マルチタスクができない原因と仕事での対処法をわかりやすく解説
更新日:2026/07/13
「電話対応中にメモを取る、複数の業務を同時に任されると混乱してしまう」など、職場のマルチタスクに悩む方は少なくありません。
同時並行の作業が円滑に進まない背景には、必ずしも本人の能力や努力不足だけとは限らない側面があります。人間の脳の構造として、異なる複数の事象に対して同時に注意を向け、処理を行うことは難しいと指摘されているためです。業務の進め方には個人差があり、その時々の心身の状態も大きく影響します。
この記事では、マルチタスクが困難に感じられる主な原因や、仕事で試せる具体的な対処法について解説します。また、背景にある可能性のある発達障害の特性や、公的な専門相談窓口についても紹介します。
マルチタスクが困難に感じられる状態とは
マルチタスクとは、複数の作業を同時に、あるいは短い間隔で切り替えながら進めることを指す表現です。
例えば、電話対応をしながら書類を作成する、あるいは会議で話を聞きながら要点をまとめるといったように、日常の業務においてこうした要素が含まれる場面が見られます。
いわゆる「マルチタスクができない」と捉えられる状態には、いくつかの傾向があります。
- 複数の作業を同時に進めようとすると混乱が生じやすい
- 一つの作業に集中していると、別の指示を受け入れることが難しくなる
- 業務が重なった際に、優先順位の判断がつきにくく作業が滞ってしまう
こうした困りごとは、特定の個人だけに現れる特別な問題ではなく、誰にでも起こり得る現象であると指摘されています。
人間の脳の構造として、異なる2つの作業を完全に「同時に」処理することは難しく、実際には脳のスイッチをすばやく切り替えながら、交互に対応していると考えられているためです。 このスイッチの切り替えが行われるたびに、集中力をその都度立て直す必要があり、その結果として脳には大きな負荷がかかりやすくなります。
同時並行の作業が、かえってミスを誘発したり、強い疲労感につながったりする背景には、こうした脳の仕組みが関係している場合があります。
マルチタスクができない主な原因
マルチタスクが苦手だと感じる背景には、複数の要因が重なっている場合があります。原因を一つに決めつけるのではなく、自身の状況に当てはまりそうなものを整理することが、対処の手がかりになります。
ワーキングメモリの容量に関係する場合
ワーキングメモリとは、作業に必要な情報を一時的に保持し、頭の中で整理や処理を行うための記憶の仕組みのことです。この機能には脳の前頭前野が重要な役割を担っていると考えられています。
ワーキングメモリの容量には限りがあり、抱える情報量が多くなると、保持できる限界に達してしまうことがあります。複数の作業を同時に進めようとすると覚えておくべき情報が増え、結果として情報の取りこぼしや手順の抜け、判断の遅れが起こりやすくなる傾向があります。
この容量には個人差があり、もともと同時に扱える情報量には幅があるため、マルチタスクの場面で負担を感じやすい方もいます。
注意の配分や切り替えが難しい場合
複数の作業を円滑に進めるには、注意をうまく振り分けたり、ある作業から別の作業へ意識を切り替えたりする力が必要になります。
この注意の配分や切り替えが苦手だと感じられる場合、一つの作業に意識が深く向いている間は他の情報が入りにくく、急な割り込みによって思考が止まってしまうことがあります。
心身の不調や疲労による場合
マルチタスクが困難である理由は、生まれつきの特性だけでなく、その時々の心身の状態によっても大きく変わります。
睡眠不足や強いストレス、気分の落ち込みが続いているときは、集中力や記憶力が一時的に低下しやすくなります。そのため、これまでできていたはずの業務が、ある時期を境に難しくなるケースも指摘されています。
環境や慣れによる場合
新しい職場や初めて担当する業務では、個々の作業に習熟していないため、同時並行まで手が回らないのが自然なことといえます。
また、周囲の環境も影響します。席の周辺がにぎやかで集中を維持しにくい、上司からの指示があいまいで優先順位が判断できない、といった環境要因が重なることで、マルチタスクの遂行が難しくなっている場合もあります。
マルチタスクができないことと発達障害の関係
マルチタスクへの苦手意識は、発達障害の特性と関連して語られるケースがあります。一方で、同時並行の作業が苦手であるからといって、必ずしも発達障害に該当するとは限らないという点も、あわせて把握しておくことが重要です。
大切なのは、特定の診断名のみにとらわれるのではなく、「自分自身がどのような手順や環境であれば業務を進めやすいか」という特性の傾向を理解することです。そのうえで、各特性における一般的な傾向としては、以下のような現れ方が指摘されています。
ADHD(注意欠如・多動症)の傾向がある場合
注意を持続させることや、複数の対象へ適切に意識を分配することに難しさを感じやすいとされています。そのため、同時並行の作業において優先順位の判断に迷ったり、他の刺激に注意がそれてしまったりする場面が見られることがあります。
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― ADHDとは|注意欠如・多動症の特徴・症状・診断・治療を解説
