軽度知的障害と仕事|よくある困り事や対処法・向いている仕事について紹介します

公開日:2024/04/10

軽度知的障害のある方の中で「業務をなかなか覚えられない」「ミスが多くなってしまう」「他の人とうまくコミュニケーションが取れない」などの仕事の面で多くの困りごとを感じている方もいるのではないでしょうか?

この記事では軽度知的障害のある方の仕事での困りごとや対処法、向いている仕事の見つけ方、活用できる支援機関などを紹介します。

軽度知的障害とは

軽度知的障害とは、知的障害の中でも「経度」に分類される障害のことです。軽度知的障害は軽度とつくことから障害の程度が軽いと思われてしまうこともありますが、実際には日常生活や仕事、コミュニケーションなどで多くの困りごとが生じています。
また、他の人に知的障害があることが伝わりづらいことで困りごとが理解されずらく、つらい思いをしている方も多くいます。

知的障害の4つの分類

知的障害は「経度」「中程度」「重度」「最重度」と4つの分類があります。分類は知能指数と呼ばれる「IQ」と「日常生活能力」によって判断されます。

 

IQは知能検査をもとに出された数字をもとに判断します。目安として、IQがおおむね70未満の方が知的障害と判断されることが多いと言われており、軽度知的障害はおおむねIQ51~70の方が該当します。

 

日常生活能力とは、人とのコミュニケーションや着替えなどの身の回りのこと、運動能力、交通機関を使っての移動、計算を伴う買い物など、普段の生活で行う行為が同年代の人たちと比べてどの程度行えるかによって導き出されます。

 

詳しいことはこちらの記事をご覧ください。

 

関連ページ:知的障害とは?原因や発達障害との違い、種類・診断基準などを解説します。

 

知的障害の判定は18歳未満は児童相談所で行い、18歳以上の場合は知的障害者更生相談所で行われます。

軽度知的障害の特徴

軽度知的障害のある大人の方は生活や仕事で困りごとが生じやすい特徴があります。

 

生活では役所などの手続きや移動などで困ることがあると言われています。例えば、役所の手続きや携帯電話などの契約がよくわからなかったり、移動では交通機関の運賃の支払い方や乗り換えの方法がわからないなどの特徴や困りごとがあります。

 

仕事では業務指示の理解やコミュニケーションで困ることがあると言われています。

例えば、業務の指示を受けても上司の言っていることが理解できない、一度覚えてもすぐに忘れてしまうといった困りごとがあります。コミュニケーションでは、社会人として相手の立場によって敬語を使い分けるなどのやりとりが苦手といった特徴もあります。

 

こういった特徴はあくまで傾向なので、実際には軽度知的障害のある方、それぞれでできること、できないことも変わります。

 

軽度知的障害のある方の特徴を詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

関連ページ軽度知的障害の特徴とは?大人の軽度知的障害の特徴や原因・困りごと・仕事や生活に役立つ情報を解説します。

軽度知的障害の方の仕事でよくある困りごと・対処法

軽度知的障害のある方は、子どもの頃には困りごとが表面化せず、本人も周りも気づかない場合もあります。
しかし、大人になって仕事を始めてから「指示理解ができない」「仕事でいつもミスをする」などの困りごとが起こり、そこで初めて軽度知的障害があると判明する場合もあると言われています。

 

ここでは、軽度知的障害の方が仕事でよくある困り事を紹介します。

社内文書やメールなどが読めないことがある

軽度知的障害のある方は難しい漢字が読めない方や、複雑な表現の理解が苦手な方がいます。社内の通達や業務マニュアル、メールなどに漢字や複雑な言い回しが多いと、何を書いているのか理解できないということがあります。
対処法として、「ふりがなを振ってもらう」ことや「口頭で説明をしてもらう」が考えられます。また、マニュアルにイラストや写真などを使用してもらうと理解がしやすい方もいます。

上司の指示がよく理解できないことがある

軽度知的障害のある方は仕事の手順を口頭のみで説明されると、理解することが難しいことがあります。また、「考えながらやってみて」など抽象的な指示を受けた場合にも、どうしていいかわからず仕事を始められないということもあります。
対処法として、口頭だけではなく実際の仕事の内容を事前に見せてもらう方法があります。事前に仕事内容を見せてもらうことで仕事のイメージがつき理解しやすくなるでしょう。また、抽象的な表現だと理解しづらい方は、上司などにあらかじめ「具体的な言葉や数字を使ってほしい」と配慮を相談すると良いでしょう。

