SST(ソーシャルスキル・トレーニング)とは?プログラム内容や効果・受けられる場所について説明します

公開日:2024/05/04

職場で「コミュニケーションがうまく取れない」「仕事を断ることができず残業してしまう」などで困っている方もいるのではないでしょうか?
円滑なコミュニケーションなどを学ぶ方法として「SST」があります。SSTはコミュニケーションをはじめ生活に関する様々なスキルを学ぶことができるプログラムで、医療機関や福祉機関などで受けることができます。
今回はSSTの概要から大人向けのSSTのプログラム内容、期待できる効果、実施場所などを紹介します。

SST(ソーシャルスキル・トレーニング)とは?

SSTとは「ソーシャルスキル・トレーニング」 を略したもので、社会で生きていくためのスキルを身につけていくためのプログラムのことです。「社会生活技能訓練」などと呼ばれることもあります。SSTで学ぶのは「仕事の上手な断り方」など場面に応じた円滑なコミュニケーション方法や、服薬管理などの日常生活を送るうえで役に立つスキルなど様々なものがあります。SSTは主に医療機関や福祉機関などの場所で専門のスタッフの元で受けることができます。

SSTの定義

SSTは実施する団体などによって多少定義が異なりますが、 国立精神・神経医療研究センターのサイトでは次のように定義しています。

 

社会生活技能訓練(ソーシャルスキルトレーニング、SST)とは、人との上手な接し方や自分の気持ちの伝え方などの社会的なスキルを習得するためのトレーニングです。一般的には5~8人程度の少人数のグループで行われます。日常生活の中で起こりそうな人と関わる場面を想定し、指導者がお手本を見せたり、参加者が相手役に対して実際に練習してみたりすることで、対人関係で生じる困難を減らすことを目指します。他にも、疾患や薬について学び、適切に症状に対処したり薬を飲んだりできるようになるための心理教育プログラムが一緒に行われることがあります。

引用:こころとくらし by 国立精神・神経医療研究センター「社会生活技能訓練(SST)とは?」

ソーシャルスキルとは

ソーシャルスキルとは社会生活技能とも呼ばれていて、状況に合わせた人との接し方や上手な自分の気持ちの伝え方など社会生活を円滑にするためのスキルのことです。

大人の場合は職場で上司や同僚との関係性を考えたうえで、その状況に適した言葉遣いをすることなどが当てはまります。

また、ソーシャルスキルは対人関係だけでなく、感情コントロールや目標に向けて取り組む力など生きていくために役に立つスキルを意味することもあります。

つまり、ソーシャルスキルとは自己管理や対人関係の困りごとを減らしていくためのスキルとも言えます。

大人のSST(ソーシャルスキル・トレーニング)とは

大人向けのSSTは主に職場での対人関係やコミュニケーションの困りごとがある方が、状況に応じた対応を身につけるために取り組んでいくことが多いと言われています。

 

大人がSSTを受ける際のよくある困りごとは以下のようなものがあります。

  • 残業を断れずに長時間働き続けてしまう
  • 仕事を頼まれたときにうまく断れない
  • 仕事を他の人にどう頼んでいいかわからない
  • 忙しそうな人に話しかけるタイミングがわからない
  • 怒られると萎縮して意見が言えなくなってしまう
  • 休憩中の雑談が苦手でストレスになっている
  • 仕事で困った時に相談ができない

大人になってからSSTを受ける意味

大人になってからSSTを受ける意味としては、職場などの対人関係で困っていることへの対処法を身につけることができる点が挙げられます。

 

例えば残業を断れずに長時間働き過ぎて体調に影響が出ているという方がSSTを受けると、自身の状況も伝えた上で残業を断れたり、何時までなら可能などの交渉をするスキルや対応方法などを学ぶことができます。そのことで、自分のペースを維持して疲労やストレスをためにくくなるといったことにつながっていきます。

SST(ソーシャルスキル・トレーニング)の対象となる人

SSTは、広く社会生活を送る中でコミュニケーションなどに悩んでいる方々が対象となります。SSTはもともとはアメリカで精神障害のある方を対象として始まり、それが日本でも精神科の治療に取り入れられていったという歴史があります。

