就労移行支援(就労支援)ってどんなところ?対象・利用料・内容・就職率に関して解説します。
公開日:2023/07/06
「就職したいけど体調に不安がある」「転職を繰り返している」と、働くことに悩みがある方もいるのではないでしょうか?
そういったときに活用できる支援として就労移行支援があります。就労移行支援とは、障害のある方がサポートを受けながら、働くための訓練や就職活動を行う場所です。
この記事では、就労移行支援の概要から対象者、利用料、プログラム内容、就職率について紹介します。
就労移行支援とは
就労移行支援とは、障害のある方が一般企業などへの就職を目指して働くために必要な知識やスキル取得のために訓練や講座に取り組んだり、書類添削や面接同行などスタッフからのサポートを受けながら就職活動を行っていく障害福祉サービスのひとつです。
就職して終わりではなく、働いた後も定着支援として同じ職場で長く働き続けるためのサポートを受けることができます。
就労移行支援の対象者
就労移行支援は、企業などへの就職が見込まれる障害のある65歳未満の方が対象者となります。また、以下の表のように障害の他に特定の難病のある方も対象となる場合があります。
就労移行支援では、働くために必要な生活リズムの安定や業務スキル取得などのプログラムを受けることができるため、「まだ働いたことがない」「前職からブランクが空いていて不安」といった、意欲があってもすぐには働けないという方に合っていサービスといえるでしょう。
就労移行支援は自治体の障害福祉窓口へ申請し、「障害福祉サービス受給者証(以下「受給者証」)」を取得することで利用可能となります。
また、65歳になる前から利用している場合など、一定の条件をクリアすることで65歳以上の方も利用可能となる場合があります。
利用については最終的には自治体の判断になりますので、詳しいことは自治体の障害福祉窓口などへご確認ください。
就労移行支援は手帳なくても利用できる?
就労移行支援は障害者手帳がなくても、先ほど紹介した受給者証を取得することで利用できます。
就労移行支援は障害のある方の支援を定めた「障害者総合支援法」に基づく、障害福祉サービスです。障害者手帳とは別の制度のため、就労移行支援の利用には障害者手帳ではなく、障害福祉サービスを利用するための受給者証が必要になります。
就労移行支援の利用期間・利用料
就労移行支援は、先ほど紹介したように障害福祉サービスの一つのため、制度として利用期間や利用料が定められています。
法律で決められているため、民間企業が運営している就労移行支援事業所であっても、利用期間と利用料は同じとなっています。
就労移行支援の利用期間
就労移行支援は標準利用期間として、利用できるのが「24か月」と定められています。
利用者はこの2年の利用期間の中で、さまざまな訓練や就職活動を通して就職を目指していきます。
ただし、標準利用期間で就職が決まらなかった場合は、必要性が認められると最大1年間の延長ができるとも定められています。
延長を希望する場合は自治体へ申請をし、審査を経て可否が決まる流れです。審査の基準などは自治体によって異なっていますので、詳しいことは自治体の障害福祉窓口へお問い合わせください。
就労移行支援の利用料
就労移行支援の利用料は、9割を国や自治体が負担し、利用者は残りの1割を支払う制度になっています。
さらに、その1割にも世帯の所得により支払う上限額が定められています。それを利用者の「負担上限月額」といい、生活保護受給世帯や低所得世帯の方は月額0円で利用できます。
他にも、一般1に該当する方は1か月で最大9,300円、一般2に該当する方は1か月で最大37,200円の利用料がかかります。詳しくは以下の表をご覧ください。
(注2)収入が概ね670万円以下の世帯が対象になります。
(注3)入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は、市町村民税課税世帯の場合、「一般2」となります。
参考元:厚生労働省「障害者の利用者負担」
また、ここでいう世帯所得とは、本人とその配偶者のみとなり、同居している親や子の所得は含まれません。
所得については、自治体が発行する所得証明書や市町村民税証明書などで確認できます。詳しいことは市役所などへお問い合わせください。
就労移行支援の工賃・給料
就労移行支援の利用料について紹介しましたが、就労移行支援を利用する中で給料や工賃などがもらえるか気になる方もいると思います。
結論としては、就労移行支援を利用していてお金をもらえる機会はあまりないといえます。給料と工賃について順番に説明していきます。
まず、就労移行支援では給料は支払われません。理由として、就労移行支援では利用者と事業所が労働契約を結ばないため、給料や賃金といった形でお金が支払われることはありません。
次に工賃ですが、こちらは一部の就労移行支援では支払われることもあるようです。工賃とは、生産活動として例えば、パンの生産やデータ入力などを行った際に、その対価として支払われるお金のことです。
訓練の一環としてこのような生産活動を取り入れている就労移行支援もありますが、あまり数は多くありません。就労移行支援はあくまで就職に向けて訓練をしていく場所ととらえた方がいいでしょう。
就労移行支援のプログラム内容は?
