発達障害のカミングアウトはどうすべき?親や職場への伝え方やメリット・デメリット
公開日:2025/01/14
発達障害であると診断を受けたとき、「自分は発達障害がある」ということを誰に伝えるか、迷う人は少なくないのではないでしょうか。子どもの頃に診断を受けたのであれば、親や家族は知ることになるかもしれませんが、大人になってから診断を受けた場合は、自分から伝えなければ、親や兄弟、恋人や親しい友人であっても、あなたに発達障害があるということを知る機会はないかもしれません。
このように、「自分が発達障害である」ということを周囲の人に打ち明けることを、「発達障害のカミングアウト」と呼ぶことがあります。発達障害のカミングアウトを行う際には、さまざまなメリット・デメリットが考えられます。今回の記事を読んで、自分が発達障害のカミングアウトをするべきかどうか、考えるきっかけにしてみてください。
発達障害のカミングアウトとは?
カミングアウトとは、一般的に「今まで誰にも言っていなかった自分の秘密を打ち明けること」を指します。元々は、性的志向や性自認など、LGBTQ+に関わる場面で使われる機会が多い言葉です。
発達障害においても、自分自身が「発達障害であること」を家族や友人、職場や周囲の人に打ち明ける場面で、「カミングアウト」という言葉を使用することがあります。
いつ・誰に・何を「カミングアウト」するのかは、当事者が決定することです。周囲の人がカミングアウトを強要することは許されません。
アウティングとは
「カミングアウト」は、自分で判断し、自分のことを周囲に伝えるかどうかを決めます。一方で、カミングアウトされた、発達障害など個人的な情報を、本人の了承なく別の第三者などへ口外することを「アウティング」と言います。たとえ「本人のためになる」という善意に基づく行為だったとしても、発達障害を含むプライベートな事柄を、自分の知らない間に広められるというのは、非常に大きなストレスです。人間としての尊厳が損なわれたと感じる人もいるでしょう。また、アウティングを行った後、いじめやハラスメントにつながるという問題点も指摘されています。もし、誰かから発達障害のカミングアウトを受けたとしても、絶対にアウティングを行ってはいけません。
発達障害のカミングアウト、する?しない?
発達障害のカミングアウトをするのかしないのか、するとしたら誰にするのかといったことに悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
障がい者総合研究所が2017年に行ったアンケート調査では、発達障害であることを伝えている相手として最も多いのは親で、発達障害であることを伝えている(すでに知っていた場合も含む)人は92%でした。次いで恋人が90%、親友が68%、親友以外の友人・知人が45%となっています。
親に発達障害をカミングアウトした結果
親に発達障害であることをカミングアウトした後、「関係が良くなった」と答えた人は30%でした。大多数は「変わらなかった」と答えた60%で、10%は「悪くなった」と回答しています。
また、発達障害であることを伝えた後、64%は「障害を理解してくれていると感じる」と答えていて、具体的には、
・自分のペースを尊重してくれるようになった
・障がいについて勉強し、いろいろ配慮などしてくれるようになった
・今までは単なる不注意や性格の問題と捉えられていたが、診断後はそれが障がいであることを理解し、接し方もそれに応じたものになってきていると感じる
といった声が聞かれました。
一方で、36%は「障害を理解してくれていないと感じる」と答えていて、具体的には、
・「自分の障害は他の人(知的障害や自閉症など)と比べると軽い」と言われるなど、軽視されている
・親の考える「普通」という価値観の押し付けがあり、私の「ありのまま」や「個性」を受け入れてくれていない感じがする
・知らなかったときと同様に、わがままだと言われる
といった声が聞かれました。
恋人・親友に発達障害をカミングアウトした結果
恋人に発達障害であることをカミングアウトした後、「関係が良くなった」と答えた人は25%でした。一方で、親にカミングアウトした後より、「変わらなかった」と答えた人が70%と多く、良い意味で変わらずに接してくれることが嬉しいと感じている方も多いようです。
発達障害であることを伝えた後、「障害を理解してくれている」と感じる人は68%、「障害を理解してくれていないと感じる」人は32%で、親に伝えた後の感じ方とそれほど差はありません。
障害を理解してくれていると感じたエピソードとしては、
・以前と全く変化なく接してくれている
・「今まで変だなと感じていたところは、障害が理由だとわかって逆に安心した」と言われた
・発達障害に関する書籍などで情報を集めて、実際に配慮してくれている
などがありました。逆に障害を理解してくれていないと感じたエピソードとしては、
・どれだけ説明しても、健常者と同じような行動を求められる
・発達障害の特性を何度伝えても、配慮がない言動が多い
・それまで個性的な人物として見られていたものが、障害者だとわかった途端、接し方がそっけなくなった
などが挙げられています。
知人に発達障害をカミングアウトした結果
知人に発達障害であることをカミングアウトした後、「関係が良くなった」と答えた人は20%、「伝える前と変わらない」と答えた人は66%、「悪くなった」と答えた人は14%で、親や恋人・親友と比較すると、「悪くなった」と答えた人が最も多い結果となりました。
発達障害であることを伝えた後、「障害を理解してくれている」と感じる人は60%、「障害を理解してくれていない」と感じる人は40%で、こちらも「障害を理解してくれていない」と感じる人が、他の親や恋人・親友と比較すると最も多くなっています。
具体的には、
・概ね伝える前と変わらず付き合えているが、中には障害を理解していない人や、知的障害と混同して私の障害に疑問を持っている人もいる
・障害を面倒臭いものと捉えられ、疎遠になってしまった、
・世間の情報をもとに漠然とした大変さは感じてくれるが、見た目ではわからないので、理解はあまりないと感じる
といった声が聞かれ、本人と伝える相手との関係性によって、カミングアウトした後の反応や接し方にも影響があることが伺えます。
発達障害のカミングアウトは必要?