その後は民間にも広まっていき、現在では障害のある方だけでなくコミュニケーションや対人関係に悩む様々な方が対象となっています。

 

主なSSTの対象としては以下のような方々が挙げられます。

  • 職場のコミュニケーションで悩んでいる方
  • 感情のコントロールが苦手な方
  • 人との付き合いが苦手な方
  • 自分の気持ちをうまく伝えられない方

発達障害のある方とSST

SSTはもともとは精神障害のある方を対象として始まりましたが、現在では発達障害のある方が取り組むことも少なくありません。

 

発達障害の一つの自閉スペクトラム症(ASD)は、社会的なコミュニケーションや対人関係の構築が苦手という特性があります。その理由としては「あいまいな表現の理解が苦手」「相手の立場に立って考えることが苦手」などの特徴が関係していると言われています。

子どものころはそれほど気にならなくても、社会に出てからはあいまいな表現や相手の立場を考慮した振る舞いが求められることが多くなり、うまく対応できず対人関係で悩むことも少なくありません。

そういったときに円滑にコミュニケーション方法を身につけるために、SSTを受けることがあります。

 

関連ページ:大人の発達障害?特徴や原因・診断・治療法・病院の探し方・相談先を紹介します。

SST(ソーシャルスキル・トレーニング)のプログラム内容

ここではSSTの具体的なプログラム内容を紹介します。まず、SSTは基本的に5~8人程度の少人数で行います。そして、初回はSSTの目的や進め方を参加者全員で共有し、イメージを明確にしてから具体的なプログラムに入っていきます。

 

SSTでよく行われるプログラムとして、

  • ディスカッション
  • ゲーム
  • ロールプレイ

があるので、それぞれ内容を紹介します。

ディスカッション

SSTのディスカッションは何人かのグループになって、一つのテーマについてみんなで話し合っていくプログラムです。

コミュニケーションで困っていることをテーマとして取り上げ、ディスカッションの中でどういった対応をするといいのか意見を出していき、困りごとへの解決策を探していきます。テーマはスタッフから出されることもありますが、参加者の一人が実際に困っていることをテーマとする場合もあります。

 

例えばテーマが「忙しい上司に話しかけるタイミングがつかめない」だった場合は、それに対して参加者同士で「手が止まったときに話しかける」「今よろしいでしょうか?とクッション言葉をかける」「まずはチャットでいつ空いているか聞く」など対応方法の案を出していきます。

意見は口頭で伝えあう場合もあれば、ワークシートなどに記載してから伝えるなど、参加者の様子を見てスタッフが調整していくことがあります。グループで意見を出し合うことで、自分一人では気づかなかった解決策が見つかることもあると言われています。

ゲーム

SSTではゲームを使ったプログラムもあります。

ゲームはカードゲームなどの卓上で行うものもあれば、身体を使ったものもあり、基本的にグループで行われます。

 

ゲームではルールを理解し、他の人と協力しながらクリアを目指して行くことが求められるため、プレイすることで人との共同作業や相手の意見を聞くこと、自分の考えを伝えることなど仕事をするうえでも役に立つスキルが身につくと言われています。また、参加者同士が打ち解けてその後のSSTの効果を高めるためにも用いられることがあります。

 

ゲームは集団で行うことが多いですが、場合によっては個別に行われることもあり、障害の特性で相手の表情を読むことが苦手という方には、イラストの表情と喜怒哀楽を一致させていくといったゲームを通して相手の立場に立つ練習をしていくこともあります。このように、一人ひとりの状況や身につけたいスキルによって色々なゲームを使っていきます。

ロールプレイ

SSTではロールプレイという手法も行われます。ロールプレイとは、参加者が「ロール=役」になりきって、コミュニケーションで困った場面や対処法を実際に演じるという方法です。実際に演じるために、よりリアルに状況や解決策がイメージでき、体験することで対処法が身につきやすいと言われています。ただ、困った場面を思い出すことにもなり、人によっては体調が悪くなることも考えられます。そのためスタッフが見守る中でしっかりと流れを決めて行っています。

 

SSTのプログラムではこのロールプレイが最も多く行われるため、詳しく流れを紹介します。

 