仕事を覚えるのに時間がかかる

軽度知的障害のある方は物事を記憶することが苦手な方もいて、一度や二度取り組んだだけではその仕事を覚えられないという場合があります。慣れてきたから仕事を任せて大丈夫と思っても、休み明けなどに仕事の進め方がわからず困ってしまうということもあります。
対処法として仕事を段階的に教えてもらう方法があります。まずは一つの仕事から取り組ませてもらい、できるようになったらもう一つ仕事を教えてもらう、といった形で一つずつ段階的に増やしてもらうと無理なく仕事を覚えることにつながります。

一度に複数の人から仕事を依頼されると混乱する

軽度知的障害のある方は、多くの人から一度に仕事を依頼されると混乱してしまうことがあると言われています。一つひとつの仕事の手順や、どの業務を優先したらいいかなどを自分で考えることが苦手なため、複数の仕事を頼まれると何から始めていいかが判断できなくて手が止まってしまうこともあります。
対処法としては、業務指示は一度に一つにしてもらう方法があります。一つの業務が終わったら次の業務の指示をしてもらうように頼むことで、複数の業務を抱えなくてもいい状況を作っていくことにつながります。

お金などの計算が苦手

軽度知的障害のある方は、計算に難しさを感じている場合もあります。仕事をしているときに、暗算で計算しなくてはならない場面などではすぐに計算ができずに困ってしまうことが考えられます。
対処法として事前に職場に相談して、スマホや計算機などのツールを使って計算をすると良いでしょう。計算以外にもスマホを使用できる状態を作っておくと、漢字がわからない場合に調べることができるようになったり時間の管理ができない場合、アラーム機能を使うなど様々な場面で有効な手段となります。

軽度知的障害の方に向いている仕事

ここでは軽度知的障害のある方に向いている傾向のある仕事について紹介していきます。軽度知的障害のある方全員に向いている仕事があるわけではなく、一人ひとりの性格などによっても向き不向きは違います。ここで挙げる内容を参考に自分に合いそうな仕事を探してみてください。

軽度知的障害のある方が働いている職種

まずは知的障害のある方がどのような仕事についているか見ていきましょう。厚生労働省が平成30年に行った調査によるデータを掲載します。

厚生労働省「平成 30 年度障害者雇用実態調査結果」

参照:厚生労働省「平成 30 年度障害者雇用実態調査結果」

 

この調査では、生産工程の職業が一番多く37.8%という割合でした。生産工程とは、工場などで機械を操作したり部品を組み立てたりする業務のことです。

 

続いてサービスの職業が22.4%でした。サービスというと店舗などでの接客をイメージする方も多いかと思いますが、ここではクリーニングやホテルのベッドメイク、郵便の仕分けの仕事もサービスの職業に含まれています。

 

その後には運送・清掃・包装等の職業が16.3%、販売の職業が12.2%と続いていきます。販売の仕事では接客というよりは洋品店のバックヤードでの品出しや倉庫整理の仕事などが多いようです。

 

この後は知的障害のある方に向いていると思われる仕事を紹介します。

マニュアルがしっかりしている仕事

まずはマニュアルがしっかりしているということが挙げられます。工場での部品組み立てなどは仕事の流れが決まっていてマニュアルが整備されていることが多いため、軽度知的障害のある方も仕事内容を覚えやすいという傾向があります。

また、部品などを直接目で見て触ることができることも、仕事が覚えやすい理由の一つと言えるでしょう。

業務の変化が少ない仕事

業務の変化が少ない仕事も向いている傾向があります。部品の組み立てや倉庫整理、クリーニングなどは業務内容が変わることが比較的少ない仕事です。

軽度知的障害のある方は業務を覚えるのに時間がかかるため、業務の変化が少なく一定のことを続けられる仕事の方が合っていると言えるでしょう。

少人数で進められる仕事

少人数で行える仕事も向いていると言えるでしょう。工場での仕事は一人で進めることも多く、清掃なども比較的少人数で行うことが多い仕事と言えます。

軽度知的障害のある方は対人関係が苦手な方も少なくないため、あまり多くの人と関わらない仕事が向いている傾向があると言えるでしょう。

 