就労移行支援は令和3年時点で全国に3,353事業所と非常に多くあります。また、運営もNPO法人や株式会社が行っており、それぞれに独自のプログラムを取り入れています。
ここでは、就労移行支援でよくあるプログラム内容の例を紹介していきます。
一般的な就労移行支援のプログラム例
まずは一般的な就労移行支援のプログラムの例を見ていきます。
一般的な就労移行支援とは、訓練内容を特定のスキルなどに特化させていないものを指します。地域などによって違いはありますが、就労移行支援の中で一番多い形式です。
一般的な就労移行支援のプログラム内容として、
- 体調管理
- 障害理解
- 業務スキル
- コミュニケーションスキル
- 企業実習
- 就職活動
があります。それぞれ紹介します。
1.体調管理
就職して長く働くためには体調の安定が大切です。就労移行支援に通う方は、障害の影響などで体調を崩した経験がある方も多いため、体調を安定させるための講座や自己管理方法の取得といったプログラムを取り入れている事業所が多くあります。
2.障害理解
自身の障害の理解を深めることも働くために重要になります。講座や自己分析などを通して障害特性上、得意なこと・苦手なことを把握して、得意を活かせる職場を見つけたり、苦手をカバーできる方法を見つけたりといったことを行う場合が多くなっています。
3.業務スキル
働くうえで業務スキルを身につけることも大事です。就労移行支援ではパソコン訓練や作業訓練で業務スキル自体を高めたり、模擬業務を通してスキルだけでなくビジネスマナーも一緒に身につけるといった訓練に取り組んでいきます。
4.コミュニケーションスキル
就労移行支援では働くためのコミュニケーションスキルの訓練も行っています。対人関係で悩んでストレスをためた経験がある方もいるため、職場で困りそうな場面を想定した練習や、他の利用者とのグループワークによってスキルを身につけていきます。
5.企業実習
企業実習とは聞きなれない言葉かもしれませんが、就労移行支援の利用者が企業に一定期間訪問して実際の業務を体験するという制度のことです。
就労移行支援事業所の中で身につけた業務やコミュニケーションのスキルを駆使しながら、実際の仕事を行うことで現在のスキルの確認や、自分に合った職場環境を探していきます。
企業実習の期間は1日から2週間などさまざまで、1日の時間も1時間から8時間と幅があります。スタッフと利用者で話し合って、目的に合わせて適切な実習先を選んでいきます。
6.就職活動
就職活動のプログラムでは、就職活動の一連の流れをサポートするプログラムがあります。
就職活動の基礎から求人検索の方法など働いた経験がない方向けの講座や、書類添削や模擬面接などこれから就職活動中の方向けのものまでそろっていることが多いです。
また、実際の面接にスタッフが同行して、障害のことなど伝えづらいことを変わって伝えるなどのサポートをしている事業所もあります。
特化型就労移行支援のプログラム例
特化型就労移行支援とは、プログラム内容を限定することで集中的に学んでいくことができる就労移行支援事業所のことです。
特化する内容としては
- プログラミングなどIT系
- イラストなどデザイン系
などがあります。
それぞれに専門的な知識やスキルを持つスタッフが在籍していたり、専門家を外部講師として招いたりといった形で、目的に特化したプログラムを提供しています。学びたいことが明確な方には合っているといえるでしょう。
また特化型就労移行といっても特定の訓練のみをするわけではなく、一般的な就労移行支援で挙げた体調管理や就職活動のプログラムも提供しています。
就労移行支援と就労継続支援の違いとは?
