場面緘黙(選択性緘黙)とは|チェックリストや原因・治療法などを紹介します。
公開日:2024/03/29
家の中や家族の前では特に問題なく話すことができるのに、学校や職場など特定の場面では話すことができなくなる状態のことを場面緘黙(ばめんかんもく)症と呼んでいます。
場面緘黙の程度は様々あり、学校では全く話せなくなる場合や、先生とだけなら話せるといった場合もあります。
場面緘黙での困りごとが続くと不登校などの二次的な問題が生じる可能性も指摘されているため、適切に対処することが大切です。
この記事では、場面緘黙の概要や原因、治療方法、チェックリストなどを紹介します。
場面緘黙(選択性緘黙)とは
場面緘黙とは家庭では話すことができるのに、学校や職場などの「特定の社会的な場面」では話すことができなくなるという状態のことで、選択性緘黙と呼ばれることもあります。場面緘黙は医学的には不安症の一種とされていて、不安を感じやすい性格や発達の偏り、周りの環境など様々なことが要因となって発症すると考えられています。
場面緘黙は2歳~5歳未満に発症しやすいと言われていますが、小学校や中学校、ごく稀に大人になってから発症するケースもあります。
緘黙には「全緘黙」「場面緘黙(選択制緘黙)」の2種類があり、「全緘黙」は家庭や学校などの区別なく全ての場面で話さないことをいい、「場面緘黙」は特定の場面でのみ話せなくなることをといいます。
場面緘黙の原因
場面緘黙(選択性緘黙)の原因はまだ明確にはなっていませんが、一つだけではなく複数の要因が絡み合って発症すると考えられています。
具体的には元々不安を感じやすい性格や発達に偏りのある子どもが、入園や入学などによる大きな環境の変化や人前で話す機会が増加して不安が高まるなど、様々な要因が重なった結果として発症するのではないかと言われています。
また、「子育てのせいでは」と心配する方もいると思いますが、育て方によって場面緘黙が発症することはないと言われています。
ただ、場面緘黙を改善していくためには大人が子どもの不安に寄り添って対応していく必要となるので、医師や学校関係者と相談しながらどのような接し方をしていくか検討するといいでしょう。
大人でも場面緘黙になることはある?
場面緘黙(選択性緘黙)は2~5歳までに発症することが多いと紹介しましたが、大人でも場面緘黙の症状がある方はいます。
大人の場面緘黙として考えられるケースは2つあります。
まず子どものころから場面緘黙がある方が、適切な対処を受けることができずに大人になってからもそのまま症状が表れている場合です。もう一つは、大人になってから発症することも考えられますが、このケースはまれだと言われています。
大人の場合、場面緘黙によって職場での意思の疎通や人前での発表など、仕事をするうえで困る場面が多くあると言われています。
場面緘黙(選択性緘黙)の症状
場面緘黙(選択性緘黙)の症状は、安心できる家などの場所では問題なく話すことができるが、特定の社会的な場面で話すことができなくなる状態です。この場合の「社会的な場面」には、学校などの空間的な「場所」や先生やクラスメイトといった「人」、授業などの「活動内容」が含まれます。いくつか代表的な症状を紹介します。
特定の人とだけ話せなくなる
場面緘黙のある方は、社会的な状況において全員と話せなくなるわけではありません。もちろん、学校や会社で誰とも話せなくなるという方もいますが、「先生とだけ話せる」「クラスメイトとだけ話せる」といったように、特定の人以外と話せなくなるという場合があります。
人前に立って話すことができなくなる
場面緘黙のある方は、状況によっても症状の現れ方が変わってきます。普段の会話はすることができても、大勢の人の前に立って話さなければいけない場面ではどうしても言葉が出てこないなど特定の場面で症状が現れることもあると言われています。
動作に制限がかかる
場面緘黙というと話すことに注目がいきがちですが、動作に影響が出ることもあります。例えば授業中に「宿題やってきた人」などと先生に言われたときに、手を上げることができないなど特定の動作ができなくなるという方もいると言われています。
このように、場面緘黙と一口に言っても症状は人それぞれ大きく異なっています。症状の程度によっては、周りから見て人見知りや恥ずかしがり屋の子どもとの違いが分からずに特に治療を受けずに育つことも考えられます。
その結果、大人になってからも症状が続いて、仕事を始めてから「場面緘黙なのかも」と気づく方もいます。
大人の場面緘黙の症状も子どもと一緒で、特定の社会的な場面で話すことや動作に制限が加わります。
仕事においては、「上司からの問いかけに返事をすることができない」「人前で発表ができない」「書類の記入などで身体がうまく動かなくなる」などの困りごとが挙げられます。
場面緘黙は、わざと話さないのではなく、「話している様子を人から見られるのが怖い」などの不安から話せなくなる状態のことです。しかし、家庭では話せていることから「性格の問題」と捉えらえることも多く、そのことで本人はさらに困ってしまうこともあり得ます。
場面緘黙(選択性緘黙)の診断基準
