大人のADHDとは?特徴や症状・診断方法に関して解説します。
公開日:2024/01/19
大人になってから「衝動的に行動してしまう」「仕事でケアレスミスが多い」「マルチタスクができない」などで困っている方もいると思います。
その困りごとにはADHDが関係しているかもしれません。ADHDはひとつのことに注意を向けることが難しかったり、衝動的な言動をすることが多かったりする発達障害の一つです。
ADHDは子どもに多く見られますが、大人になってから仕事のミスなどで気づく方も少なくありません。
大人の方がADHDによる困りごとを減らすには、病院の受診やADHDに関する知識を身につけて対策を取っていくことが大事です。
この記事では、ADHDの説明から、診断ができる病院、治療について、ADHDなど発達障害のある方が相談できる窓口などを紹介します。
大人のADHDとは?
ADHDとは不注意や衝動性、多動性という特徴があり、遅刻や忘れ物、ケアレスミスなどの困りごとが起こる発達障害の一つです。ADHDは子どもに多く見られるといわれていますが、大人になってからも困っている方もいます。大人のADHDのある方は、対人関係や仕事の進め方など職場での困りごとが多い傾向があり、特徴に合わせた対策が必要になってきます。
そもそもADHDとは
ADHDは「注意欠如・多動症」とも呼ばれていて、「不注意」「多動・衝動性」という特徴がある発達障害です。
ADHDはある研究では子どもの3~7%に見られるといわれていて、大人になると少なくなりますが、それでも2.5%程度の方がADHDに該当するとされています。
ADHDの特徴による困りごととしては
- 対人関係のトラブル
- 学業や仕事に集中できない
- 遅刻や忘れ物が多くなる
などが挙げられます。
また、ADHDのある方は日常生活や学校・職場などで困りごとが続くことで、ADHDとは別にうつ症状や引きこもりなど心身に影響が出る場合があり、これらを二次障害と呼んでいます。
ADHDのある方はこういった困りごとや二次障害を減らしていくためにも、病院での治療や各種サポートを受け対策を取っていくことが大切です。
発達障害とは
ADHDを含めた発達障害とは生まれつき脳機能の偏りによって様々な特徴があり、コミュニケーションや仕事など生活していく中で困りごとが生じる障害のことです。
発達障害にはADHDの他に、ASD(自閉スペクトラム症)、LD/SLD(学習障害/限局性学習症)などの分類があり、それぞれに特徴や困りごとが異なっています。
ASDは対人関係の困難や特定の物事や順番へのこだわりが見られる発達障害です。
LD/SLDは知的能力に遅れはありませんが、「読み」「書き」「計算」など特定の学習にのみ苦手がある発達障害です。
発達障害の分類によって必要な対策も変わってきますので、ご自身の困りごとの原因を明確にし、ご自身のことを把握することをおすすめします。
病院を受診することも選択肢の一つです。
発達障害について詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
大人のADHDの特徴
大人と子どもでADHDの特徴自体が変わるわけではありませんが、ライフステージが変わることで困りごとの中身は変わってくる傾向があります。
まず、ADHDには「不注意」と「多動・衝動性」という特徴があり、人によってどのような特徴が表れやすいかが変わってきます。
そして、この特徴と周囲の環境がうまく合わないことで、様々なことが困りごととして表れてきます。
大人でADHDのある方は子どものころと違い、職場など仕事面で困りごとが多くなるという特徴があります。
大人のADHDのある方の困りごとは
- ケアレスミスが多い
- 人の話をさえぎって話し始める
- 会議などでじっとしていられない
といったことが挙げられます。
ただ、ADHDと診断されたからといって、これらの困りごとすべてが表れるわけではありません。
ADHDは次に紹介するように特徴の表れ方によってタイプが分かれています。まずは、自身がどのタイプで、どのような困りごとが表れやすいかを知ることが大切です。
そのうえで、活用できるサポートや自身でできる対策を組み立てていくことで、これまで困っていたことも辛さを感じづらくすることができるといわれています。
ADHDは3つのタイプにわかれる
ADHDは「不注意」と「多動・衝動性」の特徴があると記載しましたが、人によって不注意が表れやすい「不注意優勢型」、多動・衝動性が表れやすい「多動・衝動優勢型」、どちらも表れる「混合型」に分かれています。
そして、このタイプによって困りごとが生じる場面も変わってきます。これから、それぞれの特徴を紹介します。
不注意優勢型
まずはADHDの不注意優勢型から紹介します。まず、不注意とは「一つのことに注意を持続するのが難しい」ということを意味しています。