ここで紹介したのはあくまで傾向なので、自分の得意や不得意を把握したうえで、向いている仕事を探していくといいでしょう。

軽度知的障害のある方の働き方

軽度知的障害のある方は一般就労や福祉的就労など、選ぶことができる働き方がいくつかあります。それぞれに特徴がありますので紹介します。

一般就労

一般就労とは一般的な企業に就職をすることで、その中でも軽度知的障害のある方は「オープン就労」「セミオープン就労」「クローズ就労」という選択肢があります。

オープン就労

オープン就労とは、軽度知的障害など障害のことを職場に伝えたうえで働くことです。軽度知的障害について職場の方が知っているため、先ほど紹介した対処法も相談しやすくなるというメリットがあります。

セミオープン就労

セミオープン就労とは、人事と上司だけなど限られた人にだけ軽度知的障害のことを伝える働き方です。対処法は上司など障害について知っている方と進めていきます。同僚は軽度知的障害があることを知らないため、困ったことがあったときに相談できる先が少なくなるといった特徴があります。

クローズ就労

クローズ就労とは、軽度知的障害のことは職場に伝えない、障害のない方と同じ働き方です。自身で対処法や困った時の相談方法を身につけている方に向いていますが、軽度知的障害のことを職場に伝えていないので、障害のことについて相談は基本的にできません。

福祉的就労

福祉的就労とは、障害福祉サービスの中で支援を受けながら働くことを言います。福祉的就労の中には就労継続支援A型と就労継続支援B型という選択肢があります。

就労継続支援A型

就労継続支援A型は、利用する方と事業所が雇用契約を結んだうえでスタッフから支援を受けながら、仕事に取り組んでいきます。労働契約を結んでいるため、最低賃金が保障された給与が支払われることが特徴です。

 

関連ページ:就労継続支援A型とは?どんな人に向いている?仕事内容・給料・利用料など紹介します。

就労継続支援B型

就労継続支援B型は、利用する方と事業所は雇用契約を結ばないで利用します。雇用契約を結ばないことで、A型よりもらえる報酬は少なくなりますが、仕事の内容や勤怠などに比較的融通がきくという傾向があります。そのため、体調や障害の状況に合わせて利用しやすい特徴があります。

 

関連ページ:就労継続支援B型とは?どんな人が利用できるの?仕事内容・給料(工賃)・利用料などを詳しく解説します。

軽度知的障害の方が仕事を探す方法

軽度知的障害のある方が仕事を探すには、1人で行う方法もありますが、次に紹介する支援機関などを活用する方法もあります。場所によって様々なサービスを受けることができるので、利用を検討してみるといいでしょう。

ハローワーク

ハローワークには、軽度知的障害をはじめとして障害のある方向けの専門窓口が設置されています。

専門窓口では障害について詳しいスタッフが、仕事探しの相談から適職分析のサポート、求人の紹介、面接対策、セミナーなど役立つ情報の紹介など幅広いサービスを行っています。

人材紹介サービスを活用する

人材紹介サービスとは、登録することで専用のエージェントから求人の紹介を受けることができる民間のサービスです。

プロフィールや希望する条件などを伝え、マッチすると思われる求人の紹介を受けることができます。人材紹介サービスといってもたくさんあり、仕事の相談や書類添削、面接対策などのサポートも行っている場合もあります。また、軽度知的障害など障害のある方に特化した人材紹介サービスもありますので、気になる方はインターネットなどで探してみるといいでしょう。

地域障害者職業センター

地域障害者職業センターとは、障害のある方に特化した仕事に関する専門的な支援を提供している機関です。

利用すると検査や面談を通して、一人ひとりに合った就職を目指す職業リハビリテーション計画を作成します。その計画に沿って、業務スキルや職場でのコミュニケーションスキルなどを身につける訓練の実施などを行います。また、就職した後も、ジョブコーチと呼ばれる専門のスタッフを職場に派遣して、長く働くためのアドバイスなどを受けることができます。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターは軽度知的障害など障害のある方を対象として、仕事だけではなく生活の困りごとにも対応している支援機関です。

