知的障害のある方の一人暮らしとは?必要な準備と支援を解説
更新日:2026/07/13
知的障害のある方の一人暮らしに向けて、何から準備すべきか迷う当事者や、「親なき後」の生活に不安を抱くご家族は少なくありません。
一見ハードルが高く思える単身生活ですが、本人の状況に応じた支援や公的な福祉制度を組み合わせることで、実際に一人暮らしを実現しているケースもあります。大切なのは、いきなり完璧を目指すことではなく、福祉サービスの力も借りながら、お金の管理や家事といった生活の力を一つずつ整えていくことです。
この記事では、一人暮らしが可能かという疑問から、想定される生活費や必要な生活スキル、活用できる公的な支援や相談先、そしてご家族ができる将来への備えまでを紹介します。
知的障害のある方は一人暮らしできる?まず知っておきたいこと
「自分だけで生活するのは難しいかもしれない」と不安に感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここでは、一人暮らしを検討するうえで、まず押さえておきたい前提を整理します。
知的障害のある方が、適切なサポートを受けながら地域で自立した生活を送ることは、福祉制度における重要な選択肢の一つとして定着しつつあります。実際に、専門の支援を受けながら、ご自身の住まいで生活を送っている方もいます。
ここで大切なのは、すべての家事や手続きを一人で抱え込む必要はない、ということです。お金の管理や役所の手続き、急なトラブルへの対応など、苦手な部分や不安な要素を補うための公的な制度や相談窓口が用意されています。
そうした外部の支えを前提にすれば、一人暮らしは「できるかできないか」という二択ではなく、「どのような支援を組み合わせれば、安心して暮らせるか」という視点へと変わっていきます。
障害の程度や区分によって利用できる福祉サービスの内容は異なるため、まずはご自身の状況に合った制度を知ることから始めてみましょう。
軽度・中等度・重度で変わる「必要なサポートの量」
知的障害は、知的な発達の状況や、日常生活でどのくらい支援が必要かによって、軽度・中等度・重度・最重度といった区分で考えられる場合があります。
この区分は、知能指数(IQ)の数値だけで機械的に決まるものではありません。
言葉でのやりとりや、食事・着替え・お金の管理といった日常生活の自立度を、専門機関が総合的にみて判定するのが一般的です。また、実際に公的な福祉サービスを利用する際は、自治体ごとに決定される「障害支援区分」なども関わってきます。
一人暮らしを考えるうえで大切なのは、「程度が軽いほど一人暮らしができる」と単純に線を引くことではありません。どの段階にあっても、必要なサポートの量や種類が違うだけで、その人に合った支えがあれば生活を組み立てていけるケースがあります。
たとえば、軽度の場合は、お金の使い方や対人関係といった一部の場面で支援があると安心して過ごせる方もいます。中等度や重度の場合は、より手厚い見守り体制や、福祉サービスが充実した住まいの工夫が合うこともあります。
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一人暮らし・グループホーム・実家、選択肢は一つではない
住まいのかたちは、一人暮らしか実家か、という二択にとどまりません。
「いきなり一人暮らし」を目指すのではなく、まずは実家で生活の力を整えてから、支援つきの住まいを経て、少しずつ一人暮らしへ近づいていくといった、段階を踏む進み方もあります。
たとえば、「グループホーム(共同生活援助)」は、スタッフの見守りやサポートを受けながら少人数で暮らす住まいです。一人暮らしへ移行する前の練習の場として活用する方もいれば、その人らしい安心できる暮らしの形として長く利用する方もいます。
また、グループホームの形態によっては、より一人暮らしに近い環境で過ごせる「サテライト型住居」などが用意されている場合もあります。
どの選択肢が良い・悪いということではありません。
ご本人の状態や希望、その時々の状況に合わせて、住まいのかたちは柔軟に変えていけるものです。
一人暮らしでつまずきやすい場面と、必要になる力
「一人で暮らし始めたものの、何から手をつければいいか分からなくなった」
生活環境が大きく変わることで、このような場面に直面するケースがあります。
一人暮らしでは、これまでご家族などが担っていた家事や手続きを、少しずつ自分で行っていく必要が出てきます。