不注意優勢型の方は何かをしていても、他のことに気を取られて途中になってしまったり、確認が不十分で間違えるといったことが多くあります。
具体的な困りごととしては以下のようなものがあります。
- 仕事でケアレスミスが多い
- 確認不足で見落としがある
- やりかけの仕事が溜まっていく
- 遅刻が多い
- 忘れ物・失くしものが多い
- 会議などで人の話を聞くのが苦手
- デスクやロッカーの整理整頓が苦手
多動・衝動優勢型
次にADHDの多動・衝動優勢型について紹介します。多動・衝動性は「じっとしているのが苦手」「思いついたことをすぐ口に出してしまう」ということが多く見られます。
そのことで、人の立場を考えず発言して怒らせる、会議などでじっとしていることが難しいといった困りごとが生じるといわれています。
さらに具体的な困りごとは以下のようなものがあります。
- 仕事をしていても別のことを始めてしまう
- 確認せずに衝動的に行動をしてしまう
- スケジュール管理が苦手
- マルチタスクが苦手
- 人の話の最中にしゃべり始めてしまう
- 相手が気にしていることでも衝動的に発言してしまう
- 指示などを最後まで聞けない
- 衝動的にお金を使ってしまう
混合型
ADHDの混合型は不注意と多動・衝動性両方が見られるタイプです。
混合型の困りごととしては、先に挙げた不注意優勢型と多動・衝動優勢型の困りごとがいずれも当てはまります。ただ、すべてが表れるわけではなく、人によって特徴の強さは異なっています。
例えば人からの指示を忘れることが多かったとして、それが不注意からきているのか多動・衝動性からきているのかによって対策も変わってきます。
他の発達障害が併存することもある
ここまで、ADHDのタイプについて紹介してきました。ただ、ADHDのある方は、先ほど紹介したASDやLD/SLDなど他の発達障害の特徴も一緒に表れることがあり、生じる困りごとも変わってきます。
また、ADHDの影響による辛い思いをしたことで、うつ病などの精神疾患が二次障害として生じていることも考えられます。
ADHD以外の困りごとも感じている場合は、現在病院に通っている方は主治医に伝え、まだ通っていない方は精神科や心療内科などを受診し相談してみるのもいいでしょう。
医療機関については後ほど詳しく紹介します。
ADHDの特徴は強みにもなる
ADHDの特徴は困りごとだけでなく、働くうえでの強みにもなり得ます。
ADHDの不注意や衝動性などの特徴は「好奇心の強さ」「即決する力」「行動力」「発想力」などにもつながっているといわれています。
そういった強みをうまく活かして仕事をしている方もいます。自身の特徴をマイナスとして捉えるだけでなく、プラスにもなることを知っておくと現在の仕事への取り組みや、就職活動をするうえで役に立つでしょう。
大人のADHDに男性と女性の特徴の違いはある?
ADHDは大人と子どもで異なる部分があると紹介しました。さらには、ADHDは割合や特徴の表れ方などで男女差も報告されています。それぞれ見ていきましょう。
男性・女性の割合
まずはADHDの性別による割合です。まず子どもについてですが、ADHDは男の子のほうが女の子よりも3~5倍多いといわれています。これは男の子の多動・衝動性が目立ち周囲に気づかれやすいことも影響していると考えられています。
その後成長するにつれて、男女比の差は埋まっていく傾向にあります。そして、成人した大人では男女差はほとんどなくなるといわれています。
男性・女性の特徴の違い
次はADHDの男女による特徴の違いについてです。先程の3つのタイプでいうと、男性は多動・衝動優位型が多い特徴があるといわれています。それに対して不注意優勢型は男女差は特に報告されていません。
ただこちらも子どもに関する調査が多く、男の子の多動・衝動性が目立ちやすいという側面も考えられます。
このように、ADHDは男女差が報告されていますが、対策を立てるときなどは性差ではなく本人の困りごとに焦点を当てていくことが大切です。
大人のADHDの診断方法
仕事でうまくいかないことが続くなど「ADHDかもしれない」と感じている場合は、診断を受けることも1つの選択肢です。
ADHDと診断が出れば自身の困りごとの原因がわかるほか、活用できる支援も増えるなどメリットがあります。
ADHDをはじめ発達障害は専門医のいる病院で、問診や心理検査などを通して診断を受けることが可能です。このあと診断までの流れを紹介します。
大人のADHDの診断できる場所
ADHDをはじめ発達障害の診断は、大人の発達障害を診断できる専門医がいる精神科や心療内科、発達障害外来のある総合病院などで受けることができます。
病院はインターネットで「お住いの地域名 大人 発達障害 診断」などで検索すると表示されます。