ロールプレイのやり方は、

  1. 場面設定
  2. 1回目のロールプレイ
  3. 本人役の感想
  4. 相手役のフィードバック
  5. 周りからのフィードバック
  6. 2回目のロールプレイ
  7. 全体を通しての感想

といった流れがあります。

場面設定

場面設定ではスタッフがそのテーマを取り上げた理由、ロールプレイの目的、具体的な人や状況を参加者に伝えます。実際に演じることになるため、ここで場面設定をしっかりイメージできるように参加者に伝えます。テーマは参加者から事前に聞いておくことが多いですが、その場で話してもらうこともあります。

1回目のロールプレイ

参加者が役割に分かれて1回目のロールプレイを行います。テーマが「上司からの仕事依頼を断れない」だとした場合は、実際に上司役の人に仕事の依頼をしてもらい、本人役の人が「今○○の仕事を抱えているのですぐには受けれません」など断る練習をします。

本人役の感想

ロールプレイが終わったらまずは本人から感想を話します。「言い出すのにすごく緊張した」「もっと違う言い方が良かったかもしれない」など、演じてみて気づいたことを話します。

相手役のフィードバック

次に相手役からのフィードバックとして、断りの言葉を言われたときにどう感じたかを話します。「忙しいことに気づけた」「ちょっと言い方がきついと思った」など、こちらも演じてみて気づいたことを伝えます。工夫した方がいい点などもあったら一緒に伝えます。

周りからのフィードバック

その後に周りで見ていた人からのフィードバックがあります。こちらは客観的に良かった点や改善点などを挙げていきます。本人役の人はフィードバックを受けて、気になったことを質問するなどして2回目のロールプレイに向けて改善点を明確にしていきます。

2回目のロールプレイ

1回目のロールプレイで明確になった改善点を踏まえて、2回目のロールプレイを行います。その後はまた本人、相手、周囲で感想やフィードバックを言い合って良かった点や改善点を挙げていきます。場合によってはさらにロールプレイを行うこともあります。

全体を通しての感想

最後に全体を通しての感想を一人ずつ話して終了となります。今回学んだことを次回まで職場で実践できるか試してみるといった宿題が出る場合もあります。

 

SSTのプログラム内容や効果について紹介しました。今回挙げた以外にも方法はたくさんあります。また、細かい部分は場所によって異なっていますので、詳しいことは実施場所にお問い合わせください。

SST(ソーシャルスキル・トレーニング)で期待できる効果

SSTを実践していくことで、自分の思考パターンやその対策がわかってきて、仕事の負担、対人関係のストレスを減らす効果などが期待できます。それぞれ具体的に紹介します。

自分の傾向がわかる

SSTを実践していくことで、自分の思考や行動のパターンがつかめるなど自己理解が進み、具体的な対処法を考えやすくなる効果が期待できます。

例えば、「強い口調で言われると、怖くなってつい相手の言う通りにしてしまう」という傾向がわかると、すぐ返事をするのではなく「少し考える時間をください」と言って間を空けるなど自分に合った対策を立てやすくなると言えるでしょう。

仕事の負担が減少する

仕事におけるコミュニケーションで悩んでいる方は、対処法を身につけることで同じような場面になったときにうまく対応できるようになり、結果としてそれまで負担になっていたことが解消される可能性があります。

例えば「急な仕事の依頼も断れるようになる」「忙しい上司への声掛けの内容やタイミングがわかるようになる」などのスキルが身につき、自分のペースを守って仕事を進めやすくなるといった効果が考えられます。

対人関係のストレスが減少する

SSTは基本的にグループで行われるため、ロールプレイなどのプログラムに何度も参加することで、話の聞き方、伝え方、相手の立場に立つことなど対人関係を円滑にするための方法を学ぶことができ、日常生活においても対人関係で感じていたストレスを減少させる効果が期待できます。

例えばSSTを通して「自分の気持ちの伝え方がわかってくる」「相槌のタイミングなど上手に話を聞くスキルが身につく」など、日常生活のコミュニケーションが円滑になる効果が考えられます。

服薬管理など生活のスキルも高まる

SSTは服薬管理など対人関係以外の生活のスキルについても効果があると言われています。精神疾患などの治療には服薬が欠かせませんが、飲み間違えてしまったり職場では飲むタイミングがわからなかったりと、適切に服薬できていない方も少なくありません。

