双極性障害とADHD(注意欠如・多動症)の違いとは?診断基準や併発・障害者手帳や年金について解説します。

公開日:2024/02/27

双極性障害は気分の波が激しいことが特徴の精神障害で、ADHDは注意が続かないことや思いついたことをすぐ実行するという特徴がある発達障害のひとつです。

この2つの障害は別のものですが、「ケアレスミスが多い」「衝動的な言動が目立つ」など似た要素があり、両方が生じることもあることから判断が難しいといわれています。

しかし、双極性障害とADHDは治療法や対処法が異なるため、正しい診断を受けて適切な対処を行うことが大事です。

今回は双極性障害とADHDそれぞれの特徴や診断基準、障害者手帳や年金が受け取れるか、相談できる支援先などを紹介します。

双極性障害とADHD

双極性障害とADHDはそれぞれ違う障害ですが、感情の激しさや衝動的な言動が目立つなど症状に共通点があることから区別が難しいことでも知られています。また、症状が似ているだけでなく、双極性障害とADHDが同時に発症する「併存」が起こる可能性があります。

 

双極性障害とADHDでは、外から見た症状が似ていても背景となっているものは異なっており、対処法や治療法も変わってきます。

 

そのため、双極性障害とADHDそれぞれの障害のことを知り適切な対応をしていくことが大切です。

双極性障害とは

まず双極性障害について紹介します。

 

双極性障害は気分が高まり活動的になる「躁状態」と、気分が落ち込む「うつ状態」という2つの症状が表れて生活に影響が出る精神障害の一種です。約100人に1人がかかるといわれており、以前は躁うつ病という名称が使われていました。

 

双極性障害の原因についてはまだ明確にはなっておらず、遺伝的な要因やストレスなどが考えられています。

 

躁状態では本人は非常に気分がいいのですが、不用意な発言などで周囲の方を傷つけたり、衝動的に買い物をしすぎてしまうことなどがあります。

 

また、うつ状態ではうつ病と同じく何もする気が起きなくなる他、躁状態の時の言動に対して自己嫌悪に陥るという場合もあります。

双極性障害の症状

双極性障害の症状は躁状態とうつ状態にわけられます。それぞれ具体的に見ていきましょう。

 

双極性障害の躁状態では以下のような様子が見られます

  • 2~3時間の睡眠でも元気に活動できる
  • 人の意見を聞き入れなくなる
  • おしゃべりになり話し続ける
  • 怒りっぽくなる
  • 様々なアイデアが次々と頭に浮かんでくる
  • 色々なことを始めるがやり遂げることができない
  • 細かいミスが増える
  • 根拠のない自信を持つようになる
  • 衝動的に買い物をするようになる
  • ギャンブルにお金をつぎ込むようになる

 

躁状態では、今挙げたようにエネルギーに溢れ活動的になり、人ともよく話すようになりますが、行き過ぎた言動も目立つようになります。

 

次にうつ状態での様子です。

  • 一日中気分が落ち込んでいる
  • 自分を責めることが多くなる
  • 身体が重く動けないようになる
  • 考えがまとまらなくなる
  • 食欲がなくなる(または増加する)
  • 眠れなくなる(または寝すぎる)
  • 頭痛や腰痛など身体に影響が出る

 

うつ状態では、基本的にうつ病と同じような気分の落ち込みや身体への影響が見られます。それとともに、双極性障害の方は躁状態のことを思い出して自責の念にとらわれるという特徴もあります。

双極性障害にはタイプがある

双極性障害には躁状態とうつ状態の表れ方によって「Ⅰ型」と「Ⅱ型」とタイプが分かれています。

 

双極性障害のⅠ型では、躁状態の激しさが特徴で、社会生活に大きな影響が出るほどの症状が表れることがあります。

 

対して双極性障害のⅡ型では、躁状態はⅠ型と比べると抑えめな軽躁状態が表れ、社会生活に影響が生じることがあります。

 

ただ、どちらが症状が軽いというわけではなく、双極性障害のⅠ型とⅡ型両方ともに辛い思いをしているため、適切な治療や対応をしていくことが求められます。

ADHD(注意欠如・多動症)とは

次にADHDについて紹介します。ADHDは注意欠如・多動症とも呼ばれていて、注意を持続することやじっとしていることが苦手という特徴のある発達障害の一種です。

 