場面緘黙(選択性緘黙)の診断基準は複数あり、現在では主にアメリカ精神医学会の「DSM-5」と世界保健機構(WHO)の「ICD-10」が用いられています。ここでは、両方の診断基準を紹介していきます。
DSM-5では場面緘黙は不安症に分類されていて、診断基準は以下のようになります。
- 他の状況で話しているにもかかわらず、学校や会社など特定の社会的状況 において、話すことができない。
- そのことが、学校の成績や仕事の成果、または人とのコミュニケーションを妨げている。
- その状態が少なくとも1ヶ月 (最初の1ヶ月だけに限定されない) 続いている。
- 話すことができないのは、言葉の知識や話すことに関する楽しさが不足していることによるものではない。
- その障害はコミュニケーション症ではうまく説明されず、また自閉スペクトラム症や他の精神病性障害によるものではない。
次にICD-10の診断基準は以下のようなものです。
- 正常あるいはほぼ正常な言語理解能力と社会的コミュニケーション能力を持っているが、家庭などある状況において正常あるいはほぼ正常に話せることが明らかでありながら、学校や会社などの特定の状況では話すことができなくなる状態
病院を受診するとこのような診断基準を元にして、医師が診断を行っていきます。少し分かりづらいかもしれませんので、次にシンプルなチェックリストも用意しています。ご参考にしてみてください。
場面緘黙(選択性緘黙)かも?と思ったときのチェックリスト
ここではもう少しシンプルに「場面緘黙かもしれない」と思ったときに、チェックできる項目を紹介します。
子どもと大人に分けて場面緘黙のチェックリストを用意しましたので、受診の際の参考にしてみてください。
また、ここに挙げるチェックリストはあくまで一例なので気になる症状がある方は病院を受診するようにしましょう。
子どものチェックリスト
まずは子どものチェックリストから紹介します。
家庭で話せているのに、学校や園で1か月以上次のような状態が続くと場面緘黙の可能性があると考えられます。
- 先生やクラスメイトと話せない
- 人前での発表ができない
- 集団で目立たないようにすることが多い
- 学校で不安や緊張感を強く感じる
- 挨拶が苦手で自分からすることができない
- トイレに行きたいなど困っていることを言い出せない
- 分からないことがあっても質問できない
- 出欠確認時に手を上げることができない
- 体育の授業で見本通りに身体を動かせない
大人のチェックリスト
次に大人の場合のチェックリストを紹介します。
大人の場合も家庭などでは話すことができても、職場などで一カ月以上以下のような状態が続くと場面緘黙の可能性が考えられます。
- 上司からの指示に返事をすることができない
- 上司や同僚とすれ違っても挨拶ができない
- 不明点があっても質問することができない
- 分からないことがあっても聞き返すことができない
- 特定の業務において動作が遅くなる
- 会社で不安や緊張感を強く感じる
- 会議で発言することができない
- 同僚との雑談で声が出ない
- 書類の提出など特定の動作ができなくなる
場面緘黙(選択性緘黙)の治療方法
ここでは、場面緘黙(選択性緘黙)でよく行われる治療について紹介します。
場面緘黙の治療法としては、主に薬物療法と認知行動療法が行われることが多く、発達障害や二次的な症状が出ている場合には、そちらに対しての治療を行っていくこともあります。
薬物療法
場面緘黙での薬物療法では、場面緘黙の要因となっている不安を和らげるために抗うつ薬などが用いられることがあります。ただし、場面緘黙自体の症状を改善するものではないため、次にあげる認知行動療法と併せて行っていくことが多いと言われています。
認知行動療法
認知行動療法とは、その人の考え方や行動に働きかけて症状を改善していく治療法のことです。
その中でもエクスポージャー法(暴露療法)といって、学校や職場などでの不安な状況に対して、支援者と一緒に負担が軽いものから段階を踏んで慣れさせていくという手法が用いられることが多いと言われています。
例えば、あえて不安を感じる場面を設定し、その中でも負担が軽いものからスタッフと一緒に経験し慣れていき、徐々に不安の強いものに挑戦していくという方法で行っていきます。
このような場面緘黙の治療は、あくまでも本人に無理をさせない範囲で実施していきます。
学校や職場での対策
治療法とはまた違いますが、学校や職場で困りごとを減らしていく対策を実施することも大切なポイントです。
対策には自分でできることと、配慮として周りに協力してもらうことの2つが挙げられます。
自分でできることとしては、言葉が出ないことを補うためのツールを使う方法があります。すぐにできることとしては、口頭で伝える代わりに紙に文字を書いて相手に意思を伝えることが挙げられます。紙以外にもホワイトボードやパソコン、タブレットを使用する方もいます。
また、よりスムーズに意思疎通するために書いた文字を音声で読み上げてくれるアプリを使用する方法や、あらかじめ「はい」「いいえ」などの返答内容を書いておいたカードを用意しておいて、相手から尋ねられた時に指し示すといった方法もあります。色々と試してみて自身が使いやすい方法を探っていくといいでしょう。
