障害者雇用で働くメリットとは?デメリットや企業側の採用メリットも解説
公開日:2024/11/21
障害のある方が就職したり、転職したりする場合、「一般雇用」での就労か、「障害者雇用」での就労か、ということを考えるかもしれません。しかし、初めて障害者雇用を検討する方にとっては、制度の内容や給与体系が分からず、なんとなくネガティブな印象を持ってしまうこともあるでしょう。
今回は、障害者雇用で働くことのメリット・デメリットを詳しく解説します。自分自身が障害者雇用で働く場合、メリットとデメリットのどちらの方が大きそうか考えたり、障害者雇用のメリットを十分に受けられる職場選びを行ったりするために活用してみてください。
そもそも障害者雇用とは
障害者雇用とは、企業などが障害のある方を雇用する制度のことです。障害のある方一人ひとりが、自分の希望や能力、適性などを活かしながら、障害の特性に応じた働き方ができることを目指しています。
障害者雇用促進法では、雇用義務制度(法定雇用率)が定められており、従業員が一定数以上いる企業の場合は、従業員に占める障害のある方の割合を一定以上にすることが義務付けられています。
また、「差別の禁止と合理的配慮の提供義務」も定められています。これは、障害があることを理由に募集や採用の対象から外すことを禁じたり、障害のある方が障害のない方と平等な労働機会が得られるように、それぞれの困りごとに応じた個別対応や支援を行うことを求めるものです。障害者雇用や障害者雇用促進法については、関連記事でより詳しく解説しています。
関連記事:障害者雇用とは?一般雇用との違いや働くときのメリット・デメリット
ちなみに厚生労働省が行った令和5(2023)年障害者雇用状況の集計結果によると、雇用されている障害者数は64万2,178人、実雇用率は2.33%で、ともに20年連続で過去最高の数値を更新しています。
また、障害者雇用で働いている方の内訳をみてみると、身体障害者は36万157.5人、知的障害者は15万1,722.5人、精神障害者は13万208人でした。いずれも前年から増加しており、全体の数字としては身体障害者がもっとも多くなっていますが、前年度伸び率で比較すると、精神障害者が18.7%増加してもっとも多い結果となりました。
参考:令和5年 障害者雇用状況の集計結果|厚生労働省 P.4
障害者雇用と一般雇用の違い
障害者雇用と一般雇用は何が違うのでしょうか。
結論から言って、障害者手帳を保持している場合は、必ず障害者雇用しか適用されないというわけではなく、障害者雇用と一般雇用の両方から、自分に合っているものを選んで応募することが可能です。
まずは大まかな障害者雇用と一般雇用の違いを知り、その後障害者雇用のメリット・デメリットについて詳しく見てみましょう。
障害者雇用について
障害者雇用は、先述した通り、障害のある方一人ひとりが自分の特性に合わせた働き方ができるよう、企業や自治体といった「雇用主」に対して、障害のある方を雇用する枠を設けたり、「合理的配慮」などのサポートを求める制度のことです。
障害者雇用で働く場合は、原則として障害者手帳を持っていることが条件になります。加えて、障害者であることをオープン(=企業や職場で障害があることを開示すること)にして働くことになります。
そのため、一般雇用で障害についてクローズ(=企業や職場で障害があることを開示しないこと)にして働く場合と比較すると、障害の状態や特性による業務の進め方、体調や通院などを周囲の人に理解してもらえる環境がつくりやすいという特徴があります。
障害者職業総合センターが行った調査によると、一般雇用で障害を開示しなかった場合の就職後1年時点での定着率は30.8%、障害を開示した場合でも定着率は49.9%と、一般雇用の場合は半数以上の方が1年後には離職している傾向が見られました。一方で、障害者雇用の場合は就職後1年後の定着率は70.4%となっており、一般雇用と比較すると職場に定着しやすいことが分かります。
参考:障害者の就業状況等に関する調査研究
一般雇用で障害について開示した場合と比較した場合でも、障害者雇用の方が職場定着率が高いのは、障害者雇用の方が「合理的配慮」を行うことが雇用主側に求められているからと考えられます。一般雇用の場合、「合理的配慮」を行うかどうかは雇用主側に委ねられており、雇用主側としても障害のある方を採用する前提で一般雇用の求人を出しておらず、合理的配慮を行うことが難しいケースも少なくありません。
障害のある方が必ずしも障害者雇用を利用するべきというわけではありませんが、「長く同じ企業で働きたい」「安定して働き続けたい」という方は、一般雇用と比較すると働きやすい環境がつくりやすいかもしれません。