ADHDは生まれつきの脳機能の障害により生じ、大人では100人に2~3人程度の割合でいるとされています。

ADHDの特性

ADHDには大きく分けて「不注意」と「多動・衝動性」という2つの特性があります。この特性と、本人がいる状況がうまくかみ合わないことで色々な困りごとが生じるとされています。

 

ADHDの不注意特性とは、注意を一つのことに向けることが難しいという特性で、以下のような困りごとが考えられます。

  • 仕事で集中力が続かない
  • 次々と別のものに注意が逸れる
  • ケアレスミスが多い
  • 人の話を最後まで聞けない
  • 遅刻が多い
  • 忘れ物、失くし物が多い
  • 納期を忘れて仕事が完了しない
  • 連絡漏れが多い

 

不注意特性により、仕事や日常生活のやりとりでのミスが多くなる傾向があります。

 

次に多動・衝動性特性とは、じっとしていられない・思いついたままを実行するといった特性です。この特性により以下のような困りごとが考えられます。

  • 人の話をさえぎって話すことが多い
  • 説明を聞く前に仕事に取りかかってしまう
  • 次々と色々なことに手を出す
  • 衝動的な発言で人との関係に影響が出る
  • 会議などの場面でじっとしていられない
  • スケジュール管理が苦手
  • 優先順位をつけるのが苦手

 

多動・衝動的性特性により、見通しを立てることが難しかったり衝動的な言動が元でトラブルになることがあるといわれています。

ADHDにもタイプがある

ADHDも双極性障害と同じく、特性の出やすさによってタイプに分かれています。

 

不注意特性が出やすい方は不注意優勢型、多動・衝動性特性が出やすい方は多動・衝動性優勢型、両方とも表れる方は混合型と呼ばれています。

 

ADHDについて詳しく知りたい方は、以下のリンクもご参照ください。

 

関連ページ:ADHD(注意欠如・多動症)の特徴・特性とは?大人・子どもの特徴や症状や困りごとについて解説します。

双極性障害とADHDで似ている特徴

ここまで、双極性障害とADHDそれぞれの症状や特徴について紹介してきました。

 

その中で、色々なことに手を出すことやケアレスミスが多くなるなど双極性障害とADHDに共通して表れる特徴がありました。

 

他にも、衝動的に発言して人間関係に影響が出るといった特徴も似ているといえるでしょう。

 

このように比べてみると双極性障害とADHDにはどちらの障害にも表れる特徴があるといえます。

 

ただ、特徴だけで判断をするのではなく、医師による診断を受けることが大事になります。双極性障害とADHDの診断場所や診断基準は次の章で詳しく紹介します。

双極性障害とADHDの診断基準

双極性障害とADHDは別の障害のため、診断基準も異なっています。ここでは、それぞれの診断ができる病院や診断基準を簡単に紹介します。

双極性障害の診断基準

まず、双極性障害の診断は精神科や心療内科などで受けることができます。

 

双極性障害の診察では現在困っていることや辛いこと、思い当たる症状などの質問をされる他、睡眠など身体の状態について聞かれることもあります。また、血液検査などの検査が行われる場合もあるようです。

 

そして、診察で聞いたことや本人の様子などを診断基準と照らし合わせて、医師が最終的に診断を行っていきます。

 

具体的には、躁状態が1週間以上、軽躁状態が4日以上、うつ状態が2週間以上続くことなどが診断基準として定められています。

ADHDの診断基準

ADHDの診断は双極性障害と同じように精神科や心療内科で受けることができる他、総合病院の発達外来などでも受けることが可能です。ただし、専門医がいることが条件なのであらかじめ確認しておくようにしましょう。

 

ADHDの診察では問診と心理検査が行われます。他にも、双極性障害と同様に血液検査などが実施される場合もあるようです。

 

問診では、現在困っていることだけでなく子どもの頃の様子の確認が行われます。お持ちの方は、母子手帳や学校の通知表など、幼少期のことがわかる書類を準備しておくと良いでしょう。

 

心理検査では、様々なテストを通して知的能力や発達の様子を測っていき、それらの結果をもとに診断基準と照らし合わせて医師が診断を行います。

 

ADHDの診断基準としては、

  • 不注意や多動・衝動性が同年代の人よりも頻繁にあること
  • ADHDの特徴が12歳以前から表れていること
  • 家庭と職場など複数の場面で特徴が表れること
  • 生活の中で困難が生じていること
  • 双極性障害など他の疾患によるものでないこと

などが定められています。

双極性障害とADHDは併発しやすい?

