自立訓練と就労移行支援の違い、対象・支援内容について紹介します。
公開日:2023/06/30
「自立訓練」と「就労移行支援」は、どちらも障害のある方への支援で共通点も多いことから「自立訓練と就労移行支援の違いは何?」「どちらが自分に合っているのだろう」と疑問に思う方も多いと思います。
大きな違いで言うと、自立訓練は自立した生活のためのサポートを受けることができ、就労移行支援では働くためのサポートを受けることができる点が挙げられます。
他にも具体的なサービス内容、利用者の障害割合、卒業後の進路などに違いがありますので、この記事内で詳しく紹介していきます。
※本記事では、自立訓練の中でも「生活訓練」を中心に就労移行支援との違いを紹介いたします。
自立訓練と就労移行支援の違い
自立訓練と就労移行支援は障害のある方の社会参加へのサポートという共通点がありますが、目的やサービス内容に違いがあります。
自立訓練では自立した生活のための生活能力の維持・向上が目的なのに対して、就労移行支援では企業などへ就職するための知識やスキルを身につけることが目的となっています。
対象者
自立訓練の対象者
自立訓練(生活訓練)の利用対象者は、地域生活を営む上で、生活能力の維持・向上等のため、一定期間の訓練が必要な障害者と定められています。
引用元:厚生労働省「自立訓練(機能訓練・生活訓練)に係る報酬・基準について≪論点等≫
「生活能力」とは、家事や入浴、排せつ、着替えなどの身の回りのことから、金銭管理や交通機関の利用、コミュニケーション能力などを指して使われることが多い言葉です。
自立訓練(生活訓練)では、日常生活で困りごとがあり、生活能力についての訓練が必要と自治体が認めた方が対象となります。
就労移行支援の対象者
就労移行支援の対象者は、一般就労等を希望し、知識・能力の向上、実習、職場探し等を通じ、適性に合った職場への就労等が見込まれる障害者
引用元:厚生労働省「障害者総合支援法における就労系障害福祉サービス
と定められています。
「一般就労」という言葉はあまり聞かない言葉だと思いますが、まず障害のある方の働き方には「一般就労」と「福祉的就労」があります。
そして、一般就労は企業や官公庁(以下「企業など」)で雇用契約を結んで働くこと。福祉的就労とは障害福祉の事業所などで、サポートを受けながら働くことを意味しています。
つまり、就労移行支援では、企業などで働くことを目指していて、支援を受けて一般就労が可能と認められた方が利用対象となります。
自分が対象なのか、わからない場合は実際に自立訓練や就労移行支援の事業所で相談してみるといいでしょう。
対象年齢
自立訓練の対象年齢
自立訓練(生活訓練)の対象年齢は、法律などには定められておりません。事業者や自治体ごとに定めている可能性はありますが、基本的にどの年齢の方も対象となっています。
実際、自立訓練(生活訓練)では令和3年時点で、65歳以上の方も全体の3.8%に当たる503名が利用しています。
就労移行支援の対象年齢
就労移行支援の対象年齢は、自立訓練とは異なり「65歳未満」と明記されています。
ただし、65歳になる前に就労移行の利用が決まっていた場合などは、65歳以上の方も利用が可能です。
目的
自立訓練の目的
自立訓練(生活訓練)の目的は、自立した日常生活や社会生活を営むために、訓練などによって生活能力を維持・向上させることです。
一人ひとりの困りごとに合わせた金銭管理や体調安定など様々なプログラムを通して、その目的の達成を目指していきます。
就労移行支援の目的
就労移行支援の目的は、一般企業に就職して働き続けるためのスキルの取得や就職活動のサポートを行うことです。
また、単に就職するだけではなく、就職した後に長く働き続けるためのサポートも行っています。
サービスの内容
自立訓練のサービスの内容
自立訓練(生活訓練)のサービス内容としては、日常生活で困難を感じていることへの訓練や、生活に関する相談対応などがあります。
