目調の壁もあって、全体的に落ち着いた雰囲気でした。
「ここなら安心して学べそうだ」と直感的に感じました。
ー体験を受けてみて、いかがでしたか?
実際に体験してみて、「これから働くために必要な力を身につけられそうだ」と思いました。
エンラボに通う前は、感情のコントロールやコミュニケーションの取り方がわからず、悩んでいたことがたくさんありました。
義務教育の中で、こうしたことを学ぶ機会はほとんどなく、
「落ち着いて」「丁寧にやって」と言われても、どうすればよいのか分からなかったのです。
でも、エンラボではそういったスキルを基礎から丁寧に学べる環境が整っていると感じました。
ー体験ではどのようなことをしましたか?
感情学のプログラムに参加し、他の利用者と一緒に「怒り」「不安」「嬉しい」などの感情について意見を共有しました。
「この人は、こんなふうに感じるんだ」「どうしてこう考えるんだろう?」と、自分との違いが明確になり、強く印象に残っています。
次の就労に向けて、一刻も早くエンラボの訓練を始めたいと思ったため、他の施設は見学せず、1週間で5日間の体験通所を経てエンラボへの利用を決めました。
怒りの根本には不安があったことを感情学で発見
 
                ※感情学のプログラムを受けるAさん
ー利用当初の通所ペースや目標を教えてください
週5日、10時から15時までの時間帯で通所していました。
利用開始時に立てた目標は、
1つ目が「落ち着くこと」、2つ目が「感情的になる場面を把握すること」でした。
ー目標に向けてどのように取り組んだのですか?
日常の中で、自分がどんな場面でどんな感情を抱いたのかを「感情チェックシート」に記録し、振り返る習慣をつけていきました。
怒りや不安といった感情の強さ、そのきっかけとなった出来事を可視化することで、「自分はこういう場面で反応しやすいのか」と客観的に気づけるようになりました。
こうした記録を続ける中で、少しずつ自分を冷静に見つめる力が育っていったと感じています。
ー印象に残っているプログラムはありますか?
特に印象に残っているのは、「感情学」のプログラムです。
その中で、自分が怒りを感じる根本には、「自分が損をするのではないか」「不利益を受けるのでは」といった不安な気持ちがあることに気づけました。
それまでの自分は、怒りをそのまま爆発させてしまうことが多かったのですが、
その背景にある“本当の感情”を知ることができたのは、大きな転機だったと思います。
「相手の立場になって考える」を習得し、他の利用者との距離も縮まる
 
                ※ハロウィンイベントに参加されているAさん
ー感情コントロールについて、現在どのように取り組んでいますか?
まずは、気持ちが高ぶったときに深呼吸をして気持ちを落ち着けることを意識しています。
加えて、「人から見た自分」という視点を持つことも大切にしています。
たとえば、自分が怒鳴ってしまえば相手は萎縮してしまいますし、想定外の言動に驚いてしまうのは、相手も同じです。
そういったことを考えながら行動できるようになってきたと感じています。
ー以前と比べてどのような変化がありますか?
以前は、自分の言動が相手にどのような影響を与えているかを考える余裕がありませんでした。
今では「相手の立場で考える」ことを意識できるようになり、それが信頼関係の土台になっていると感じます。
また、相手の考えや感情を理解しようとすることで、自分自身が不安に感じていた「想定外」の出来事も、少しずつ減らせるようになりました。
コミュニケーションの大切さを、体験として実感できるようになっています。
ー印象に残っている出来事や取り組みはありますか?
利用者同士でテレビやインターネット、ゲーム、アイドルなどの話題で盛り上がる時間はとても楽しく、自然と距離も縮まりました。
特に思い出に残っているのは、学生企画で実施したハロウィンやクリスマスなどのイベントです。
予算の配分や当日のスケジュールを相談しながら、意見を出し合って準備を進めていく中で、協力する楽しさや人と関わる喜びを実感することができました。
段階を踏んで就職へ。実習先での高評価が自信につながった
 
                ※卒業後に向けて、スタッフと面談するAさん
ーエンラボ卒業に向けて、どのような活動をしたのか教えてください
エンラボカレッジを卒業したあと、すぐに就職するのではなく、就労移行支援事業所に通うことを選びました。
働く力をさらに高めるために、4〜5つの事業所を見学・体験し、スタッフの方と相談しながら自分に合った場所を決定しました。
ーなぜ就労移行支援事業所を経ての就職を選んだのですか?
エンラボでは、自己理解や日常生活の中でのコミュニケーションを学び、「働くための土台」が整ったと感じていました。
しかし、実際の職場で必要となるコミュニケーションやスキルについては、就労移行支援の中で身につけたいと思ったのです。
段階を踏んで準備を進めることで、自分に合った環境で安心して働けると考えました。
現在はその計画どおりに就職することができています。
ー就職活動の流れと現在のお仕事について教えてください
就労移行支援事業所には約1年半通い、そのうちの半年間は就職活動に集中しました。
3社ほどで実習を行い、その中のひとつである現在の職場では、評価をいただいたことがきっかけとなって採用されました。
ー今後の目標や、エンラボでの経験から得たものがあれば教えてください
今の目標は、正社員になることです。
同じ就労支援事業所を利用していた先輩が、現在の職場で正社員として働いており、自分の励みになっています。
また、長く働いてキャリアを積み重ね、生活を安定させるために貯蓄もしていきたいと考えています。
エンラボでは、傷ついていた心を少しずつ癒しながら、コミュニケーションの大切さを学びました。
「自分と相手は違う」という視点を持てるようになったことで、人との関わり方にも前向きな変化が生まれたと感じています。
【スタッフの声】「着実に感情コントロールを身につけていった」Aさんの変化
利用開始時のAさんは、「怒り」という感情が大きなテーマでした。
過去の仕事でうまくいかなかった経験に対して「どうすればよかったのか」と悩まれている様子で、「働きたいのに結果が出ない」という焦りや葛藤を感じていらっしゃいました。
プログラムを通しては、一つひとつの出来事に丁寧に向き合いながら、「こういう場面でこういう気持ちになりやすい」と、ご自身の感情をしっかり見つめていかれました。
「あのとき自分は悲しかった」「イライラしていた」と、自分の気持ちに気づくスピードが少しずつ早くなっていったのが印象的です。
当初は、感情をそのまま発散してしまうような関わり方が多かったのですが、やがて「今はこういう気持ちなので、この場を少し離れてもいいですか?」と、気持ちを言葉にして伝え、対処法を相談できるようになりました。
こうした力は、現在の職場でもしっかり活かされているようです。
Aさんは、エンラボでの2年間を通して、自分を落ち着かせる方法や、相手に伝わるコミュニケーションの仕方を試行錯誤しながら、着実に身につけてこられました。
これからも、自分らしく働ける未来を応援しています。