双極性障害とADHDは異なる障害と紹介してきましたが、一人の人に両方が同時に存在する「併存」をしている場合もあります。

 

ある調査においては、ADHDのある大人の方に双極性障害が併存している確率が20%程度あるという報告があります。

 

これはADHDとうつ病の併存率の9%と比べても2倍以上の確率で、双極性障害とADHDは併存しやすい障害といえるでしょう。

 

双極性障害とADHDが併存している場合は、それぞれ解消方法が異なるため病院での治療も両方に対して行われます。

 

双極性障害とADHDが併存しているかは個人で判別することは難しいため、自己判断はせずに医療機関を受診することや、相談機関で相談することが大切です。

双極性障害・ADHDの障害者手帳

双極性障害とADHDはどちらの診断であっても、障害者手帳を申請することが可能です。

障害者手帳とは、一定の障害があることを証明する手帳のことで、取得することで各種割引や税金の控除、福祉サービスの対象となるなどのメリットがあります。

 

また、障害のある方専用の求人である障害者雇用求人に応募することもできるようになります。

 

障害者手帳には身体障害手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳と3つの種類に分かれていて、双極性障害とADHDのどちらも、精神障害者保健福祉手帳が対象となります。

 

障害者手帳を申請するには、申請書やマイナンバーカード、医師の診断書などを揃えて自治体の障害福祉窓口に提出する必要があります。その後審査に通れば2か月程度で発行されるという流れです。

 

他にも条件などがありますので、障害者手帳の申請を検討している方は、主治医や障害福祉窓口に相談してみるといいでしょう。

なお、双極性障害とADHDが併存している場合は、どちらの障害で申請するかは状況により異なります。どちらの診断もある方も、主治医に相談してみましょう。

障害者雇用とは

障害者雇用とは障害のある方向けの働き方のことです。企業は従業員の数に応じて一定の割合で障がいのある方を雇用することを義務付けていて、その制度は障害者雇用率制度と呼ばれています。

 

障害者雇用ではあらかじめ企業に障害の詳細を伝えた上で働くことができるため、障害による得意や苦手に合わせた配慮を受けやすいといったメリットがあります。

 

障害者雇用で働くには障害者手帳を持っていることが条件です。障害者手帳を取得するには時間もかかるため、検討している方は早めに主治医などに相談するようにしましょう。

双極性障害の配慮例

双極性障害の方が職場で受けている配慮の例を紹介します。

 

双極性障害の方の配慮例は以下のようなものがあります。

  • 通院日に休みを取りやすくする
  • 体調が悪くなった時に休憩できるスペースを設ける
  • 日々体調をチェックして上司と共有する
  • 躁状態の兆候が見られた時の対応を決めておく
  • 体調に応じて業務量を調節する

気分や体調の波に対して、安定して業務ができるようにする配慮が多い傾向があります。

ADHDの配慮例

次にADHDのある方がどのような配慮を受けているかを見ていきましょう。

 

ADHDのある方の配慮例は次のようなものがあります。

  • 席を奥にするなど気が散らないような環境にする
  • 職場でのリマインダーアプリなどの使用を許可してもらう
  • 区切りの時間で声をかけてもらうようにする
  • 業務開始時と終了時に上司と進捗を確認する
  • 業務は一つずつレクチャーしてもらう

ADHDのある方は特徴に応じて環境や指示の仕方で配慮をもらい、業務に集中しやすい状況を作っていくという配慮が多く見られました。

双極性障害・ADHDの障害年金

双極性障害とADHDはどちらも障害年金の対象にもなります。障害年金とは、怪我や病気、障害などで生活に著しい困難がある方を金銭的に援助する公的な年金制度です。

 

障害年金には障害基礎年金と障害厚生年金の種類があり、初めて病院を受診した時に加入していた年金の種類によって申請できる年金が異なってきます。

 