SSTで、服薬について「小さい袋に1回分をわけておく」「ケースの色で朝昼夜の分をわけておく」「飲むタイミングをアラートで知らせる」など自分に合った対処法を身につけることができるという効果が期待できます。服薬以外にも家事や金銭管理など生活で困っていることに対してSSTを実践し、対処法を身につけていくこともあります。

SST(ソーシャルスキル・トレーニング)が受けられる場所

SSTは様々な場所で受けることができます。ここでは、大人を対象としたSSTを実施している主な場所を紹介します。

精神科デイケア

精神科デイケアとは、精神障害や発達障害のある方が利用でき、社会参加、社会復帰、復学、就労などを目指して通う場所のことです。

 

精神科デイケアによってプログラム内容は様々ですが、その中にSSTを実施している機関もあります。

地域若者サポートステーション

地域若者サポートステーションとは、現在仕事をしていない15歳~49歳までの方を対象とした、仕事に関するサポートを提供している機関です。通称サポステと呼ばれています。

 

サポステでは職業体験や就職活動のサポートの他に、職場でのコミュニケーションのプログラムも行っていて、場所によってはSSTを提供している場合もあります。

リワーク施設

リワーク施設とは、うつ病など精神疾患等で休職している方に対し、復職支援プログラムを提供する場所のことです。

 

リワーク施設では復職のために、自己分析や業務を想定した訓練などがありますが、その中にコミュニケーションプログラムとしてSSTを実施している場所もあります。

地域障害者職業センター

地域障害者職業センターとは、障害のある方に仕事に関する専門的な支援を提供している機関のことです。

 

センター内で作業体験など就職するための訓練に取り組みますが、コミュニケーション能力や対人対応力の向上のためのプログラムの中にSSTも取り入れられています。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターは障害のある方の生活と仕事の両面で支援を提供している機関です。

 

仕事に関しては、センター内での訓練や職場実習のあっせんなど就職のためのスキルを身につけるサポートをしていて、SSTを実施している場合もあります。

自立訓練(生活訓練)

自立訓練(生活訓練)とは障害のある方を対象に、自立した生活を送れるように困りごとへの対処法を身につけるプログラムや生活の悩みの相談へ対応などのサポートをしている機関です。

 

自立訓練(生活訓練)では家事など身の回りのことから、体調管理、金銭管理、コミュニケーションスキルを身につけるプログラムなどを提供していて、SSTを実施している機関もあります。

SST(ソーシャルスキル・トレーニング)のまとめ

SSTとはソーシャルスキル・トレーニングの略で、対人関係などのソーシャルスキルを身につけるための訓練のことです。社会生活技能訓練などと呼ばれることもあります。

 

SSTというと子どもが受けるものというイメージがあるかもしれませんが、大人向けに実施している機関も数多くあります。大人が受ける場合は「仕事を断ることができない」「職場の人間関係がうまくいかない」など、仕事に関する悩みを持っている場合が多いと言われています。

 

SSTのプログラム内容はディスカッション、ゲーム、ロールプレイなどいくつかあり、基本的には複数人のグループになって行われ、コミュニケーションで悩んでいる場面への対処法を身につけていきます。

 

SSTは精神科デイケア、地域障害者職業センター、自立訓練など様々な場所で受けることができ、場所によって内容も少しずつ異なっています。SSTを受けるか検討している方は、まずは相談してみるといいでしょう。

 

 

自立訓練(生活訓練)事業所を運営しているエンラボカレッジでは、SSTの要素を取り入れた独自のプログラムを提供しています。

コミュニケーションがうまくいかないなど一人ひとりの悩みや今後の希望を聞き取り、現状を整理したうえで個別の計画を作成し、その方に合ったペースでプログラムに取り組んでいただきます。

 

また、エンラボカレッジでは今後仕事を希望する方に対しても、仕事をする中で必要なコミュニケーション、自分の特徴に合った環境、対処法などを見つけていくサポートを行なっています。

 

エンラボカレッジでは無料の相談も受付中です。「コミュニケーションで悩んでいる」「対人関係がストレス」「自分の気持ちを伝えられるようになりたい」などの方はぜひ一度ご相談ください。

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