生活においては、日々の健康管理やリフレッシュ方法などの自己管理についての相談対応などをしています。また、住む場所や障害年金、生活設計などお金に関わる相談にも対応しています。

仕事に関しても幅広く対応しており、仕事に関する悩みの相談対応から、業務スキルやコミュニケーション取得のための講座、職場実習のあっせん、就職活動自体のサポートなどをしています。また、就職した後も働き続けるために面談や職場訪問などのサポートを行っています。

軽度知的障害の方が活用できる仕事に関する相談・支援先

軽度知的障害のある方で、すぐに仕事をするか悩んでいるという方は、仕事や生活など様々なことを相談できる場所に相談してみるのもいいでしょう。ここでは、軽度知的障害のある方が活用できる相談・支援先を紹介します。

知的障害者相談員

知的障害者相談員とは、知的障害のある方やその家族からの相談を受け付けて対応している民間の協力者のことです。原則として知的障害のある子どもがいる保護者が相談員となっています。

 

知的障害者相談員には、日常生活での困りごとの他にも就職に関することも相談でき、関係機関の紹介などをしてもらえます。知的障害者相談員は自治体のホームページなどから見つけることができます。すでに相談員とつながりがある方は仕事についても相談してみるといいでしょう。

自治体の障害福祉窓口

自治体には障害福祉窓口(自治体ごとに名称が異なります)が設置されていて、障害のある方の様々な相談に対応しています。

仕事に関しても相談することができ、状況に応じた支援機関の紹介などを行っています。仕事に関してどのようなサービスを使ったらいいかわからないという方は一度相談してみるといいでしょう。

知的障害者更生相談所

知的障害者更生相談所は18歳以上の知的障害のある方を対象とした支援機関です。知的障害の判定や療育手帳の取得のために訪れたことがある方も多いと思います。

知的障害者更生相談所では、仕事の悩みに対して研修や他の関係機関の紹介などのサポートを行っています。他にも各種手当についての相談も受け付けているので、金銭的なサポートを希望する場合も相談してみるといいでしょう。

自立訓練(生活訓練)

自立訓練(生活訓練)とは、軽度知的障害をはじめとして障害のある方が地域で自立した生活を送れるように、プログラムの提供や生活の悩みへの相談対応などを行っている支援機関です。すぐに仕事を始めるより、まずは生活の基盤を整えたいという方は相談してみるといいでしょう。

 

自立訓練(生活訓練)事業所を運営しているエンラボカレッジでは、軽度知的障害など診断名にとらわれず、相談者一人ひとりの状況や今後の希望を伺い、個別に計画を作成しています。そのうえで、自分の特徴や傾向を知っていくプログラムや、自分に合った対処法、コミュニケーション方法を見つけていくなど、利用する方に合わせたサポートを提供しています

 

また、生活を整えた後に就職を見据えている方には、自己分析によって得意・不得意を整理し、仕事で困りやすいことへの対策、困った時の対処法など、ご自身のマニュアルを作成し、仕事で活かしていくためのサポートも行っています

 

エンラボカレッジでは無料での相談も受け付けています。「軽度知的障害があって仕事で悩んでいる」「まずは生活を安定させたい」という方は一度ご相談ください。

軽度知的障害 仕事 まとめ

知的障害には4つの分類があり、その中に軽度知的障害もあります。

軽度知的障害と聞くと、症状も軽いのではと考える方もいると思いますが、実際には仕事や生活、コミュニケーションなど様々な面で困りごとが生じることがあります。

 

軽度知的障害のある方は、仕事においては「文書やマニュアルが理解できない」「上司の指示がわからない」「業務をなかなか覚えられない」などで困ることが多いと言われています。

対処法を考えていくことや、ご自身の特徴に合った、困りごとが起きづらい仕事を探していくといいでしょう

 

また、一人で進めていくには不安があるという方は軽度知的障害のある方が利用できる支援機関の活用も検討してみてください。

障害や生活のことまずは
相談しませんか?

あなたのお悩みやお困りごとについてお聞かせください。

見学・体験も随時受け付けております。