軽度知的障害とは?特徴や原因・チェック・診断方法を紹介します。
公開日:2023/07/13
軽度知的障害とは、知的障害の程度の中で「軽度」に分類される障害のことです。
軽度知的障害のある方は、日常生活や学校、仕事などの場面で「人間関係がうまくいかない」「仕事や勉強を覚えられない」「予定外のことがあるとパニックになる」などの困りごとを抱えることがあります。
軽度知的障害のある方は自分の特徴を知って、支援を受けることや対処法を工夫していくことで、それらの困りごとを軽減させることも可能です。
今回は軽度知的障害の原因や特徴、診断の流れ、よくあるQAなどを紹介していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
軽度知的障害とは
軽度知的障害とは、知的障害の程度が「軽度」に該当する状態で、日常生活や学校、仕事などの場面でさまざまな困難が生じることのある障害のことです。軽度とつくことから「軽いのでは」と感じる方もいると思いますが、知的障害の程度に関わらず本人が困っていることや辛い思いをしていることに変わりがなく、その影響でうつ病などの二次障害が発症することもあるため、適切な支援を受けることや対策を取っていくことが大事です。
軽度知的障害という診断名があるわけではなく、あくまで知的障害の分類の中の一つという位置づけです。
軽度知的障害のある方は、学校の勉強や仕事を問題なくこなしていることも多く、日常生活での人とのコミュニケーションも不自然ではないことも多いため、周囲からなかなか気づかれにくい障害といわれています。
ただ、周りからは気づかれなくても本人は人一倍努力をしていたり、辛い思いをしていたりと負担を感じていることも少なくありません。
そういった負担が積み重なることで、うつ病などの精神疾患を発症することもあり、それを二次障害と呼んでいます。
軽度知的障害のある方は、普段の困りごとを減らし、二次障害を防ぐためにも、早めに本人や周りの人が専門機関に相談をして、本人に合った対処法を身につけることや、適切な支援を受けることが大事です。
※知的障害は、医学的には「知的機能障害」や「精神遅滞」などの診断名で呼ばれることがありますが、この記事では一般的に使われていることの多い「知的障害」という名称を使用しています。
知的障害とは?原因や発達障害との違い、種類・診断基準などを解説します。
知的障害とは?
そもそも知的障害とはどういった障害かというと、何らかの原因で知的機能の遅れが発達期までに生じており、生活の中で身の回りのことや対人関係などに困難がある障害のことです。発達期とはおおむね18歳未満とされており、18歳をこえてから事故などで知的機能に影響が生じた場合は知的障害とはみなされないことが多いといわれています。
知的障害について詳しいことは以下のリンク先の記事をご確認ください。
軽度知的障害のIQは?
知的障害には4つの分類があり、それぞれ「軽度」「中程度」「重度」「最重度」と呼ばれています。
この分類はIQ(知能指数)と日常生活能力の兼ね合いをもとに判断されています。
IQが同じでも、一人ひとり得意不得意や周りの環境が異なっているため、生活の中で困ることも違ってきます。そのため、IQだけで決めるのではなく日常生活能力も含めて知的障害の分類を決めています。なお、日常生活能力は適応能力などと呼ばれることもあります。
IQは知能検査によって測り、以下のように分類されます。
- I ・・・ おおむね20以下
- II ・・・ おおむね21~35
- III ・・・ おおむね36~50
- IV ・・・ おおむね51~70
このうち、IV のIQがおおむね51~70の方が軽度知的障害とされることが多いです。
実際にはIQが51~70の方で、健康管理、身だしなみ、片付けなどの身の回りのことや、対人関係、勉強、仕事などの社会生活で困難の度合いが強い方は、中程度に分類されることもあります。
このように、IQがおおむね51~70で、日常生活や社会生活で大きな困難がないという場合に、軽度知的障害とみなされることが多くなっています。
軽度知的障害の原因
知的障害を含めた軽度知的障害の原因は特定されていなく、生まれる前の感染症などの先天的な要因や、生まれた後の事故など後天的な要因など、さまざまなことが考えられています。また、要因も一つだけではなく複数が関係している場合や、原因がはっきりしない場合もあります。