ここでは、事前に知っておきたいつまずきやすい場面と、そこで必要になる具体的な力についてみていきます。
お金の管理(家賃・生活費・衝動買い)
一人暮らしで最初の壁になりやすいのが、お金の管理です。
毎月決まって支払う家賃や光熱費を給料日や年金の支給日まで計画的に残しておくことや、食費や日用品にいくらまで使えるかを考えながら買い物をする金銭のやりくりに、難しさを感じる方は少なくありません。
「ほしいと思うとつい買ってしまう」「気づいたら今月のお金が足りない」という衝動的な使い方に悩むケースもあります。
こうした場面では、お金を使いすぎないための物理的な工夫が助けになります。
週ごとに使う分だけを小分けにしておく方法や、プリペイドカードのように使える金額の上限を決めておく方法などを取り入れている方もいます。
なお、お金の管理を一人で抱え込まずに、専門の支援員がサポートしてくれる公的な仕組み(日常生活自立支援事業など)を活用する方法もあります。
家事・生活リズム・健康と服薬の管理
掃除や洗濯、食事の準備といった家事も、毎日継続するとなると負担に感じる場面があります。
一人暮らしでは、声をかけてくれる人がいない分、生活リズムが乱れやすくなることもあります。夜ふかしが続いて朝起きられなくなったり、食事が偏ったりするケースです。
また、体調をくずしたときに自分で気づいて休むことや、主治医から処方された薬を飲み忘れないように管理するといった、健康面のセルフケアも大切になります。
これらは、もともと得意・不得意の差が出やすい部分です。最初からすべてを完璧にこなそうとするのではなく、お惣菜や便利な家電、服薬カレンダーなどの道具をうまく見つけて、無理のない範囲で続けていくことが定着のコツとなります。
近隣・対人関係と、困ったときに助けを求める力
一人暮らしでは、近所づきあいや、管理会社・大家さんとのやりとりも発生します。
ゴミ出しのルールや、テレビ・足音などの生活音への配慮など、地域のきまりに関する行き違いが、思わぬトラブルにつながる場面もあります。こうしたときに、相手の意図をくみ取ったり、自分の状況を言葉で伝えたりすることに難しさを感じる方もいます。
そして、一人暮らしを継続するうえで非常に大切とされるのが、「困ったときに助けを求める力(SOSを発信する力)」です。
自分一人で何とかしようと抱え込むのではなく、「これは誰に相談すればいいだろう」と考え、周囲や専門の窓口に声をあげる。
この力があるかどうか、また周囲に相談できる環境が整っているかどうかで、一人暮らしの安心感と安定性は大きく変わってきます。
一人暮らしに必要な生活費の目安
「生活費は、毎月どのくらいかかるのだろう」
お金の不安は、一人暮らしを具体的に考えるうえで多くの方が直面する疑問です。
一般的に、単身世帯の1ヶ月の生活費(食費、光熱費、通信費、日用品費など)は、住居費を除いて10万円から13万円前後がひとつの目安とされていますが、お住まいの地域や暮らし方によって実際の金額は大きく変わります。
ここでは、主な費用の項目を整理します。
家賃は、一人暮らしの支出の中で最も大きな割合を占める固定費です。地域や物件の条件によって幅があり、都市部ほど高くなる傾向があります。
光熱費(電気・ガス・水道)は、季節や部屋での過ごし方で変動します。特に冷暖房の使用頻度が高まる夏と冬は、支出が増えるケースが一般的です。
食費や日用品費は、自炊の頻度や買い物の傾向によって個人差が出やすい項目です。あらかじめ無理のない範囲で、週ごと・月ごとの予算を決めておくと管理がしやすくなります。
通信費(スマートフォンやインターネットの利用料金)も毎月の固定費となります。格安プランへの見直しなどにより、負担を抑えられる場合があります。
これらを合わせると、毎月一定の費用が継続してかかります。だからこそ、想定される支出と後述する収入とのバランスを事前に把握しておくことが、安定した生活への第一歩となります。
収入の柱になりうるもの(障害基礎年金・就労収入・手当)
一人暮らしの生活費をまかなう収入として、いくつかの公的な制度や仕組みが考えられます。
一つは、就労による収入です。障害者雇用や一般雇用、あるいは就労継続支援(A型・B型)など、ご本人の特性や体調に合わせた働き方で収入を得ている方がいます。
もう一つの大きな柱となるのが、障害基礎年金です。
これは、法律で定められた一定の障害の状態にある方が受け取れる公的な年金です。障害基礎年金には1級と2級があり、国によって支給額が定められています。