発達障害があることをカミングアウトするのは、必ず必要というわけではありません。いつ・誰に・何をどこまでカミングアウトするかは、当事者本人が決めることができます。しかし、さまざまな事情から、発達障害についてカミングアウトしたいと思っていても、できないという事情もあるようです。
先述した障がい者総合研究所が行った別の調査では、発達障害であることをオープンにして働きたいかどうかについて、「とても思う」と答えた人が63%、「まあまあ思う」と答えた人が25%で、約8割が発達障害であることを職場にカミングアウトした上で働きたいと考えていることがわかります。しかし、実際に職場へ発達障害であることを伝えたかどうかを聞くと、67%の人は「伝えていない」と回答しました。
これは、発達障害であることを職場でカミングアウトすると、「仕事を続けられなくなる」「仕事を任せてもらえなくなる」という不安が強いことが原因と考えられます。また、仕事をする上では、発達障害の特性が出にくく、問題なく働くことができるため、わざわざカミングアウトする必要がないという人もいるようです。
一方で、親や兄弟、恋人や親友といった親しい間柄になると、一緒に過ごす時間が長くなる分、発達障害であることがわかっていた方が、お互いに配慮しながら気持ちよく過ごすことが期待できます。
発達障害の特性が原因で、対人関係でトラブルが発生することは少なくありません。発達障害であること、そのためにどんな環境・接し方が望ましいのか、本人や周囲の人がわかっていれば、トラブルを防止することもできるはずです。
しかし、発達障害であることをカミングアウトしたからと言って、すべてがうまくいくというわけではありません。先述のアンケート結果のように、「発達障害に理解が得られない」ということもあります。いつ、誰に、どんなことを、どんなふうに伝えれば、自分も周囲の人も生きやすい環境がつくれるのか、発達障害のカミングアウトをする前に考えてみましょう。
発達障害をカミングアウトすることのメリット・デメリット
発達障害をカミングアウトすることには、どんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。親、恋人・友人、職場の人にカミングアウトする場合に分けて考えてみましょう。
親にカミングアウトすることのメリット・デメリット
親に発達障害をカミングアウトすることのメリットとして、障害や個人の特性に対して理解が得られる可能性があるということが挙げられます。親と関わる中で、自分自身について否定されたり、行動を止められたりすることは、大きなストレスがかかります。親が障害を理解し、それを踏まえた上で関わり、応援してくれるのであれば、心強いサポートが得られるでしょう。
一方で、必ずしも障害に対して理解を示してくれる親ばかりではありません。発達障害という言葉が一般的になり、認知も広がってきてはいますが、まだ発達障害に対する偏見や誤解をしている人も少なくありません。親が発達障害に対して理解がない場合、逆に関係が悪化して疎遠になってしまったというケースもあります。普段の関係性や親の性格・人柄によって、発達障害であることをカミングアウトするかどうかは、判断が必要でしょう。
恋人・友人にカミングアウトすることのメリット・デメリット
恋人・友人にカミングアウトすることのメリットとして、関係が維持・改善しやすいことが挙げられます。
恋人や友人は、親と比べるとはじめから発達障害であることを知っているケースは少なく、相手との信頼関係やこれまでの関係性などを鑑みて「発達障害をカミングアウトするかどうか」を選ぶことができます。つまり、関係が悪くなりそうな場合は、カミングアウトしないという選択もできるということです。発達障害であることをカミングアウトした後に、関係性が良くなる可能性が高い、この人には発達障害であることをカミングアウトしても大丈夫だ、と思える相手にだけカミングアウトすることで、関係が変わらなかったり、むしろ良くなったりする傾向があるようです。自分を隠す必要がなくなり、より自然体で恋人・友人と付き合えるようになったという方もいらっしゃいます。
一方で、親と同じように、必ずしも全員が障害に対して理解を示してくれるわけではありません。ずっと一緒にいるという保証がない関係だからこそ、お互いに歩み寄る努力が必要でしょう。発達障害であることをカミングアウトすることで、それまでの関係性から決定的に変わってしまい、友情や愛情が失われる可能性もあります。発達障害のカミングアウトをする前に、信頼関係を構築しておくことが求められます。