ここでは、軽度知的障害の原因として考えられている、先天的要因、周産期要因、後天的要因の3つを紹介します。
先天的要因
軽度知的障害の先天的要因とは、胎児の時期に要因が発生することです。例えば親からの遺伝的要因、ダウン症などの染色体の異常、妊娠早期の薬物やアルコール摂取の影響などが要因になると考えられています。
遺伝といっても、親がなんらかの因子を持っていても必ず子供に遺伝するわけではなく、また遺伝的な要因を持っていなくても子供に知的障害が生じることもあります。
周産期要因
軽度知的障害の周産期要因とは、妊娠後期から出産間もない時期に要因が発生することをいいます。
この周産期に母体が何らかの感染症にかかったことによる影響や先天性代謝異常、薬物やアルコール接種の影響、新生児期の感染症などが影響して、軽度知的障害の要因になることがあると考えられています。
後天的要因
軽度知的障害の後天的要因とは、生まれた後の周産期を過ぎてから要因が発生することをいいます。
幼少期の事故によりケガを負ったり病気にかかったりした影響や、栄養失調などの影響が軽度知的障害の要因となりうるとされています。
日本脳炎などの脳炎にかかることで、脳に何らかの影響があるとも考えられていますが、予防接種を受けることである程度は防ぐことができるともいわれています。
軽度知的障害の特徴
ここでは、軽度知的障害のある方が日常生活や学校、仕事などの場面でよくある特徴を紹介していきます。
軽度知的障害の特徴とは?大人の軽度知的障害の特徴や原因・困りごと・仕事や生活に役立つ情報を解説します。
未就学の特徴
軽度知的障害のある子どもは、まず、未就学の時期には気づかれることが少ないという特徴があります。
軽度知的障害のある子供は言葉の発達や大人の言っていることの理解が遅い、という特徴もあります。しかし、子供の発達にはそもそも個人差が大きいため、軽度知的障害の場合は他の子供との差異もそこまで大きくなく、大人も気づかないことも多いといえます。
他にも、着替えや食事、排せつなどの身の回りのことを取得することが遅かったり、歩き始めなど運動機能の発達に遅れがみられる場合があります。
ただ、それらの特徴は発達障害など他のことが要因となっている可能性もあるため、気になることがある場合は、3歳児検診や就学前検診の際に医師に相談をしてみるといいでしょう。
学齢期の特徴
軽度知的障害のある方の学齢期の特徴としては、勉強や学校生活で困難が多くなってくるということが挙げられます。
そのため、この時期に専門機関に相談をして、軽度知的障害と診断されることが多いとされています。
具体的には学校の勉強で、
- 授業の理解が遅い
- 漢字が読めない
- 複雑な計算が苦手
- 抽象的な概念の理解が難しい
- 一度に一つずつしか覚えられない
- 覚えたことをすぐ忘れてしまう
- 体育で複雑な体の動きができない
といった特徴があります。
他にも、友達と上手くコミュニケーションが取れないことや、集団での活動では何をしていいのかわからなくなる、などの特徴がみられることがあります。
学校の外では、交通機関の乗り継ぎが苦手で一人で出かけられない、おつりの計算ができずに買い物に行くのを嫌がる、などの特徴がある方もいます。
そういった困りごとが続くことで、心身の負担となり、非行、引きこもりになることや精神的な疾患にかかる方もいて、その状態を二次障害と呼んでいます。
大人の特徴
大人になるとライフステージが変わるにしたがって、仕事や生活の場面で困りごとが生じるという特徴があります。
子供のころは軽度知的障害に気づかれなかった方が、大人になって仕事をするうちにつまづくことが増えて、そこで初めて軽度知的障害と診断される場合があります。
仕事で困ることが多いのは、
- 複数人から指示を受けると何をしていいか分からなくなる
- 漢字が多いメールや資料の理解が遅れる
- 会議での議論についていけない
- 困った時、誰に聞いていいかわからない、質問内容が浮かばない
- 一度に多くの業務をこなすことが難しい
- 業務を覚えるのに時間がかかる
- 臨機応変な対応が苦手
などが挙げられます。
他にも、生活の中で役所への手続きや、携帯電話や保険の契約など複雑な概念の理解が難しいという特徴もあります。
大人の軽度知的障害のある方も、こういった負担が積み重なることで、うつ病などの二次障害につながることがあるため。適切に対応していくことが大切です。
軽度知的障害かチェックする方法はある?