ただし、受給要件を満たしているかや、どちらの等級に該当するかなどは個別の審査となるため、詳しくはお住まいの自治体の窓口や年金事務所へ確認が必要です。
このほか、国の制度である特別障害者手当や、自治体独自で支給している福祉手当などが用意されている場合があります。
利用できる制度やその申請条件は、個人の状況や地域によって異なるケースが多いため、担当の相談支援専門員や自治体の障害福祉窓口と相談しながら確認を進めることが大切です。
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一人暮らしを支える公的な支援・相談先
「一人ですべてをやらなければならない」と思うと、一人暮らしは非常に高いハードルに見えてしまうかもしれません。
しかし、実際には、一人暮らしの開始や継続を支えるための公的な支援制度や相談窓口がいくつも用意されています。
ここでは、知っておきたい代表的な仕組みを紹介します。
日常生活自立支援事業(金銭・書類の管理サポート)
日常生活自立支援事業は、認知症高齢者や知的障害のある方など、判断能力に不安のある方が地域で安心して暮らせるよう、福祉サービスの利用手続きや日常的なお金の管理などをサポートする仕組みです。
具体的な支援内容としては、福祉サービスの利用に関する相談や手続きのお手伝い、預貯金の払い戻しや公共料金の支払いといった日常的なお金の出し入れの援助、大切な通帳や書類を預かるサービスなどがあります。
この事業は、都道府県や指定都市の社会福祉協議会が実施主体となり、地域の社会福祉協議会などが窓口となっています。
利用を検討される場合は、お住まいの市区町村の社会福祉協議会に相談してみる方法があります(利用にあたっては一定の利用料がかかる場合があります)。
相談支援専門員・基幹相談支援センター
一人暮らしの準備において「まず誰に相談すればいいか分からない」というときの総合的な窓口になるのが、相談支援専門員や基幹相談支援センターです。
相談支援専門員は、障害福祉サービスの利用計画(サービス等利用計画)の作成や、生活上の困りごとの相談に応じてくれる専門職です。どのような支援が使えるか、どう組み合わせるかを本人の希望に合わせて一緒に考える役割を担っています。
基幹相談支援センターは、地域の相談支援の中核的な役割を持つ公的機関です。障害の種別や年齢を問わず、総合的な相談を受け付けている場合が多くあります。
「何から手をつければいいか分からない」という初期の段階であっても、こうした相談先に一度つながっておくと、その後の準備や手続きがスムーズに進めやすくなります。
障害福祉サービス(自立訓練・グループホーム・自立生活援助等)
障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの中にも、一人暮らしを支える具体的なプログラムがあります。
たとえば、「自立訓練(生活訓練)」は、日常生活を営む力を高めるためのサービスです。
生活リズムの整え方や金銭管理、対人関係といった、一人暮らしに必要なスキルを練習する場として活用する方もいます。
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―自立訓練(生活訓練)とは|対象者・期間・プログラム・費用を解説
「グループホーム(共同生活援助)」は、スタッフの支援を受けながら少人数で共同生活を送る住まいです。一人暮らしへ移行する前段階の選択肢として利用されることもあります。
さらに、実際に一人暮らしを始めた後に、定期的な訪問や随時の連絡によって生活の困りごとをサポートしてくれる「自立生活援助」というサービスもあります。
これらの福祉サービスを利用するには、お住まいの自治体への申請や「受給者証」の発行手続きが必要です。
ご本人の状況や希望にどのサービスが合うかは、相談支援専門員と相談しながら決めていくのが一般的です。
親なき後に向けて、家族が今からできる備え
「自分がいなくなった後、この子はどうなるのだろう」
知的障害のあるお子さんを育てるご家族にとって、将来の生活設計は非常に切実な課題です。
将来への備えは、一度にすべてを決定する必要はありません。
ご家族が健康なうちからできることを少しずつ積み重ね、外部の支援者とつながりを作っていくことが、ご本人とご家族の双方の安心につながります。
お金と契約を守る仕組み(成年後見制度など)