また、お住まいの自治体の障害福祉窓口や発達障害支援センターなどに相談をすることで、病院を紹介してもらえることもあります。病院が見つからないという方は活用してみるといいでしょう。
病院が決まったら予約をします。ほとんどの病院では即日診断を受けることは難しく、あらかじめ問い合わせて空いている日程で予約する必要があります。
病院によっては、発達障害の診断は混みあっていて数か月待つこともあるようです。「ADHDかも」「診断を受けてみようかなと」と悩んでいる方は、早めに動き始めると良いでしょう。
診断方法
ADHDの診断方法は大きく分けて「問診」と「心理検査」です。
問診では病院によって異なりますが、ADHDではと考えたきっかけや現在の様子、さらには子どもの頃の様子を聞かれることが多くあります。そのため、できれば母子手帳や学校の成績表、先生との連絡帳など子どものころのことがわかる資料を用意するようにしましょう。
予約を取った際に病院からも指示があると思いますが、何を持参していいかわからなければ、問診の前に問い合わせておくことが肝心です。
次に心理検査です。心理検査とは、さまざまな質問やテストを通して知能や発達に関する情報を検査していくことをいいます。
検査は大抵は一種類だけでなく何種類か行うため、1日では終わらないことも多くあります。ただ、以前に別の場所で心理検査を受けた方は、その結果を持参することが可能な場合もあるため、確認してみるといいでしょう。
問診や心理検査以外にも血液検査などを行う場合もあり、それらの結果を考慮したうえで医師が診断を行います。
診断も即日出るわけではなく、検査してから長い場合は数週間かかることもあるようです。
こちらも時間に余裕をもって臨むようにしましょう。
診断するか悩んだら
ここまでADHDの診断について紹介してきました。ADHDの診断を受けることで自身の傾向がつかめたり、使える支援が増えるなどメリットがあります。それに、予約や診断結果が出るまで時間がかかる場合も多く、受診する場合はなるべく早く動くことが大切です。
ただ、「ADHDと診断されたら仕事はどうなるだろう」など、色々と考えて戸惑う気持ちもあると思います。そういったときは、自身の中でメリットとデメリットを洗い出したうえで診断を受けるか決めていくといいでしょう。
ほかにも、いきなり医療機関に行くのではなく、まずはADHDについて相談できる窓口で今の困りごとや診断を受けるかについて相談する方法もあります。窓口の方のアドバイスも参考にして、総合的に考えていきましょう。
また、周囲の方がADHDの特徴があって診断をすすめたいという場合も、強要することはせずにまずは本人の気持ちを受け止めることが大切です。こちらも、周囲の方が相談できる窓口もありますので、活用するといいでしょう。
ADHDについて相談できる窓口は後ほど紹介します。
大人のADHDの治療方法
ADHDと診断を受けたあとは、主治医から治療方法の説明を受けることになります。
ADHDは生まれつきの脳機能の偏りが関係し生じると考えられているため、治療方針も根本治療ではなく症状を緩和することを目的としています。
ADHDの治療方法の代表的なものとして、服薬による治療や認知行動療法がありますので、それぞれ紹介します。
服薬による治療
ADHDにおける治療で薬が用いられることがあります。ADHDと診断されてもすべての方が行うわけではなく、症状に合わせて有効と判断されたときに処方されます。
薬には脳内の神経伝達物質に働きかけて、多動・衝動性を緩和するものなどがあり、薬によって効果の強さや持続時間などが異なってきます。また、ADHDの薬は効果が表れるまでに数週間かかるものもあり、医師と相談しながら時間をかけて進めていきます。
他にも、二次障害でうつ病や睡眠障害などがある場合は、それぞれの症状に対応する薬物療法を行っていくこともあります。
認知行動療法
ADHDの治療にも使われる認知行動療法とは、物事の捉え方を変えていくことで困りごとを軽減させていく治療法です。
うつ病など精神疾患に用いられることが多いですが、ADHDなど発達障害のある方に使われることもあります。
ADHDの困りごととしてよくある、「衝動的に行動してしまう」「計画を立てられない」「集中できない」などの状態に対して、客観的に問題を整理し、対策を組み立てていくといったことを行っていくことが多いようです。
環境調整
治療とは少し違うかもしれませんが、ADHDのある方の困りごとを解消するために「環境調整」という考え方があります。
ADHDの困りごとは特徴と周囲の環境とのミスマッチにより起こります。そのため、問題が起こらないように周囲の環境に働きかけていくというのが環境調整です。