一般雇用について
一方で一般雇用とは、企業の採用条件を満たせば誰でも応募できる求人のことです。障害者手帳の取得有無などは問われず、障害のある方もない方も同じ条件下で採用試験や面接などを経て、企業に採用されることになります。
一般雇用は、障害者雇用と比較すると、選べる職種や求人数、求人を行っている企業数が多いことが特徴です。就職活動を行っている段階では、障害者雇用より多くの選択肢の中から、自分に合った求人情報を探すことができます。また、障害者雇用と比較すると一般雇用の方が給料が高くなる傾向もあります。
ただし、一般雇用は障害のある方の採用を前提としたものではありません。障害者雇用での求人と比較すると、障害のある方の採用率が低かったり、採用された後も障害や特性への合理的な配慮を求めにくく、先述した通り職場に定着しにくかったりするデメリットもあります。ただし、一般雇用の中でも、障害があることを職場で公開せずに働く「クローズ就労」、障害があることを公開した上で働く「オープン就労」という考え方があります。
障害者雇用で働くことのメリット
障害者雇用を活用して働く場合、さまざまなメリットが考えられます。具体的に見てみましょう。
メリット(1)合理的配慮を得られる
まず障害者雇用で働く場合に大きなメリットとなるのは、「合理的配慮を得られる」ということです。合理的配慮とは、障害のある人の人権が障害のない人と同じように保障されるとともに、教育や就業、そのほか社会生活において平等に参加できるよう、それぞれの障害の特性や困りごとにあわせて行われる配慮のことを指します。一般雇用でも合理的配慮を求めることは可能ですが、合理的配慮を行うかどうかは企業に一任されており、一般雇用で合理的配慮を得られるかどうかは状況によって異なります。
一方で、障害者雇用の場合は合理的配慮を行うことが障害者雇用促進法によって企業に対して義務付けられています。合理的配慮の具体的な例としては、下記のようなものが挙げられます。
- 募集内容について音声を活用するなど、本人の障害特性や困りごとにあわせた情報提供を行うこと
- 面接時に他者の同席を認めるなど、本人の障害特性や困りごとにあわせた対応を行うこと
- 本人が業務をしやすいよう、バリアフリーやユニバーサルデザイン、集中できるようにイヤーマフを導入するなど、就労環境を整えること
- 本人の習熟度に応じて徐々に業務量を増やすなど調整を行うこと
- 出退勤時刻や休暇、休憩に関し、通院や体調などの事情に配慮し、在宅勤務やラッシュ時を避けた時差通勤などを認めること
- 業務に関するコミュニケーション方法を、本人の障害特性や困りごとにあわせて柔軟に対応すること
障害者雇用を活用することで、これらの合理的配慮が受けやすくなります。
メリット(2)一般雇用よりも定着率が高い
障害者職業総合センターが行った調査によると、一般雇用で障害を開示しなかった場合の就職後1年時点での定着率は30.8%、一般雇用で障害を開示した場合の就職後1年後の定着率は49.9%と、一般雇用の場合は半数以上が1年後には離職する傾向が見られました。一方、障害者雇用の就職後1年後の定着率は70.4%となっており、一般雇用と比較すると高い割合で職場に定着していることが分かります。
参考:障害者の就業状況等に関する調査研究
一般雇用と比較すると、障害者雇用の方が職場の定着率が高く、比較的長く同じ職場で働き続けやすい傾向があるようです。
メリット(3)応募者が限られ、就職しやすい傾向にある
障害者雇用への応募は、障害者手帳が必要です。そのため、障害者手帳の有無を問わない一般雇用と比較すると、条件の良い求人であっても応募者自体が少なくなりやすい傾向があります。
自身の障害特性や困りごとも考慮しながら求人内容を精査する必要があるため、決して就職が簡単というわけではありません。しかし、障害者雇用であれば、障害のある方の採用が前提であり、企業側もそれを考慮した業務内容を用意していることが多く、障害があっても働きやすい仕事が一般雇用枠と比較すると見つかりやすいかもしれません。
メリット(4)周囲からサポートを受けやすい
障害者雇用で就職した場合、障害があることを開示することが前提となり、基本的には職場で自身の障害についてオープンな状態で働くことになります。障害を周囲に知られることについて抵抗がある方もいらっしゃるかもしれません。しかし、事前に障害のことや自身の特性について理解が得られていることで、「職場に迷惑がかかる」「障害について理解してもらえない」というストレスが減るだけでなく、上司や同僚にとってもコミュニケーションが取りやすくなります。より周囲からサポートを受けやすい環境であると言えるでしょう。