ASD(自閉スペクトラム症)の傾向がある場合
一つの作業から別の作業へと意識を切り替える(タスクの移行)に時間を要する傾向があります。同時に複数の業務を扱うよりも、一つの業務に集中して順番に取り組むほうが、本来の正確性や効率を発揮しやすい場合もあります。
こうした傾向は、業務の遂行能力が低いということではなく、「適した作業の進め方が異なる」と捉えることで、具体的な対処の方向性が見えてくることがあります。なお、特性の有無や程度は、専門の医療機関による医学的な診断を経て判断されるものです。マルチタスクの苦手さだけで自己診断を行うことは避け、日常生活や仕事において支障や気になる点がある場合は、専門の相談機関や医療機関へ相談することをおすすめします。
関連ページ
― ASD(自閉スペクトラム症)とは|大人の特徴・診断・仕事と支援先
仕事でマルチタスクができないときの対処法
マルチタスクへの苦手意識がある場合、業務の進め方や環境を工夫することで、負担を軽減できる場面があります。無理に複数の作業を同時にこなす能力を高めようとするのではなく、自身が処理しやすい形に作業を整えることが大切です。ここでは、業務に取り入れやすい具体的なアプローチを紹介します。
シングルタスクに分解して取り組む
複数の作業を同時に進めようとせず、あえて一つひとつの作業に分けて取り組む方法です。
例えば、大きな業務であっても「資料の構成案を考える」「文章を作成する」「内容を見直す」といったように、小さな単位の作業(タスク)に細分化します。
一つの作業を完了させてから次の作業に移ることで、頭の中が整理され、混乱を防ぎやすくなります。 作業を切り替えるごとに脳への負荷がかかる仕組みを考慮すると、このように業務を細分化して進めることは、理にかなったアプローチの一つであると言えます。
やることを書き出して「見える化」する
頭の中だけで複数の仕事を抱えると、ワーキングメモリがすぐにいっぱいになってしまいます。
その日のやることを紙やメモアプリに書き出し、終わったものから消していきます。覚えておく負担が減り、抜け漏れにも気づきやすくなります。
優先順位をつけてから動く
仕事が重なったときは、いきなり手を動かす前に、「急ぎで重要なもの」「あとでよいもの」を仕分けると、迷いが減ります。
判断に迷うときは、上司や先輩に「どれを優先すべきか」を確認するのも一つの方法です。
集中できる環境を整える
割り込みの多い環境では、誰でもマルチタスクが回りにくくなります。
通知をオフにする、静かな席や時間帯にまとまった作業を入れる、といった工夫で、一つの作業に向き合いやすくなります。在宅勤務や席の配置について職場に相談できる場合もあります。
自身の特性を整理して周囲に共有する
周囲の協力を得るために、自身が苦手とする部分や得意な進め方を職場に伝えておくことも重要な選択肢です。
例えば、「一度に複数の指示を受けるよりも、一つずつ順番に指示をいただけると正確に対応できます」といったように、具体的な希望を伝えることで、周囲も配慮や対応がしやすくなります。
自身の特性と必要とする配慮を言葉にして共有することは、安定して働き続けるための基盤となります。このように自分自身の特性を理解し言葉にする取り組みは、専門機関による自己理解の支援などとも深く関連しています。
「できなくなった」と感じるときに考えたいこと
「以前は普通にこなせていたのに、最近マルチタスクができなくなった」という変化を感じる場合は、心身の状態に目を向けてみることも大切です。
集中力や記憶力の低下、ミスの増加、段取りの難しさは、強いストレスや疲労、気分の落ち込みのサインとしてあらわれることがあります。うつや適応障害などでは、こうした症状が仕事の場面で目立つようになる場合もあります。
「気力がわかない」「眠れない、または眠りすぎてしまう」「食欲が落ちた」といった状態が長く続いているときは、無理を重ねる前に、医療機関に相談してみてください。
マルチタスクができないことを自分の努力不足と捉えて責めてしまう方もいます。けれど背景に不調がある場合、まず必要なのは休養と適切なサポートです。
関連ページ
― 心療内科とは?受診の目安や精神科との違いを解説
自己理解から働き方を整えるという選択肢
これまで紹介した対処法を実践してもなお業務への負担が大きいと感じられる場合は、目の前の作業工夫にとどまらず、「自身の特性に適した働き方や環境そのものを見直す」という方向性を検討することも一つの選択肢です。
自分はどんな場面でつまずきやすく、どんな環境なら力を発揮できるのか。こうした自己理解を深めておくと、職場で必要な配慮を伝えやすくなり、仕事の選び方にも生かせます。
障害福祉サービスの一つである自立訓練(生活訓練)では、生活リズムや自己理解、対人面の土台をじっくり整えながら、自分に合った進路を考えていくことができます。就職を急ぐのではなく、まず「働き続けられる自分」をつくることに時間を使えるのが特徴です。
エンラボカレッジの自立訓練(生活訓練)では、自分の得意・苦手や必要なサポートを整理していきます。
マルチタスクへの困難さを抱えていた方の進路選択における事例
以下に紹介する内容は、自立訓練(生活訓練)を提供するエンラボカレッジの利用を原点とした支援事例の一部です。
事例1:複数の業務管理に課題を抱えていた20代(ADHDの特性がある方)のケース