具体的には、「コミュニケーション方法の訓練」「体調や日常生活の訓練」「入浴、食事などの身の回りの困難への訓練」や、日常生活で困っていることへの相談対応などがあります。
就労移行支援のサービスの内容
就労移行支援のサービス内容は、就職のためのスキル取得、就職活動や就職後のサポートなどがあります。
業務に必要なスキル取得の訓練や、ビジネスマナー、自己理解のプログラムといった取り組みや、応募書類の添削、面接同行などのサポート、働いたあとの面談などのサポートがあります。
利用期間
自立訓練の利用期間
自立訓練(生活訓練)の利用期間は、「原則2年間」と定められています。
ただし、長期間入院した後に利用する方は「3年間」の利用が可能となっています。利用期間を最終的に判断するのは自治体です。
就労移行支援の利用期間
就労移行支援も利用期間は「原則2年間」と定められています。ただし、場合によって利用期間を最大1年間「更新」できることがあります。更新には申請が必要で、こちらも自治体の判断によって可否が決定されます。
利用者の障害割合
自立訓練の障害割合
自立訓練(生活訓練)の利用者の障害割合は、精神障害(発達障害含む)の方が66.4%と最も多くなっています。その次に知的障害の方が27.7%と多く、合わせると90%以上となります。
就労移行支援の障害割合
次に就労移行支援についてですが、厚生労働省では就労移行支援の障害割合のデータは公表していないので、東京都のデータをもとに紹介します。
就労移行支援の障害割合として、精神障害(発達障害含む)の方が71.7%と最も多くなっています。次に知的障害の方が18.1%で、こちらも合わせて90%を超えています。
自立訓練とは
自立訓練は障害福祉サービスの一つで、障害のある方が地域で自立した生活をするために必要な訓練や相談対応を行う場所です。
自立訓練には大きく分けて「生活訓練」と「機能訓練」の2種類があり、基本的な目的は同じですが、機能訓練では歩行の練習など身体的なリハビリテーションも行っています。
また、生活訓練には利用者が事業所へ通う「通所型」、スタッフが自宅へ訪問する「訪問型」、事業所に寝泊まりする「宿泊型」があります。
詳しいことを知りたい方は、以下の関連ページからご確認ください。
自立訓練(生活訓練)とは?対象者・利用期間・プログラム内容などについて解説します。
就労移行支援とは
就労移行支援とは、一般就労を目指す障害のある方へ、働くためのスキルの獲得や、就職活動のサポートを提供している場所のことです。
就労移行支援では、実務スキルやコミュニケーション能力などの働くために必要なスキル取得の訓練を提供するほか、就職活動や働いた後のサポートを提供しています。
こちらも、詳細を知りたい方は関連ページからご確認ください。
就労移行支援(就労支援)ってどんなところ?対象・利用料・内容・就職率に関して解説します。
自立訓練と就労移行支援の支援内容の違い
支援内容の違いでは、自立訓練(生活訓練)では日常生活での困りごとへの支援が多く、就労移行支援では仕事をする上での困りごとへの支援が多いという点があります。
体調管理やコミュニケーション能力の向上など一部に共通する支援内容はありますが、具体的な中身は異なっています。
例えばコミュニケーションについては、就労移行支援では職場の上司と部下を想定したやり取りの練習など、より実務に近い内容が多い傾向があります。
自立訓練の支援内容例
自立訓練(生活訓練)では利用者が自立した生活を送るために、日常生活や社会生活の訓練を提供するほか、働く準備を整えるサポートも行っています。
厚生労働省が、自立訓練(機能訓練、生活訓練)を運営する法人向けに生活訓練で重視している訓練内容を調査した結果、以下のような訓練を行っている事業所が多いようです。
- 社会生活力の向上
- 生活のリズムをつける
- 社会参加する力を高める
- 就労・復職への移行
- 自信をつける