例えば、他のことに気を取られて集中力の持続が難しい方は、デスクの周りをパーテーションで囲って気が散らないようにする方法、予定を忘れやすい方はTODOリストやスマホのアラームなどのツールを使う方法があります。
自身の対策だけでは困りごとの解消が難しい場合、上司と一緒に定期的に面談を行い業務の優先順位を確認する、業務は一つずつ指示をしてもらうなどの周りの協力を得る方法も環境調整としてあります。
まずは、自身でできることを考えて、難しい部分は職場と相談して環境調整を進めていくといいでしょう。
また、障害者雇用で働くことのメリットとして、紹介したような環境調整がすすめやすくなることがあります。障害者雇用で働く際には障害者手帳の取得が必要ですが、選択肢の一つとして自身にとってのメリットデメリットを確認し選んでいただけるといいと思います。
大人のADHDかも?と思ったときの相談先
ここでは、「ADHDかもしれない」と感じたときの相談窓口を紹介します。診断がなくても相談は可能なので、「診断を受けるか迷っている」という方も一度相談してみるといいでしょう。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターでは、年齢に関わらず発達障害や発達障害の可能性のある方からの相談を受け付けています。
ADHDに関する仕事での困りごとや、診断の受け方、病院の探し方などを相談することができ、専門のスタッフからアドバイスや医療機関の紹介を受けることができます。
また、家族や周囲の方からの相談も受け付けているので、周りにADHDかもしれないという方がいて何かお困りの場合は相談してみるといいでしょう。
保健センター
保健センターでは障害のある方やその周りの方からの相談を受け付けています。
保健センターは各地域にあり、ADHDについても相談することが可能で、専門的なスタッフからアドバイスや他の支援機関、医療機関の紹介を受けることもできます。
ハローワーク
仕事についての相談はハローワークで行うことが可能です。ハローワークには障害のある方専門の相談窓口があり、障害についての専門的なスタッフにより相談対応や求人紹介などを行っています。
また、障害者雇用で働くか迷っている方も、相談することが可能です。
自立訓練(生活訓練)
自立訓練(生活訓練)とはADHDなどの障害のある方の生活に関する様々なプログラムやサポートを提供している支援機関です。
支援内容は生活リズムやお金の使い方の管理、コミュニケーションなど日常に関する困りごとに対するものが多く、職場でのコミュニケーションやスケジュール管理、業務への集中の仕方などの仕事に関するプログラムを提供している場合もあります。
自立訓練(生活訓練)は障害者手帳がなくても、診断書があれば自治体の判断により利用可能な場合があります。ほとんどの事業所で見学や体験も実施しているため、ADHDで困りごとがある方は一度見てみるといいでしょう。
大人のADHDの方が仕事や生活で困ったら
自立訓練(生活訓練)事業所のエンラボ カレッジでは、一人ひとりの障害の特徴や現在の状況、今後の希望などを面談で伺ったうえで、どのようなサポートを提供するか決めていきます。
自身の感情、将来について、コミュニケーションなどをテーマにした8つのプログラムの座学や実践練習を通して、自分らしい困りごとへの対処法や自身の特性の活かし方などを見つけ、整理し取り組んでいきます。
また、プログラムを通してエンラボ カレッジを卒業後も活用できる「自分/支え方マニュアル」の作成も行います。自分/支え方マニュアルでは自身の凸凹を項目ごとにまとめて、人に説明しやすくしたツールで、仕事や日常生活の場面で使うことができます。
エンラボ カレッジにはADHDの困りごとがある方も多く通ってきています。無料での相談も随時受け付けていますので、「ケアレスミスが多い」「生活の管理が苦手」「コミュニケーションで失敗が多い」など困りごとがある方はぜひ一度ご相談ください。
大人のADHDまとめ
ADHDは「不注意」「多動・衝動性」といった特徴があり、周囲の環境とのミスマッチによって色々な困りごとが生じる発達障害の一つです。
ADHDには人によって不注意が表れやすい方、多動・衝動性が表れやすい方、どちらも表れる方とタイプが異なっていて、困りごとや対策も違ってきます。
ADHD自体は生まれつきの脳機能の偏りが関係し生じると考えられていますが、ライフステージごとに困りごとは変わってきます。
大人のADHDのある方の困りごととしては仕事の面でよく見られ、「ケアレスミスが多い」「衝動的に行動してしまう」「遅刻や忘れ物が多い」などが挙げられます。
一人で対策を行うことが難しいと感じた方は、専門医のいる病院で検査を受けることや、ADHDのある方が利用できる支援機関を活用していくことなども、困りごとの解消のための選択肢としてあげられます。