障害者雇用で働くことのデメリット
障害者雇用で働くことにはさまざまなメリットがある一方で、デメリットも考えられます。事前にデメリットになりうるポイントについて押さえておきましょう。
デメリット(1)一般雇用よりも給料が低い可能性がある
賃金・教育訓練・福利厚生その他の待遇について、障害者であることを理由に不当な差別的扱いを行うことは、障害者雇用促進法で禁止されています。そのため、「障害者雇用だから賃金が安い」ということはありません。しかし、障害者雇用は障害特性に応じて勤務時間が短くなる傾向にあったり、業務内容が制限されたりすることがあり、結果として一般雇用よりも受け取る給与額が少なくなる傾向にあります。
2023(令和5)年5月の平均賃金を見ると、身体障害者は235,000円(前回は215,000円で20,000円アップ)、知的障害者は137,000円(前回は117,000円で20,000円アップ)、精神障害者は149,000円(前回は125,000円で24,000円アップ)、発達障害者は130,000円(前回は127,000円で3,000円アップ)となっています。「令和5年賃金構造基本統計調査速報」によると一般労働者における平均賃金は318,300円のため、一般雇用よりも障害者雇用の方が給料が低い傾向にあると言えるでしょう。
理由として、障害者雇用は正社員ではなく非正規雇用で働くケースが多いこと、また心身への負担に配慮し短時間勤務や勤務日数の調整などを行うことで、勤務時間が短いケースが多いことが挙げられます。例えば、週30時間未満の短時間勤務の労働者の割合は、身体障害者で24.9%、知的障害者で35.8%、精神障害者で43.8%、発達障害で39.3%となっています。労働時間の分だけ給与が支払われるため、短時間勤務での働き方が多い障害者雇用の場合は、給与水準が低くなる傾向があります。
デメリット(2)求人数が少ない
障害者雇用のデメリットとして求人数が少ないことが挙げられます。一般雇用と比較すると、障害者雇用での求人数は少ない傾向があります。厚生労働省がおこなった調査によると、ハローワーク(公共職業安定所)を利用して就職した一般の就職件数は122万件であるのに対して、障害者雇用の就職件数は10万件でした。
参考:公共職業安定所(ハローワーク)の 主な取組と実績P.10
ハローワークや転職エージェントなどを活用することで、障害者雇用の求人情報を集めることができますが、豊富な選択肢の中から自分の希望にぴったり合う求人が見つかるとは限りません。
デメリット(3)周囲に障害があることを知られる
障害者雇用は、基本的には自身の障害について職場でオープンな状態で働くため、周囲から合理的配慮を得やすい環境になります。しかし、人によっては「自分自身の障害について周囲の人に知られたくない」という気持ちが強い方もいらっしゃるでしょう。周囲の人も障害特性を理解した上でコミュニケーションを取る必要があるため、職場で障害について話す機会も多くなり、ストレスがかかる場合もあるかもしれません。なるべく周囲の人に障害であることを知られたくない、という方にとっては、障害者雇用で働くことは希望に適さないと言えるでしょう。
企業が障害者雇用で採用することのメリット
企業は、法律で定められている障害者雇用率を達成するため、障害者雇用を行うことが求められています。加えて、企業が障害者雇用を推進するメリットは他にも考えられます。
メリット(1)多様な人材の採用拡大につながる
障害者雇用では、障害の特性を「個性」「強み」として捉え、特性に合わせた職場環境を整えることで、障害のある方が定着して働きやすくなります。さらに、適切な人事評価やマネジメントを行うことで生産性の向上が期待でき、戦力として活躍しやすくなるでしょう。
近年、さまざまなIoTやツールの進化によって、障害特性を活かして働きやすい環境をつくることが可能になってきています。障害特性の「できない」ことにばかり注目するのではなく、「できる」「得意」なことに目を向け、それが活かされる働き方を提供することで、障害者雇用の人材が高い成果を発揮することが期待できます。
メリット(2)多様性のある企業・職場環境がつくれる
障害者雇用を推進することは、個人の特性を理解し、それを活かした職場環境づくりを行うことにつながります。決して障害の有無だけに限定される話ではなく、性別や人種の違い、子育てや介護など個人のライフスタイルの違いなどを理解し、お互いに配慮しながら働きやすい環境をつくっていこうという企業文化をつくりやすくなるでしょう。障害者雇用だけに特化して対策を行うのではなく、一般雇用にもテレワーク勤務や出勤時間の調整、時短勤務などの制度を導入することで、一般雇用で働く従業員にとっても働きやすく、長く働きたいと思える職場になるはずです。