ご本人の財産や契約を守るための公的な仕組みとして、成年後見制度があります。
成年後見制度は、判断能力に支援が必要な方に代わって、専門職や親族などが財産の管理や福祉サービスの契約手続きなどをサポートする制度です。予期せぬ消費者トラブルや、不利な契約からご本人を守る役割があります。
このほか、先述した日常生活自立支援事業も日常的な金銭管理を支える選択肢となります。
また、将来の財産管理の手法としては、家族信託(民事信託)などの仕組みが検討されることもあります。
どの仕組みが適しているかは、ご本人の判断能力の状況や財産の規模、将来希望する暮らし方によって異なります。
それぞれの制度にはメリットだけでなく、利用期間や費用の面での留意点もあるため、検討の際は家庭裁判所や自治体の相談窓口、専門の弁護士や司法書士などに相談しながら慎重に進めることが大切です。
「いきなり」ではなく段階的に自立を進める考え方
「親が元気なうちに、何もかも一人でできるようにさせなければ」と、焦りや不安を感じるご家族も少なくありません。
しかし、自立とはある日突然すべてを一人でこなせるようになるものではありません。ご家族が同居している段階から、日常生活の中で本人ができる役割を少しずつ増やし、同時に外部の福祉サービス(ショートステイや移動支援など)を体験させておくといった、段階的な歩みが無理のない移行につながります。
その過程で大切とされるのが、ご本人の「こうしたい」「これは苦手だ」という意思を尊重し、選択する経験を積むことです。
周囲が良かれと思って先回りしすぎず、小さな失敗や成功を経験できる環境をつくることが、将来の自立に向けた力になります。
将来の住まいや暮らし方について、ご本人や担当の相談支援専門員と一緒に少しずつ話し合いの場を持っていくこと。その積み重ねが、将来を見据えた確かな備えへの一歩となります。
一人暮らしに向けた準備の進め方
「一人暮らしがしたいけど、何から始めればいいんだろう」
そう感じている方に向けて、段階的な準備の進め方を紹介します。
一人暮らしに必要な生活力は、最初から完璧に備わっている必要はありません。家事やお金の管理も、安心できる環境で練習を重ねることで、少しずつ身につけていくことができるものです。
たとえば、障害福祉サービスの「自立訓練(生活訓練)」のように、専門の支援員と一緒に生活の力を練習しながら身につけられる公的な場を活用する方法もあります。
就労を目指す前段階として、まずは日々の生活を安定させる土台づくりから始めてみるという進み方も、自立を長く継続させるためには有効な選択肢となります。
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― 自立訓練の対象者は誰?年齢・障害種別・アルバイト併用の条件解説
まず身につけたい生活スキルを一つずつ
一人暮らしに向けて身につけたい生活スキルは多岐にわたりますが、すべてを同時に行おうとすると負担が大きくなってしまいます。
そのため、以下のような項目を一つずつクリアしていく方法が一般的です。
- 決まった時間に起床し、一日の生活リズムを整える
- 一週間分の食事のメニューや、買い物の計画を立ててみる
- 手元にあるお金を目的別に分けて、計画的なやりくりを練習する
- 主治医の指示通りに、薬や通院の予定を自分で管理してみる
こうした生活スキルを、いきなり本番の一人暮らしで試すのではなく、実家や福祉サービスなどの安心できる環境で事前に練習しておくと、単身生活を始めてからの不安を和らげることができます。
一人で抱え込まず、相談しながら進める
準備を進めるうえで、もう一つ大切とされるのが、周囲の力を借りるということです。自分一人ですべてを抱え込む必要はありません。
「自分の得意なことや苦手なことは何か」「困ったときに、どんな配慮やサポートがあると助かるか」
こうしたご自身の特性や希望を整理し、周囲の人に伝えられるように準備しておくと、いざというときに必要な支援を得やすくなります。
エンラボカレッジでは、こうした自分の特性や必要なサポート内容を書きまとめた「自分/支え方マニュアル」を作成する取り組みを行っています。
緊急時の対応や、周囲に知っておいてほしい配慮を具体的な言葉にして持っておくことは、一人暮らしを始めてからの安心感にもつながります。
一人暮らしへの準備は、信頼できる専門家や相談相手と一緒に進めていくほうが、より確実で心強い歩みとなります。
一人暮らしや自立を目指して自立訓練を活用した方の事例
