知的障害の方の就職とは?就職率や就職先・就職活動の進め方について解説します。
公開日:2024/04/11
知的障害のある方で「就職活動が不安」「仕事でミスが多くて転職したい」など、就職に関して悩んでいる方も多いのではないでしょうか?
自分に合った就職先を見つけるためにも、他の知的障害のある方の就職先や業務内容などを把握しておくことは参考になると考えられます。
この記事では、知的障害のある方の就職率や就職先などのデータの紹介と、具体的な就職活動の進め方、就職活動で活用できる支援機関など、知的障害のある方の就職に役立つ情報をお届けします。
知的障害とは
知的障害とは、基本的に18歳未満に知的機能の障害が現れて、仕事や人間関係、日常生活など多くの場面で困ることがある障害のことです。特徴として、仕事を覚えるのに時間がかかったり、複雑な表現の理解が難しく意思疎通がうまくいかないことがあったり、お金の計算が苦手でスーパーなどで買い物をするときに困ったりということが多いと言われています。
知的障害のある方は自分の不得意な面をカバーでき、得意な面を活かせる職場に就職できると、長く働き続けることにもつながるかもしれません。就職活動は自分だけでなく様々な支援機関を活用することで、自分に合った就職先を見つける助けとなるでしょう。
知的障害とは?原因や発達障害との違い、種類・診断基準などを解説します。
知的障害の方の就職率
この章では知的障害のある方の就職について、厚生労働省が調査したデータをまとめて紹介します。就職活動の際の参考にしてみてください。
知的障害のある方の就職件数・率
結論から紹介すると、知的障害のある方は他の障害に比べて就職率が高い傾向があります。
身体障害や精神障害のある方も加えた令和4年度の就職に関する表を掲載します。
参照:厚生労働省「令和4年度 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況などの取りまとめを公表します」
この表を見てみると、知的障害のある方の就職件数自体は他の障害に比べて低いことがわかります。しかし、就職率を見てみると57.8%と、身体障害者の37.7%、精神障害の43.8%と比べて大きくリードしています。このことから、知的障害のある方で就職を望んでいる方は、比較的就職先を見つけやすいということが見えてきます。
また、別の調査ですが知的障害のある方は就職した後の定着率も高いという結果も出ています。精神障害のある方の1年の職場定着率が49.3%なのに対して、知的障害のある方は68%となっています。
このような調査から、知的障害のある方は比較的就職先を見つけ、長く働き続けることができる傾向があると言えるでしょう。
ただ、あくまで傾向に過ぎず、実際には32%の方が1年以内で辞めているということでもあります。そのため、自分に合った職場を探すために、就職先の選び方や就職活動の進め方の工夫、支援機関の活用などもしながらよりよい就職先を探していくといいでしょう。
知的障害の方の就職先にはどんなところがある?
ここでは、知的障害のある方がどのような企業で働いているのかを紹介します。
知的障害のある方の主な就職先
- 生産工程の職業:37.8%
- サービスの職業:22.4%
- 運搬・清掃・包装等の職業:16.3%
- 販売の職業:12.2%
- 事務的職業:7.5%
それぞれを詳しく紹介します。
生産工程の職業
知的障害のある方の就職先として一番多かったのは、生産工程の職業で37.8%でした。
生産工程の職業とは、機械の操作や部品の組み立てによって商品を作り上げていく職業のこ
とです。作るのは、自動車などの部品、おもちゃ、食品など様々なものがあります。
サービスの職業
続いて多かった職業がサービスの職業で、22.4%でした。具体的な仕事内容としては、店舗での接客や窓口業務などがありますが、知的障害のある方は介護のヘルパーなどの業務が多いようです。
運搬・清掃・包装等の職業
運搬・清掃・包装等の職業も16.3%と多くの方が就職していました。仕事内容としては、倉庫内で荷物を運搬したり、企業や施設を清掃したり、機械や食品などを包装したりといったものがあります。
販売の職業
販売の職業も12.2%の方が就職していました。販売の職業では接客やレジ打ちがありますが、知的障害のある方はどちらかというと店舗などの倉庫で商品の整理などを行うバックヤード業務が多いようです。
事務的職業
事務的職業も7.5%の方が就職していました。事務は幅広い仕事があり、一般事務や医療事務、会計事務などの種類があります。知的障害のある方は事務補助などを担当していることが多いと言われています。
知的障害の方の就職活動の進め方
ここでは知的障害のある方の就職活動の進め方を紹介します。
知的障害のある学生の就職活動
知的障害のある学生の方は、まずは学校の進路担当の先生に相談するといいでしょう。
就職か進学かを迷っている場合にも、まずは相談して先生や保護者の意見も聞きながら進路を決めていくといいでしょう。
就職活動は一人で進めるのではなく、先生を通じて様々な支援機関とも連携しながら進めていきます。企業実習に行って業務適性を見極めたり、職業センターで職業評価を受けたり、ハローワークと連携して就職の相談や求人の紹介などを受けるなど、様々なサポートを受けながら就職活動を行っていきます。
知的障害のある大人の就職活動
知的障害のある大人の方の就職活動では、まずは希望する雇用形態を考えるといいでしょう。
知的障害のある方の働く選択肢
知的障害のある方の選択肢としては、「一般雇用」「障害者雇用」「福祉的就労」があります。
一般雇用とは、障害のない方と同じ勤務時間・仕事内容など同様の条件で働くことです。配慮などは比較的受けにくいですが、給与や昇進なども他の社員と同様になるという特徴があります。