ただ、自分でできることといっても、事前にこういった方法でコミュニケーションを取るということは伝えておくようにしましょう。
周りに求める配慮として「合理的配慮」があります。合理的とは、障害のある方が困っていることに対して学校や職場などは過度の負担とならない範囲で対応することが義務付けられている制度のことです。
合理的配慮の例としては、先ほど挙げたアプリやタブレットなどのツールの使用許可があります。通常学校や職場には持ち込めないものも、配慮として認められる場合があるので相談してみるといいでしょう。
その他の配慮例としては、子どもでは「返答に時間がかかるので待ってもらう」ことや「トイレに行きたいなど困ったことがないか定期的に声をかけてもらう」ことなどがあり、大人では「指示を口頭ではなくメールでしてもらう」ことや「電話対応などどうしても苦手なことは別の業務に変えてもらう」などが考えられます。
合理的配慮を希望する場合は、学校ではスクールカウンセラーや担任の先生、職場では上司や人事、メンタルヘルス窓口などに相談するといいでしょう。
参考ページ:緘黙症サポートコミュサポアプリ
場面緘黙(選択性緘黙)と発達障害
ここでは場面緘黙(選択性緘黙)と発達障害との関連について紹介します。
まず、医学的にも場面緘黙と発達障害は併存といって同時に表れる場合もあるようです。場面緘黙と発達障害が併存している場合には、発達障害についての治療や支援も同時に行っていくことが重要です。発達で気になることがある場合は、主治医や支援者にそのことも伝えるようにしましょう。
場面緘黙(選択性緘黙)の方の相談先
「場面緘黙かもしれない」「場面緘黙についての支援を受けたい」と考えたときに、相談できる窓口や受けることができる支援があります。
本人が相談に行く場合には、メールなど口頭での会話をしなくても相談できるか、ホームページなどであらかじめ確認しておくといいでしょう。
学校の窓口(スクールカウンセラーなど)
現在子どもが学校に通っている場合には、学校内の窓口に相談してみるといいでしょう。相談窓口としてはスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、担任の先生や学年主任などがあります。
その中でスクールカウンセラーとは、学校内の困りごとに対してカウンセリングや関係機関との連携などを担当する職員のことです。生徒ではなく保護者から相談することも可能ですので、先ほど紹介した合理的配慮を希望する場合にも相談してみるといいでしょう。
子どもがまだ学校に通っていない場合も、幼稚園や保育園でも同様の人員がいる場合もありますので、そちらに相談してみるといいでしょう。
保健センター/精神保健福祉センター
保健センターや精神保健福祉センターは地域の保健衛生について担当している支援機関で、場面緘黙の困りごとについても相談することができます。
特に年齢制限などはなく子ども大人両方ともに相談することが可能で、医療の知識のある専門スタッフにより病院の紹介や他の支援機関との連携などの支援を受けることができます。
自立訓練(生活訓練)
自立訓練(生活訓練)も大人の方が利用できる支援の一つです。場面緘黙などの障害のある方を対象として、自立した生活が送れるように相談対応や訓練などを実施しています。
エンラボ カレッジではその方の困りごとに合った目標、計画を立て、一緒に確認、整理しながら対処法の実践などの訓練を提供しています。。
コミュニケーションプログラムや、自己分析のプログラム、昼休みや放課後の実践を通して、その方の自分らしいコミュニケーションの取り方を見つけ、生活や仕事の場面で使える方法を身につけていきます。
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場面緘黙(選択性緘黙)のまとめ
場面緘黙(選択性緘黙)とは、家庭などでは問題なく話すことができるのに、学校や職場など特定の場面では話すことができなくなるという状態のことです。医学的には不安症に分類され、法令上は発達障害に分類されています。
場面緘黙の特徴として、語彙力や話すための身体機能に異常はなくても、人に見られることに不安が強くなり、言葉や動作に制限が加わるといった症状が現れる方もいます。
場面緘黙は子どもに多いですが、大人になってからも症状が表れる方もいます。学校では、「先生やクラスメイトと会話ができない」「トイレに行きたいと言い出せない」「出欠確認時に手を上げることができない」といった困りごとが挙げられます。
また、職場では「上司からの指示に返答できない」「会議で発表することができない」「資料の準備などでうまく動けなくなる」などが困りごととして考えられます。
場面緘黙は不安を和らげるための薬物療法や、考え方や行動を少しずつ変えていく認知行動療法などの治療によって症状を改善させていきます。
また、文字を表示させるアプリや音声読み上げソフトなどのツールの使用や、合理的配慮を受けることで困りごとを減らしていくことも対処法として考えられます。
このような対応を一人で進めるのは難しい面もあると思います。場面緘黙について相談できる支援機関を利用することも視野に入れていきましょう。