一人暮らしや地域での自立した生活に向けて、実際にステップを踏み出した方々は、どのような道のりを歩んでいるのでしょうか。
ここでは、エンラボカレッジの自立訓練(生活訓練)を経て、自分らしい将来への一歩を踏み出した2つの事例をご紹介します。
※画像はイメージです
【事例1】対人と生活の悩みを乗り越え、伝える力を育んだ20代の方(Fさん)
軽度知的障害のある20代のFさんは、利用前、「相手の言葉を深く気にしすぎてしまう」「不満やモヤモヤを一人で溜め込んでしまう」といった人間関係の難しさや、夜型の生活リズムに起因する不眠に悩まされていました。
「社会に出て働き続けられるか」という強い不安を抱える中で、支援学校の先生からの紹介をきっかけに、まずは生活の土台を整えるために自立訓練の利用を決意しました。
見学の際、スタッフが無理に距離を詰めず、本人のペースに合わせたコミュニケーションをとってくれたことで、「急がなくていいんだ」という安心感を持てたことが決め手になったといいます。
通所を始めた当初は、週3〜4日、午前中のみというスモールステップからスタートしました。最初の目標は、安定して通うこと、そして自己理解を深めることでした。
特に変化のきっかけとなったのは、コミュニケーションや感情学のプログラムです。それまでは一度失敗すると「もうダメだ」と思い込みがちでしたが、「失敗しても関係は続くし、やり直せる」という視点を得たことで、過度な不安が和らいでいきました。
また、自分がどのタイミングで疲れやすいかを知るワークを通じて、無理をしすぎないセルフケアの意識も芽生えました。
1年3ヶ月の通所を経た現在、Fさんは自分の考えや気持ちを少しずつ言葉にして周囲に伝えられるようになり、睡眠状況も大幅に改善しています。
現在は、さらにステップアップするための準備期間として、就労移行支援事業所の見学を進めながら、自身の特性をまとめた「自分/支え方マニュアル」の作成に取り組んでいます。
将来は、興味のある美容やアパレルの仕事への挑戦や、誰かと一緒に住む暮らしを視野に入れ、着実に準備を進めています。
【事例2】強い不安を解消し、自立訓練を居場所に自分らしい進路を見つけた10代の方(Hさん)
不安を伴う軽度自閉症・知的障害のある10代のHさんは、高校時代、将来への強い不安と「自分に自信が持てない」というネガティブな気持ちに悩んでいました。
「働きたい」という意欲はありつつも、進路の選択に迷い、気持ちが内向きになっていた時期に、学校の先生からエンラボカレッジを紹介されました。
もともとは大学進学を希望していたものの学力面での懸念があり、現実的な進路変更を迫られていたHさん。
見学の際に、カフェのような落ち着いた居心地の良い空間に触れ、「ここなら無理をせず、落ち着いて過ごせそう」と感じたことが利用のきっかけとなりました。
Hさんも、まずは通所を安定させることを第一目標とし、午前中のみの通所からスタートしました。
「毎日完璧に通う」ことを目指すのではなく、「今日は来られた」「プログラムに参加できた」という日々の小さな肯定感を積み重ねていきました。
特に印象に残っているプログラムとして、感情学や「My Lab.(自己理解)」を挙げています。自分の気持ちを言葉にすることや、自身の障害特性(得意・苦手)を客観的に整理する術を学んだことで、他者と自分を比べることなく「今の自分のままで大丈夫なんだ」と思える心の余裕が生まれていきました。
通所2年目を迎える現在、Hさんの表情や雰囲気は周囲からも「明るくなった」と言われるほど変化しています。
対人関係の不安が減り、日々の生活習慣が安定したことで、現在は大切なパートナーとの将来の同居や結婚という目標も具体的に思い描けるようになりました。
現在は、一般企業での就労という目標に向かって、就労移行へのステップアップを見据えた見学や体験を自分のペースで着実に進めています。
小さな積み重ねが、将来の確かな安心につながる
ご紹介したお二人の歩みのスピードや目標はそれぞれ異なりますが、共通しているのは「いきなり完璧な自立を目指したのではない」という点です。
まずは安心できる環境に身を置き、生活リズムを整え、自分の得意・苦手(特性)を正しく知る。
そして、困ったときに「助けて」と周囲に伝える練習を重ねる。このスモールステップの積み重ねこそが、一人暮らしや就労といった将来の自立を支える最も強固な土台となります。
すぐに答えを出そうと焦る必要はありません。