- 自己管理能力を高める
- 仲間づくり
参考元:厚生労働省 平成30年度障害者総合福祉推進事業「自立訓練(機能訓練、生活訓練)の実態把握に関する調査研究」報告書
自立訓練の事業所によって重視される訓練内容は異なりますので、実際に見学のときなどに確認してみるといいでしょう。
就労移行支援の支援内容例
就労移行支援では、「働くためのスキル」「就職活動のサポート」「働いた後のサポート」を行っています。
働くためのスキルではパソコンの訓練など実務スキルから、体調安定や、コミュニケーションプログラムなどを行っています。
就職活動のサポートとしては、就職条件の整理、応募書類の添削、面接練習、本番の面接への同行などがあります。
働いた後は定着支援といって、定期的な面談や、何かあったときには職場との調整といったサポートをしています。
また、働くために必要な場合は自立訓練(生活訓練)と同様に、金銭管理や交通機関の利用方法の練習などの支援を行っている場合もあります。
自立訓練と就労移行支援の卒業後の進路
自立訓練(生活訓練)と就労移行支援で支援を受けた後の進路にも、違いがあるか紹介します。
まず、就職される方の割合ですが、自立訓練(生活訓練)では12.0%、就労移行支援では38.4%の方が就職しています。
参照:東京都福祉保健局「令和3年度 就労移行等実態調査 結果概要」
就労移行支援では就職が目的のため、やはり就職する方の割合が多くなっています。
対して自立訓練(生活訓練)では、目的は人によって大きく異なるため、卒業後の進路も幅広くなっています。
自立訓練(生活訓練)の進路では、就職される方もいれば元々通っていた大学や職場への復帰、同じ障害福祉サービスの就労継続支援の利用など様々な道があります。
その中には、自立訓練(生活訓練)で自信をつけて就労移行支援へ進むという方も多くいらっしゃいます。
「就職をしたいけど、体調に不安がある」「コミュニケーションスキルを身につけてから就職活動したい」という方は、最初は自立訓練(生活訓練)の利用を考えてみるといいでしょう。
自立訓練や就労移行支援を利用したいと思ったら
自立訓練や就労移行支援を利用するには、自治体に申請をして「障害福祉サービス受給者証(以下受給者証)」を取得することが必要です。
ここでは、利用するまでの基本的な流れを紹介していきます。
見学・相談する
利用したい自立訓練や就労移行支援の事業所を決めていきます。ほとんどの事業所では利用前に見学や相談ができますので、まずは見学・相談して目的や雰囲気が合いそうか確認するといいでしょう。
体験する
見学・相談して通えそうか確かめたら次は体験してみるといいでしょう。こちらもほとんどの事業所で行うことができます。
実際のプログラムを体験することや長い時間過ごすことで、見学しただけでは気づかなかったポイントにも気づける利点があります。
障害福祉サービス受給者証を自治体に申請する
通う事業所を決めた後は自治体の障害福祉窓口へサービス利用の申請を行います。
自治体の審査ののちに受給者証が発行され、それをもとに通う事業所と利用契約を結んだら正式にサービスの利用が可能になります。
自立訓練と就労移行支援の違いまとめ
自立訓練(生活訓練)と就労移行支援は、どちらも障害のある方が社会参加するための支援を提供しています。
共通する部分も多くありますが、自立訓練(生活訓練)が生活能力の維持・向上を目的としているのに対し、就労移行支援は働くための訓練や就職活動のサポートを目的としているという違いがあります。
就労移行支援では就職という大きな目的に沿った支援を受けることができ、自立訓練(生活訓練)では身の回りのことから支援を受けることができます。ミスマッチにならないように、見学や体験をして自身に合った事業所を選んでいくことが大事です。
また、自立訓練(生活訓練)を卒業した後で就労移行支援へ進むという方もいます。現在の困りごとや目的に合わせて選んでいきましょう。