利用前の状況:
一度に複数の業務を任された際、優先順位の設定や判断が難しく、業務上のミスが重なることで離職を繰り返す状況が見られました。一時は「自身の力では業務を全うできないのではないか」と自信を喪失している状態にありました。
エンラボでの取り組み:
自立訓練プログラムの受講を通じて、自身が困難を感じやすい状況と、集中を維持しやすい環境の条件を客観的に整理しました。さらに、業務内容を書き出して一つずつ順番に処理する手順を習得し、習慣化を目指しました。
その後の一歩:
自身の特性や必要とされる合理的配慮の内容を、自ら言葉にして職場へ共有できる状態にまで整理が進みました。無理のない範囲で勤務できる環境を見出し、新たな進路へと進むケースが見られました。
事例2:心身の不調と業務遂行の難しさが重なった40代(うつ病とADHDの特性を抱える方)のケース
利用前の状況:
それまでは対応できていた同時並行の業務に支障が生じるようになり、段取りの乱れやミスの増加から強いストレスを感じ、心身の不調によって就業継続が困難な状況にありました。
エンラボでの取り組み:
まずは生活リズムを安定させ、心身の健康状態を整える取り組みから開始しました。体調の回復に合わせながら自己理解を深め、自身に適した働き方や環境の土台を段階的に再構築していきました。
その後の一歩:
状況の変化に対して焦らず段階的にステップを踏むことで、心身に過度な負担をかけずに就労を継続できる環境を整え、安定した進路の確保につながった事例があります。
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― 【エンラボストーリー】就労移行支援後に仕事が続かず…ADHDの私が自立訓練で感情コントロールを身につけ、安定就職を実現
よくある質問
Q. マルチタスクができないのは発達障害なのでしょうか。
マルチタスクへの苦手意識は、発達障害の特性に関連して語られることがありますが、それだけで発達障害に該当するとは限りません。
一時的な疲労や強いストレス、心身の不調、あるいは業務そのものに対する習熟の途中など、様々な要因が関係している場合があります。日常生活や業務に支障が出ているなど気になる場合は、自己判断を避け、専門の医療機関や相談窓口に相談することをおすすめします。
関連ページ
― 大人の発達障害とは|特徴・原因・診断・相談先までやさしく解説
Q. マルチタスクは練習すればできるようになりますか。
人間の脳の構造として、異なる複数の作業を完全に同時に処理することは難しいとされています。無理に同時並行の能力を高めようとするよりも、業務を細分化して一つずつ処理する手順や、タスクを視覚化する工夫を身につけるほうが、結果として脳への負担が軽減され、ミスの抑制につながるケースが多く見られます。
Q. 急にマルチタスクができなくなったのですが、大丈夫でしょうか。
「以前は問題なくこなせていた業務が急にできなくなった」という変化は、過度なストレスや蓄積した疲労、気分の落ち込みといった心身の不調を示すサインである可能性があります。十分な睡眠がとれない、気力が湧かないといった状態が継続している場合は、無理を重ねず、早めに心療内科や精神科などの専門医療機関を受診することを検討してください。
Q. 自分の苦手な部分を職場にどう伝えればよいですか。
「一度に複数の指示を受けるよりも、一つずつ順番に伝えていただけると正確に対応できます」といったように、具体的な希望や対処法とセットで伝えると、周囲も配慮や協力をしやすくなります。事前に自身の特性や必要とするサポート内容を整理しておくことが、職場へ説明する際の一助となる場合があります。
Q. 家族がマルチタスクの苦手さで悩んでいます。どのように支えればよいでしょうか。
ご家族として、どのような対応をすべきか戸惑われるケースも少なくありません。まずは本人を急かさず、一つひとつの作業に落ち着いて取り組めるような環境を共に考えることが大切です。また、本人の状況に応じて、公的な相談窓口や就労支援機関などの情報を共有し、専門家を頼る選択肢を提案することも支援の重要な一歩となります。
まとめ
マルチタスクができないのは、性格や努力の問題ではなく、脳の仕組みや特性、その時々の心身の状態が関係しています。
まずは一つずつに分けて取り組む、やることを見える化する、優先順位をつける、環境を整える、周囲に伝えるといった工夫から試してみてください。
「最近できなくなった」という変化があるときは、心身のサインかもしれません。一人で抱え込まず、医療機関や支援機関に相談することも、自分を立て直すための大切な一歩です。
自分の特性に合った働き方を、自己理解から整えていきたいときには、自立訓練(生活訓練)のような支援も、心強い選択肢のひとつとなるはずです。
この記事について【作成・監修】
本記事は、自立訓練(生活訓練)事業所「エンラボカレッジ」を運営する株式会社エンラボの専門職チームが作成・監修しています。
監修:株式会社エンラボ 専門職チーム(精神保健福祉士・社会福祉士・臨床心理士・作業療法士・理学療法士 在籍)
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。マルチタスクの苦手さの背景や発達障害の特性の有無、心身の不調については、自己判断せず医療機関にご相談ください。