ご自身やご家族のこれからの生活をイメージするための参考に、まずは専門の相談先や、実際の訓練の様子を見学することから始めてみてはいかがでしょうか。
業界全体の支援傾向|公的データと今後の見通し
知的障害のある方の地域生活を支える仕組みは、近年、国や自治体を挙げて少しずつ広がりを見せています。
厚生労働省などの公的データ(障害者支援のあり方に関する調査研究など)によると、住み慣れた地域で暮らす知的障害のある方の居住形態は、約81.7%が「親や親族との同居(実家など)」となっています。
一方で、完全な「一人暮らし」を選択している方の割合は約7.1%、福祉サービスである「グループホーム(共同生活援助)」を利用して暮らしている方の割合は約8.8%となっています。
この「一人暮らし」の割合自体は近年ほぼ横ばいで推移していますが、その手前や並行した選択肢となる「グループホーム」の利用者数は、国の地域移行方針に伴い、ここ10年以上にわたって右肩上がりに増加を続けています。
このように、現状は8割以上の方がご家族と同居しているからこそ、将来の「親なき後」を見据えて、本人が実家以外の地域で安心して自立した暮らし(グループホームや一人暮らし)に移行するための支援ニーズは年々高まっています。
また、これら地域での生活(在宅)に該当しない居住形態としては、公的な「障害者支援施設への入所」や「医療機関への長期入院」といった形態があります。
障害者支援施設(施設入所支援)は、常に介護や見守りが必要な方に対し、夜間の入浴や食事の介助、生活相談などを総合的に提供する施設です。一般的に、市町村が判定する障害支援区分が一定の基準(原則として区分4以上など)を満たしている方が対象となります。
また、障害の特性に伴う体調の変化や、専門的な治療が必要な場合には、医療機関への入院という形で生活の場が置かれるケースもあります。
国(厚生労働省)は現在、これらの施設や病院で暮らす方が、本人の希望に応じてグループホームや一人暮らしといった「地域生活」へスムーズに移行できるよう、相談支援体制や地域移行を推進する福祉サービス(自立生活援助など)を強化する方針を示しています(厚生労働省「障害者総合支援法における障害福祉サービス」)。
実際に、全国の自治体が策定する「障害福祉計画」の中には、一人暮らしやグループホームでの生活の土台となる力を養う「自立訓練(生活訓練)」などのサービス見込み量を、今後さらに増やしていく方針を掲げている例が多く見られます。
福祉の現場においても、「就職して働くこと」だけを唯一のゴールにするのではなく、その手前にある「安定して生活する力(生活リズム、金銭管理、SOSの発信力)」を丁寧に整える支援の大切さが改めて見直されています。
いきなり完璧な一人暮らしを目指すだけでなく、施設や病院からの移行も含めて、増加傾向にあるグループホームの利用や各種サポートを組み合わせながら、段階的に自分らしい暮らしへ近づいていくための取り組みが各地で着実に進められています。
知的障害のある方の一人暮らしに関するよくある質問
最後に、知的障害のある方の一人暮らしや将来の自立を考えるときによく寄せられる疑問にお答えします。
Q:軽度知的障害でも一人暮らしはできますか?
支援や工夫を取り入れながら、一人暮らしを実現している方もいます。
苦手な部分を支えてくれる制度や相談先があるため、すべてを一人でこなす必要はありません。
人と比べるのではなく、自分のペースで生活の力を整えていくことが、無理のない一人暮らしにつながります。
Q:一人暮らしに障害者手帳(療育手帳)は必要ですか?
一人暮らしそのものに、手帳が必須というわけではありません。
ただし、療育手帳があると、各種の割引や福祉サービス、障害者雇用枠での就労など、生活を支える支援を受けやすくなる場合があります。
取得を迷っている方は、お住まいの自治体の窓口で確認してみる方法があります。
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―療育手帳(愛の手帳)とは?等級・判定基準・申請方法を解説
Q:物件が借りにくいと聞きました。どうすればいいですか?
「契約が難しいのではないか」と不安に感じる方もいらっしゃいます。
こうしたときは、一人で物件を探すのではなく、相談支援専門員や自治体の窓口、地域の相談機関に相談する方法があります。
住まい探しに理解のある不動産会社や、住宅の確保を支える仕組みを紹介してもらえる場合もあります。
Q:親が高齢になってきました。今から何を準備すればいいですか?