就労移行支援と同じ障害福祉サービスとして、就労継続支援があります。就労継続支援も障害のある方の就職に関するサービスで、A型とB型の二つの種類があります。
就労移行支援と就労継続支援は名称が似ていることもあり、違いが分からないという方もいると思いますので、ここではそれぞれの違いを紹介します。
自立訓練(生活訓練)とは?対象者・利用期間・プログラム内容などについて解説します。
目的の違い
就労移行支援では、利用者が通う目的は企業などへ就職をすることでした。
対して就労継続支援では、企業などへの就職が難しい方に、サポートを受けながら事業所内で働く機会を提供することが目的となっています。
さらに、就労継続支援の中でもA型では利用者は事業所と労働契約を結んで働き、B型では労働契約を結ばずに働くという違いがあります。
対象者の違い
就労移行支援では企業などへの就職が見込まれる方が対象でしたが、就労継続支援では企業への就職をすることが困難であった方が対象となります。
A型では、事業所と雇用契約を結んで働ける方が対象となり、具体的には「就労移行支援を利用しても就職に結びつかなかった方」「特別支援学校を卒業しても就職に結びつかなかった方」などが利用しています。
B型では、事業所とは雇用契約は結ばない形で働ける方が対象となり、具体的には「年齢や体力的に企業への雇用が困難な方」「就労移行支援に通った結果、B型の利用が適切とされた方」などが利用しています。
就労継続支援の給料や工賃
就労移行支援では工賃が支払われることはあまりないと紹介しました。しかし、就労継続支援では事業所内で働くことが目的にあるため、活動に応じた給料や工賃が支払われます。
A型では、雇用契約を結んで働くために、最低賃金が保障される形で給料が支払われます。
B型では、雇用契約は結ばないため、活動に応じて独自に工賃と呼ばれる報酬が支払われます。
自立訓練
同じく障害福祉サービスの一つとして、自立訓練もあります。自立訓練とは、就職ではなく体調安定など日常生活で必要となる生活能力を訓練していくための場所です。
利用期間は就労移行支援と同じ24か月と定められていて、その中で利用者は自立した生活を送るために、家事や金銭管理、体調管理など必要となる訓練を行っていきます。
就職に向けての訓練やすぐに働くことが難しいと感じる方は、自立訓練から始めることも方法の一つといえます。
多機能型の事業所もある
多機能型の事業所とは、就労移行支援の他に就労継続支援や自立訓練の事業所も一緒に運営している形の事業所のことです。
提供しているプログラム自体は一般的な就労移行支援と大きくは違いませんが、併設している就労継続支援や自立訓練などと連携したプログラムを提供している例もあるようです。
また、就労移行支援のプログラムを受けてまだ就職までは早いと感じた方は、先に就労継続支援や自立訓練に通って、体調やスキルなど準備が整ってから就労移行支援に通うという使い方をする方もいます。
就労移行支援の就職率
就労移行支援を利用して就職した方は、令和元年で13,228人と年間で1万人を超えています。平成25年が6,441人なので、5年で2倍となるなど就労移行支援を利用しての就職者が増えているのが分かります。
また、就労移行支援を利用した方の就職率は、同じく令和元年で54.7%と2人に1人以上は就職している計算です。こちらも平成25年は45.6%だったので、就職者数だけでなく就職率も伸びていることが分かります。
また、就労移行支援を利用して就職されなかった方のその後はというと、別の就労移行支援や就労継続支援、自立訓練など他の障害福祉サービスを利用してる方も20%以上います。
これは、就労移行支援を利用したけど合わなかった、またはまだ早いと感じて他の障害福祉福祉サービスに切り替えたという方も多くいるようです。
障害のある方の定着率
次に定着率を見ていきます。定着率とは就職してから一定期間経過した後も、引き続き同じ職場に雇用されている率のことです。
こちらは平成27年の調査になりますが、障害種別ごとに1年経過後の定着率が出ていますので紹介します。
障害種別によって大きく異なり、一番定着率が高いのが発達障害の方の71.5%で、一番低いのが精神障害の方で49.3%でした。詳しくは以下の表のとおりです。
参考元:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター「障害者の就業状況等に関する調査研究」
また、定着率を上げるための方法として障害者雇用で働くことや、就労移行支援などの支援機関を利用していることが挙げられています。
就労移行支援はこんな人におすすめ
ここでは、就労移行支援はどのような方におすすめかを紹介していきます。