軽度知的障害かもしれないと思い、自分でチェックする方法を探している方もいると思います。
確かに、軽度知的障害の方に多く見られる特徴や傾向があります。また、それをもとにインターネット上で「軽度知的障害のチェックリスト」などを見かけることもあると思います。
しかし、そういったチェックに当てはまっているからといって、軽度知的障害であるとは断言できません。
他の障害が要因となって同じような特徴が表れている可能性もありますし、全く別のことが要因となっている場合もあります。実際に軽度知的障害をはじめ知的障害のある方は、発達障害など他の障害が併発していることも少なくありません。
要因が別の場合や他の障害も併存している場合は対処法も異なるため、自己判断では困りごとが解消できない可能性もあります。軽度知的障害かもしれないと感じたら、自分で判断するのではなく専門機関に相談するようにしましょう。
軽度知的障害の診断
軽度知的障害の診断について、場所や流れを紹介していきます。
診断できる場所
軽度知的障害を診断するには専門医のいる病院です。一般的には子供の場合は小児科・児童精神科・小児神経科、大人の場合は精神科や心療内科などで診断することが多いといわれています。
すべての病院で診断ができるわけではないため、あらかじめ調べたうえで受診するようにしましょう。診断をしている病院が分からない場合や、どこを受診したらいいか迷う場合は、公的な相談窓口に相談することで紹介をしてもらえることもあります。
相談窓口は子供の場合は、お住まいの自治体にある保健所、保健センターや児童相談所、大人の場合は知的障害者更生相談所などに行うことができ、共通の窓口としては自治体の障害福祉窓口があります。
診断方法
軽度知的障害の診断方法としては、問診と知能検査、適応検査という流れが一般的です。
子供と大人では、問診の内容や使う検査の種類が若干異なりますので、詳しい流れを紹介していきます。
問診
軽度知的障害の診断の際の問診では、生活の中で困っていることなどをヒアリングしていきます。子供が対象の場合は、保護者が子供の様子や困りごとを話していきます。また、園や学校の通知表や先生との連絡帳など、家庭外での様子が分かる資料を使うこともあります。
大人の場合は、本人または家族からヒアリングすることになります。18歳未満で知的障害があったことがわかる資料が必要になることが多くあるため、学校の通知表やテストの成績などを用意しておくといいでしょう。
知能検査
軽度知的障害の診断では、IQ(知能指数)を測るために知能検査を実施します。
検査の種類は複数あり、年齢などによって使い分けられています。
知能検査の一つWISC-V(ウィスク・ファイブ)では、対象年齢が5歳0カ月〜16歳11カ月までの子供向けとなっています。
また、WAIS-IV(ウェイス・フォー)では16歳0カ月〜90歳11カ月までが対象となっており、大人の知的障害の診断につかわれることが多くなっています。
このように、状況によって適した知能検査を実施して、その結果をもとに診断を行っていきます。
適応検査
軽度知的障害の診断では、知能検査だけではなく適応検査も行っています。
適応検査も年齢などによって、使い分けがされています。
適応検査のうち、S-M社会生活能力検査は、乳幼児〜中学生の子供を対象とした検査で、Vineland-II(ヴァインランド・ツー)は0歳0カ月〜92歳11カ月までの方が対象と、幅広い年齢層の方に使用されます。
このような知能検査と適応検査の結果をもとに、問診の内容も加えて医師により総合的に知的障害の診断が下されます。
軽度知的障害よくあるQA
ここでは、軽度知的障害のある方やその周りの方が感じることの多い質問に答えていきます。
軽度知的障害で障害者手帳は取得できる?
まず、知的障害のある方は障害者手帳の中でも「療育手帳」の対象となります。
そして、療育手帳は軽度知的障害のある方も自治体の判断により取得することができます。
ただ、詳しい基準は各自治体によって異なっているため、注意が必要です。
療育手帳を取得することで、住民税などの税金の控除や、交通機関の運賃の割引、さまざまな施設利用時の割引などのメリットがあります。
また、働く際には障害者雇用といって、障害のある方専用の働き方もできるというメリットもあります。
療育手帳の取得の手続きは、知的障害の診断とはまた別に行う必要があるため、詳しいことは子供の場合は児童相談所、大人の場合は知的障害者更生相談所にご相談下さい。
また、共通する窓口として、自治体の障害福祉窓口もありますので、相談しやすい場所へお問い合わせいただくといいでしょう。
軽度知的障害で障害年金はもらえる?
障害やけがなどで生活や仕事に困難がある方に支給される年金として、障害年金があります。
知的障害のある方も対象となっており、軽度知的障害の場合も申請することがあります。
障害年金を申請するには、国民年金や厚生年金を納付しているなどの要件がありますが、知的障害は国民年金の納付が義務付けられる年齢の前に障害が生じているため、基本的には要件を満たしていると考えられます。
ただ、障害年金は診断や療育手帳と別の制度で、診断があるからといって障害年金の申請が通るとは限りません。
こちらも詳しいことは自治体の障害福祉窓口や年金事務所、日本年金機構のホームページなどでご確認ください。
また、民間の社労士事務所で障害年金の相談受付や手続きのサポートをしていることがありますので、相談してみることも一つの手です。社労士への相談は無料が多いですが、手続きを依頼して障害年金を受給できたときには報酬を支払うことがありますので、先にご確認ください。
参考:日本年金機構「障害年金」
軽度知的障害のことを相談できる機関はある?