障害年金の額は種類や障害の等級などによって異なりますが、障害基礎年金で2級の場合は令和5年の時点で年間約80万円となっています。

 

障害年金は診断があるだけでは申請することができず、障害の程度や保険料の納付状況などの要件を満たした場合に申請することが可能です。

 

障害年金の要件や申請方法は複雑なので、検討している方は日本年金機構や年金事務所などに相談するようにしましょう。

双極性障害やADHDの相談先

ここでは双極性障害とADHDによる悩みがある方へ、相談できる支援機関を紹介します。

基本的に障害者手帳がなくても相談することが可能なので、「双極性障害かADHDかわからない」という方も一度相談してみるといいでしょう。

自治体の障害福祉窓口

自治体では障害のある方向けの相談窓口が設置されています。困りごとがあって悩んでいる、診断を受けようか迷っているなどの悩みに対して、専門の職員が相談対応をしています。

 

状況を見て病院の紹介や他の支援機関との連携もしているため、双極性障害かADHDかわからず困っているという方も問い合わせてみるといいでしょう。

発達障害者支援センター

発達障害者支援センターは、ADHDなどの発達障害のある方やその家族などからの相談を受け付けている専門の機関です。

 

発達障害についての専門家がいるため、「ADHDかもしれない」という悩みに対してもアドバイスや医療機関の紹介などの支援を受けることができます。

地域保健センター

地域保健センターは地域の保健衛生の拠点で、精神障害や発達障害についての相談をすることも可能です。

 

障害についての専門家により、状況に合わせたアドバイスや医療機関などにつなげるサポートを受けることができます。

ハローワーク

求人の紹介や雇用保険の手続きなどを行っているハローワークには、障害のある方専用の相談窓口が設置されています。

 

窓口では、障害の専門スタッフにより、働くことの相談対応や求人の紹介、書類添削などのサポートを受けることが可能です。障害者求人の紹介もハローワークで受けることができますので、働き方で悩んでいる方は一度訪れてみるといいでしょう。

就労移行支援

就労移行支援は障害のある方の就職をサポートしている支援機関で、働くために必要な訓練や就職後に働き続けるための支援などを行っています。

 

利用者は事業所に通って、コミュニケーションや自己コントロール、業務スキルなどを身につけるためのプログラムに参加すると共に、仕事の相談や就職活動のサポートを受けることができます。

自立訓練(生活訓練)

自立訓練(生活訓練)は双極性障害やADHDなどの障害のある方向けに、自立した生活をサポートする支援機関です。

 

利用者は生活する中での困りごとを解消するために、スタッフとともに様々な取り組みを行っていきます。

 

自立訓練(生活訓練)事業所を運営するエンラボ カレッジでは、障害のある方一人ひとりの悩みに寄り添って最適なサポートを提供しています。

 

双極性障害やADHDという診断名だけにとらわれず、その人自身が困っていることを聞いたうえで、感情のコントロール方法や自分に合った仕事の進め方、スケジュール管理方法などを身につけるなど、目標に合ったプランをプログラムの提供と合わせて組み立てていきます。

 

無料での相談も実施していますので、「仕事でミスが多くて悩んでいる」「つい衝動的に行動してしまう」といった方はぜひご相談ください。

双極性障害やADHDのまとめ

双極性障害とADHDは異なる障害ですが、ケアレスミスの多さや衝動的な言動など共通する症状があるため見分けが難しいといわれています。また、両方の障害が併存することも多いことで知られています。

 

双極性障害は躁状態とうつ状態を繰り返すことで、生活や仕事などで困りごとが起こる精神障害の一つです。

 

対してADHDは、不注意と多動・衝動性という特性があり、様々な困難が生じる発達障害の一つです。

 

双極性障害とADHDは一見すると似た症状も多くありますが、その背景はそれぞれ異なっています。対処法や治療法もそれぞれ異なっているため、正しく診断を受けて適切な対処をしていくことが重要となります。

 

受診を迷っている、またはどの病院に行ったらいいかわからないという方は、障害について相談できる窓口に相談をすると紹介してもらえることもあります。

 

また、診断後に生活や仕事に関する困りごとを解消するために、支援機関の利用も考えていくといいでしょう。

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