就労移行支援は特徴として2年の期間内で訓練を経て就職するという点が挙げられます。その特徴を踏まえると、すぐ就職するのは不安があり、時間をかけて就職したいという方に合っているといえるでしょう。具体的には以下のような方です。
一度も就職をしたことがない方
就労移行支援がおすすめの方として、学校を卒業や退学した後に障害の影響などで働くことができず、就職した経験がない方が挙げられます。
就労移行支援では、ビジネスマナーや職場でのコミュニケーションなど、働くうえで大切となるスキルを基礎から学ぶことができます。
また、就職活動も求人の選び方や書類添削、模擬面接など基礎から本番を想定したプログラムがあるため、就職経験がない方にも合っているといえます。
前職からブランクがある方
会社を辞めてから障害の影響などでブランクが長かった方にもおすすめといえるでしょう。
就労移行支援ではスタッフと一緒に退職した理由を分析して次に長く働く方法を整理していくことや、事業所内だけでなく企業実習で働いていた時の感覚を取り戻す、といった取り組みが行えます。
また、応募書類を書く際にブランクが気になる方は、就労移行支援に通っていた経験を書くことでブランクを埋めることも可能です。
体調に不安がある方
障害の影響で療養をしていて、体調に不安がある方にも就労移行支援は合っているといえます。
体調安定や障害理解のプログラムがあるので、体調悪化の原因や安定させるための方法を学ぶことができます。
また、定期的に事業所に通うことで生活リズムの安定を図りながら就職に向けた訓練も行えて、働くための準備も整えていくことができます。
自立訓練から始める方法もある
就労移行支援は2年間と利用期間が決まっています。もし、「体調が安定するかわからないな」「2年間で就職活動まで不安がある」という場合は、自立訓練から利用するという選択肢もあります。
まずは生活を整えてから就職を考えたい、という方は一度ご検討してみてはいかがでしょうか?
就労移行支援の選び方
ここでは、利用する就労移行支援の選び方や利用までの流れを簡単に説明します。
インターネットで検索する
まずは就労移行支援事業所の探し方です。現在ではインターネットを利用して探している方が多いようです。
就労移行支援など障害福祉サービスが地域ごとに掲載されているサイトや、インターネットで「住んでいる地域 就労移行支援」などで検索することで、近くの事業所を探すことができます。
サイトには事業所の特色やプログラム内容などが書かれていますので、いくつか見たうえで気になる事業所をピックアップしておきましょう。
実際に見学・体験してみる
気になる事業所が見つかったら、実際に見学・体験してみましょう。見学・体験には予約が必要になるので、あらかじめ電話や事業所のホームページから申し込みをしましょう。
見学・体験では事業所に訪問して、スタッフから説明を受けたりプログラムの見学・体験をすることができます。
見学・体験のポイントとしては、事業所の雰囲気は合いそうか、事業所は通える距離か、スタッフ・他の利用者とは合いそうか、プログラム内容は合いそうかといったことを確認するといいでしょう。
支援機関に相談してみる
見学・体験しても「どの事業所を選んだらいいのかわからない」という場合もあるでしょう。そういったときは自治体の障害福祉窓口や相談支援事業所で相談してみる方法があります。
相談支援事業所などでは、地域のさまざまな就労移行支援事業所の情報が集まっており、目的に合わせておすすめの事業所を教えてくれます。
また、相談支援事業所などでは見学・体験する際に、事業所まで同行してくれることもあります。一人で訪問するのが不安、という方は活用してみるといいでしょう。
利用したい事業所が決まったら利用申請する
利用する事業所が決まったら、まずは自治体へ申請して受給者証の交付を受ける必要があります。申請は自治体の障害福祉窓口で行います。
申請した後は、自治体の審査を経て受給者証が発行され、利用する事業所と利用契約を結んだら正式に利用開始となります。
就労移行支援のまとめ
就労移行支援とは、障害のある方がサポートを受けながら働くための必要なスキルや知識の取得や就職活動を行っていく障害福祉サービスの一つです。
事業所は全国3,000箇所を超え、それぞれにプログラム内容など特色があるため、自分の目的に合った事業所を選んでいくことが大事です。
気になる事業所があったら一度見学・体験し、納得して利用するようにしましょう。
また、利用期間が2年と決まっているため、「体調安定させながら就職活動は難しい」と感じる方は、先に自立訓練など他の障害福祉サービスを利用する方法もあります。