職場の人にカミングアウトすることのメリット・デメリット
職場の人にカミングアウトすることのメリットは、障害のある方が働きやすくなるための合理的配慮を得やすい点です。発達障害の特性が理由で、特定の業務が苦手だったり、騒音などの職場環境が理由で仕事に集中できなかったりすることがあります。その際、発達障害であることをカミングアウトすることで、企業側から適切な配慮(サポート)を受けられるかもしれません。発達障害であることを職場の人にも理解してもらうことで、働く上でのストレスが減り、長く働き続けやすい傾向があります。
しかし、発達障害であることをカミングアウトしても、必ずしも配慮(サポート)を受けられるとは限りません。人員や働く人のスキル、会社側の発達障害に対する知見や環境整備にかけられる予算など、さまざまな要因から配慮(サポート)が得られないというケースもあるでしょう。職場の人に発達障害をカミングアウトすることで、働きにくくなったり、他者からの言葉に傷ついたりした経験がある人も少なくありません。また、発達障害に対して理解がない人が職場に多い場合、アウティングされるリスクも高くなるでしょう。職場の人に発達障害であることをカミングアウトするときは、どの範囲の人にまで、何を伝えるのか、慎重な判断が求められます。
発達障害をカミングアウトするときのポイント
発達障害は、人によってあらわれ方が大きく異なり、それぞれが抱える困りごとも違います。そのため、「このように伝えれば良い」という正解はありません。しかし伝え方を誤ると、これまでの関係性が大きく変わってしまったり、発達障害に対して適切な支援や理解が得られなかったりする可能性があります。
発達障害をカミングアウトするときのポイントとしては、自分は発達障害のためにこんな特性があり、そのためにできないこと・苦手なことはなにかを明確に伝えることです。加えて、その困りごとに対して、どのようなサポートが望ましいのかを伝えましょう。ただ、「発達障害なんだ」「こういうことができないんだ」と一方的に伝えるだけでは、相手がネガティブに受け止める可能性があります。
例えば、「私はADHD(注意欠如多動症)があり、言われたことを忘れやすい傾向があるので、タスクなどは口頭ではなくメールやチャットなど、書面に残してもらえると管理しやすいです」といった伝え方であれば、相手もどのように対処すれば良いのか理解しやすいでしょう。
また、自分のことばかり理解してもらおうとするのではなく、相手の反応も見ながら、相手のことも理解しようとする姿勢が必要です。発達障害に対して知識がある人ばかりではありません。突然、発達障害のカミングアウトを受けて戸惑う人もいるでしょう。また、カミングアウトを1回すれば終わりというわけではなく、時間をかけて発達障害の特性を理解してもらう必要がある場合もあります。
発達障害をカミングアウトするときは、これらのポイントを押さえて、自分自身も障害と向き合いながら、周囲の人と一緒に理解を深めていくきっかけにすると良いかもしれません。
大人の発達障害の相談先や相談方法・支援機関を紹介します。
まとめ
発達障害のカミングアウトをするのか、しないのかについて、正解はありません。一人ひとり状況が異なるため、発達障害のカミングアウトをすることでメリットが大きい人もいれば、逆にデメリットの方が大きい人もいるでしょう。本来であれば、どんな人であれ、発達障害についてカミングアウトすることに不安がなく、一人ひとりが自分らしく生きられることが望ましいのですが、実情としてそれが難しい場合もあります。
発達障害をカミングアウトするかどうかは、本人の判断が最も尊重され、自分自身で決めることができます。一方で、一人ではカミングアウトした方が良いのか判断がつかない、どんなふうに周囲に伝えれば良いのかわからない、という方もいらっしゃるかもしれません。
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発達障害のカミングアウトについて、スタッフと一緒に考えることができます。発達障害のカミングアウトに迷っている方は、一度ご相談ください。
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