障害者雇用とは、障害のある方一人ひとりが特性に合わせた働き方ができるよう、企業や自治体が一般雇用とは別枠で雇い入れることです。障害のことをあらかじめ伝えているため、苦手なことへの配慮が受けやすいなどの特徴があります。障害者雇用で働くためには、療育手帳を取得することが必要なためあらかじめ申請しておくといいでしょう。
福祉的就労とは、就労継続支援の事業所で支援員のサポートを受けながら働くことです。支援員によるサポートがあるため、比較的無理せずに働くことができるという特徴があります。また、働いた分の報酬を受け取ることができ、就労継続支援A型では最低賃金が保障された給与が、就労継続支援B型では工賃という形で支払われます。
就職活動の進め方
どのような働き方をするか選んだら、その働き方に合った就職活動をしていきます。
一般雇用の場合は、ハローワークや求人サイトなどで情報を集めて、自分が希望する求人に応募する形で進めていきます。他にも、転職エージェントといって登録しておくとマッチする求人の紹介をしてもらえるといった民間のサービスもあります。
障害者雇用で働きたい場合にも、ハローワークや求人サイトで障害者求人を探して自ら応募する方法があります。他にも、障害のある方が利用できる支援機関を活用していく方法もありますので、後ほど紹介します。
福祉的就労を目指す方は、インターネットなどで情報を集めて直接希望する事業所に問い合わせる方法があります。また、どんな事業所が合っているかわからない場合は、自治体の障害福祉窓口や相談支援事業所に相談することで紹介してもらえることもあります。
就労継続支援を利用するには、自治体に手続きする必要がありますので、詳しいことは事業所か障害福祉窓口などにご確認ください。
知的障害の就職活動で活用できる社会資源
知的障害のある方の就職活動について紹介してきました。ただ、選択肢がいくつもあり、自分に合った方法がわからないという方もいると思います。そういったときは、ここで紹介する知的障害のある方が利用できる支援機関に相談してみるとヒントが見つかるかもしれません。
児童相談所・知的障害者更生相談所
知的障害のある方が相談できる場所として、児童相談所と知的障害者更生相談所があります。児童相談所が18歳未満、知的障害者更生相談所が18歳以上を対象としています。
どちらも知的障害のある方の医学的、心理学的判定や活用できる制度の案内などの相談業務を行っています。また、療育手帳の取得手続きも行っているので、障害者雇用を希望する方は一度相談してみるといいでしょう。
自治体の障害福祉窓口・相談支援事業所
どういったサービスを利用するか迷った場合には、自治体の障害福祉窓口や相談支援事業所に相談してみるといいでしょう。就職に関して悩んでいることなどを相談でき、活用できる支援機関などの紹介をしてもらえることがあります。
ハローワーク
実際に就職活動をする際は、ハローワークを活用するといいでしょう。ハローワークの窓口では、就職相談や求人の紹介、就職活動のサポートなどのサービスを受けることができます。
また、ハローワークには知的障害をはじめとする障害のある方向けの専用窓口も設置されているので、障害者雇用を考えている方も相談してみるといいでしょう。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、生活に関することと就職に関することどちらも相談可能な支援機関です。就職については、働く悩みの相談対応から業務スキルやコミュニケーションスキルを身につける講座の提供、職場実習の斡旋などのサービスを受けることができます。生活に関しても健康管理、金銭管理、ストレスへの対処法など日常生活で役立つアドバイスがもらえるなどのサービスをしています。
自立訓練(生活訓練)
すぐに仕事をするのは難しいと感じている方は、自立訓練(生活訓練)の利用も視野に入れるといいでしょう。
自立訓練(生活訓練)とは、自立した生活を送るためのスキルを身につけるための訓練、生活の悩みに対してアドバイスなどを行っている支援機関です。
コミュニケーションや自己分析、困りごとへの対処法などを中心にサービスを提供している事業所もあります。
自立訓練(生活訓練)事業所のエンラボカレッジでは、知的障害などの診断名にとらわれず一人ひとりの現在困っていることや将来の希望をうかがい、現状を整理しその方に合った計画を作り支援を提供しています。
コミュニケーションが苦手な方には、ご自身が困りやすい場面、状況や感情、身体の反応など細かく確認し、対策や対処法を座学だけでなく実践を通して、見つけていくためのサポートを行います。
将来的に就職を目指している方には、自分の得意不得意などの自己分析、働くときの希望や条件の整理、課題への取り組み方など自分らしく働くための準備のサポートを行なっています。
エンラボカレッジでは無料の相談を受け付けています。「すぐに働くのは不安」「まずは生活を安定させたい」という方は、一度ご相談ください。
知的障害 就職まとめ
知的障害のある方で、「就職活動の仕方がわからない」「仕事をするのが不安」という方も多いと思います。
知的障害のある方は主に工場の生産業務など身体を動かす仕事についている方が多く、就職率や定着率も高いという調査結果が出ています。
ただ、それらはあくまで傾向で、知的障害のある方すべてに当てはまるわけではありません。データを参考にしながらも、自分に合った就職先を探していくようにするといいでしょう。
知的障害のある方の就職の選択肢は一般雇用や障害者雇用、福祉的就労など複数あり、迷うこともあると思います。そういった時は、知的障害のある方が相談・利用できる支援機関にも頼りながら進めていくといいでしょう。