軽度知的障害があって、生活や学校、仕事などで困りごとが生じている方の相談を受け付けている場所がいくつかあります。
子供と大人で分かれていて、子供の場合は子ども家庭支援センター、保健センター、児童相談所、児童発達支援センター、発達障害者支援センターなどで相談を受け付けています。
相談は専門的なスタッフが対応をする他、状況を考慮して医療機関や他の支援機関の紹介をしてもらえることがあります。
また、学習面での困りごとがある場合は、学校のスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、自治体の教育委員会、教育センターなどに相談することも可能です。
大人の場合は、生活については障害者就業・生活支援センター、知的障害者更生相談所、自立訓練事業所などに相談することができる他、仕事に関しては地域障害者職業センター、就労移行支援事業所などに相談することができます。
それぞれ相談対応や、他の支援機関や医療機関の紹介、生活の困りごとの解消、仕事のための訓練や就職活動のサポートなどを行っています。
どういった支援機関に相談したらいいかわからない場合は、子供も大人も共通して自治体の障害福祉窓口や相談支援事業所に相談することで、状況に応じて適したサービスを受けることもできますので、活用していきましょう。
軽度知的障害の方に向いている仕事はある?
軽度知的障害と判定があっても、一人ひとりで性格や好きなもの、得意不得意も異なっています。そのため、これが向いている仕事と言い切ることは出来ませんが、軽度知的障害のある方に向いている傾向があるといわれている仕事はありますので、参考として紹介します。
軽度知的障害のある方に向いている傾向がある仕事としては、
- マニュアルがある仕事
- ルーティンがある仕事
- 少人数のグループで進める仕事
- 勤務時間や業務内容の変化が少ない仕事
- 障害者雇用で配慮を受けることができる仕事
などがあります。
軽度知的障害のある方は、仕事を覚えることや臨機応変な対応に難しさを感じる方が多いため、マニュアルが整備されていたり、毎日同じ仕事をルーティンでおこなったりする仕事が向いているといわれています。
また、多くの指示を受けると混乱することから、小人数のグループで進める仕事や、大きなオフィスでも指示を出したり質問を受け付ける人が固定されていると働きやすい傾向があります。
その他にも、障害者雇用で働く方法もあります。
障害者雇用とは、障害のあることを会社側に伝えた上で配慮などを受けながら働くことです
。障害者手帳を所持している方が対象となります。
障害者雇用で働くことで、障害の特性などに応じた働き方がしやすくなり、勤務時間を一定にする、専用のマニュアルを作ってもらう、指示を出す人を固定する、といった配慮も受けやすくなります。
悩んだらまずは相談しよう
ここまで、軽度知的障害のある方が活用できる制度や、支援機関、働き方などを紹介してきました。
ただ、選択肢がたくさんあり、何を使っていいのかわからないという方も多いと思います。
そういったときは、自分が困っていることをまずは相談してみるといいでしょう。
全体的に困っているときは、障害福祉窓口や相談支援事業所に問い合わせてみて、仕事のことであれば仕事に関する支援機関に相談してみるといいでしょう。
また、日常生活で悩みが多い、という方は自立訓練事業所に相談してみる方法もあります。
自立訓練とは、軽度知的障害をはじめとする障害のある方が、自立した生活を営めるように、さまざまな訓練などを提供している障害福祉サービスの一つです。
自立訓練事業所を運営しているエンラボカレッジでは、日常生活における困りごとの原因が分からず、社会生活全般に支障が出て、働くことが難しい、または働いても長続きしない。「働く一歩手前の段階」で困っている方に対し、困りごとを解消するための訓練や相談への対応といったサポートを提供しています。
いつでも相談を受け付けているので、「コミュニケーションで悩んでいる」「働く前に生活を整えたい」といった方はぜひ一度お問い合わせください。
軽度知的障害のまとめ
軽度知的障害とは、知的障害の中で「軽度」に分類される状態のことで、日常生活や社会生活で困難が生じることのある障害です。
軽度といっても、本人は困っていたり辛い思いを抱えていることも多く、そのストレスで心身に負担がかかり、非行やうつ病などの二次障害につながることもあります。
生活や仕事をしていて困ることがある方は、専門機関に相談をして、適切に対応していくことが、困りごとを解消し二次障害を防ぐためにも有効です。
軽度知的障害のある方への支援はたくさんあります。一人で抱え込まずに、まずは悩みを相談することから始めてみましょう。