将来の備えは、一度にすべてを決める必要はありません。
ご本人と一緒に暮らし方を話し合うこと、お金や契約を守る成年後見制度などの仕組みを知っておくこと、相談支援専門員とつながっておくこと。
こうしたことを、ご家族が元気なうちから少しずつ進めておくと安心です。
Q:一人暮らしとグループホーム、どちらがよいですか?
どちらにもそれぞれの良さがあるため、最終的には本人次第であり、一概にどちらが良いとは言えません。
グループホームはスタッフの見守りがある住まい、一人暮らしはより自由度の高い暮らしです。
ご本人の状態や希望、その時々の状況によって、合う住まいのかたちは変わります。
まずは選択肢を知ったうえで、相談しながら決めていくとよいでしょう。
Q:生活費が足りるか不安です。使えるお金の支えはありますか?
就労収入のほかに、障害基礎年金や自治体の手当など、収入の柱になりうる制度があります。
ただし、受け取れるかどうかや金額は個別に判断されます。
お住まいの自治体の窓口や相談支援専門員に、利用できる支援を一度確認してみることをおすすめします。
エンラボカレッジでできること(一人暮らしに向けた生活の土台づくり)
エンラボカレッジが提供している自立訓練(生活訓練)は、障害者総合支援法に基づく公的な障害福祉サービスです。
就労に向けたステップアップを目指す前段階として、まずは生活リズムの安定や金銭管理、対人関係の構築、自己理解といった、自立した暮らしの土台を丁寧に整えたい方に向けた支援を行っています。
プログラムの初期段階では、ご自身の特性(得意なこと・苦手なこと)を正しく知ることにしっかりと時間を使うことができます。
そのうえで、一人暮らしに必要となる具体的な生活スキルを、専門の支援員が揃う安心できる環境の中で、一つずつ無理のないペースで練習していくことが可能です。
また、訓練を通じて作成する、ご自身の特性や必要なサポート内容を書きまとめた「自分/支え方マニュアル」は、エンラボカレッジを卒業した後の生活や、将来いざというときに周囲へ配慮を伝えるための大切な支えとして、その後も持ち続けることができます。
「一人暮らしに向けて、まず何から始めればいいか分からない」「将来の自立について一度専門家に相談したい」という段階であっても、事前のお問い合わせや見学・相談を受け付けています。
受給者証の申請手続きなどに不安がある方も、窓口で一緒に確認しながら進めることができますので、まずはどうぞお気軽にご相談ください。
まとめ
知的障害のある方の一人暮らしは、「できるかできないかという二択だけで決まるものではありません。
お金の管理や日々の家事、健康面のセルフケアといった自立に必要な生活の力を、公的な福祉サービスや周囲の支援を上手に借りながら一つずつ整えていくことで、確実に実現へと近づけていくことができるものです。
大切なのは、すべてを一人で抱え込もうとしないことです。日常生活自立支援事業や相談支援専門員、そして生活力を養う自立訓練(生活訓練)など、単身生活の開始や継続を支えてくれる仕組みは、探せば必ず暮らしのそばにあります。
「いきなり完璧な一人暮らし」を目指す必要はありません。
まずは今いる場所でできる役割を増やしたり、福祉サービスを活用して生活の力を整えたりするところから、ご本人のペースで一歩を踏み出していけます。
将来の暮らし方や進路の選択に迷ったときは、まずはお住まいの市区町村の障害福祉窓口や身近な相談機関、あるいは生活の土台づくりを一緒に伴走してくれる自立訓練事業所などへ、気軽に声をかけてみてください。
出典・参考
- 厚生労働省「障害者総合支援法における障害福祉サービス
- 厚生労働省「障害基礎年金」
- 厚生労働省「日常生活自立支援事業」
- 厚生労働省・法務省「成年後見制度」
- 各自治体「障害福祉計画」
監修
株式会社エンラボ 専門職チーム
精神保健福祉士・社会福祉士・臨床心理士・作業療法士・理学療法士が在籍し、福祉・医療・心理の専門的な視点から記事内容を確認しています。
※本記事は一般的な情報提供を目的として作成されたものです。最新の情報については、主治医およびお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口にご確認ください。