メリット(3)社会的責任の遂行・ブランドイメージの向上
企業は、自社の利益だけを追求するのではなく、すべてのステークホルダー(消費者や投資家、従業員などのすべての利害関係者)を視野に入れて、より良い社会づくりを目指すことが求められています。障害者雇用を実施し、障害者雇用率を達成することは、法律で求められている最低限の基準です。さらに障害者雇用によって採用した人材が、多種多様な活躍を見せていることを示すことで、「社会的責任を果たしている企業」として、ブランドイメージを向上させることが可能です。
メリット(4)障害者雇用による助成金を受け取ることができる
企業が障害者雇用に取り組んだり、職場定着のための施策を実施したりすることに対して、国はさまざまな助成金を支給する制度を用意しています。障害者雇用納付金制度では、障害者を多く雇用している企業に対して調整金、報奨金や、設備などに対する各種助成金の支給を行っており、障害特性に合わせた施設や設備のメンテナンスにかかる一時的な経済的負担を軽減することができます。
障害者雇用で働きたいときに活用できる機関
ここでは、障害者雇用で働きたいと考えている方が、求人情報を探すときに活用できる支援機関について紹介します。
ハローワーク
ハローワーク(公共職業安定所)では、障害のある方の就職活動を支援するため、障害について専門的な知識を持つ職員・相談員を配置し、仕事に関する情報を提供したり、就職に関する相談に応じたりするなど、さまざまな支援を行っています。一般雇用・障害者雇用ともに求人情報を提供しており、障害者雇用のメリット・デメリットを職員と相談しながら検討することができます。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、障害のある方に対して就職や職場定着をサポートするための専門的な職業リハビリテーションを提供している施設です。主に受けられるサポートとして、障害のある方の就職に関する希望などをヒアリングしながら検査を行い、職業リハビリテーションの計画方針を決める「職業評価」や、個人のニーズに応じて就労環境を想定して作業を行ったり職業や就職に関する講習を受けたりする「職業準備支援」などがあります。具体的に障害者雇用の求人についての紹介も行われています。
就労移行支援
就労移行支援は、障害の方が就職に必要な知識やスキルを向上させるためのサポートを行う、通所型の福祉施設です。「障害福祉サービス受給者証」が発行されると利用が可能です。職場環境を知るための企業インターンや、就職に向けたスキルの向上などを目指したプログラムがあります。
自立訓練
自立訓練(生活訓練)とは、障害のある方が自立した生活を送ることができるよう、訓練・支援を行う場です。自立訓練(生活訓練)のサービスを受けるためには、市区町村から「障害福祉サービス受給者証」の交付を受ける必要があります。
事業所によってプログラム内容は異なりますが、障害のある方の転職活動においては、ストレスへの対処方法や生活リズムの整え方、就職に向けたビジネスマナー向上や面接練習などのサポートが行われます。また自分の条件に合った障害者雇用の求人について情報収集をすることも可能です。
まとめ
障害者雇用とは、障害のある方が一人ひとりの希望や能力、適性を活かしつつ、障害の特性に応じた働き方ができるように、企業などが障害のある方を雇用する制度のことを指します。制度の根本には「共生社会の実現」という理念があり、障害に関係なく、希望や能力に応じて、誰もが職業を通じた社会参加ができることを目指しています。
障害者雇用で働くことには、さまざまなメリットがあります。障害特性に関して周囲からの理解を得て、合理的配慮を得ながら働くことで、自身の強みを活かし活躍することも十分可能でしょう。障害者雇用には障害者手帳の取得などが前提条件となるため、どんな人でも障害者雇用の制度を利用できるわけではありませんが、障害によって働き方に迷っている場合や、障害を活かして長く一つの職場で働きたいと考えている場合などは、ぜひ障害者雇用での採用を検討してみると良いでしょう。
障害者雇用については、ハローワークや就労移行支援、自立訓練など、さまざまな支援機関で相談することができます。自分自身の障害特性について理解し、どのような合理的配慮を得ることが望ましいのか、事前に確認した上で条件に合った障害者雇用の求人情報を探すことも可能です。面接の練習なども可能な場合があるため、障害者雇用について考えている人は、ぜひ一度相談してみてください。