知的障害と発達障害の違いとは?手帳や相談先・支援機関についても紹介します。
公開日:2023/08/04
日常や仕事で「対人関係が苦手」「口頭での指示がよくわからない」「業務を覚えるのに時間がかかる」など、知的障害と発達障害の特徴に当てはまって「自分はどちらだろうか?」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか?
知的障害と発達障害は共通する部分もありますが、同時に違いもあります。また障害の違いによって対策にも違いが出てきます。困りごとを解消するためにも、自身の障害を正しく把握して対応していくことが大事です。
この記事では、知的障害と発達障害の特徴の違い、取得できる障害者手帳や相談先などの違いについて紹介します。
知的障害と発達障害の違いとは?
知的障害とは、おおむね18歳までの発達期に知的機能に遅れが生じて生活の中で困ることがある障害で、一方の発達障害は生まれつきの脳機能の偏りによって生じた特性の影響で、生活の中で困りごとが起こる障害のことです。知的障害と発達障害はどちらも勉強や仕事、人間関係といった日常生活や社会生活の場面で困りごとが生じることが多く、共通している部分があることから区別が難しいといわれています。
しかし、知的障害と発達障害で表面的に似た困りごとがあっても、「なぜその困りごとが起こっているか」という原因は異なるため、正しく認識することが対応策を考えるためにも大事になります。
知的障害は発達障害の中に含まれる?
知的障害と発達障害は違いがあると説明しましたが、場合によっては知的障害は発達障害の一つと分類されることもあります。
知的障害は福祉の場などで使われる言葉で、医学的には「知的能力障害」や「知的発達症」などと呼ばれることがあります。
また、発達障害も「神経発達障害」や「神経発達症」と表記される場合があります。
そして、知的能力障害/知的発達症は神経発達障害/神経発達症の中の一つとして位置付けられています。
ただ、完全に統一された分類ではなく、別の障害とみなす場合もあります。また、知的障害や発達障害という表記も統一されていないのが現状です。
そのため、この記事では行政や福祉などの場面で使うことが多い「知的障害」と「発達障害」の表記を使用します。
知的障害とは?
知的障害とは、何らかの影響で知的機能に遅れがあって、日常生活や勉強、仕事などの場面でつまづくことがある障害のことです。
知的障害のある方の特徴としては、
- 着替えや整理整頓など身の回りのことがうまくできない
- 複雑な概念や会話の理解が難しい
- おつりの計算など日常生活で困ることがある
- 臨機応変な対応が難しい
- 勉強や仕事を覚えるのに時間がかかる
などが挙げられます。
基本的には発達期と呼ばれる18歳未満に知的機能の遅れが生じた場合に知的障害と診断されます。
しかし、軽度の知的障害のある方など、子どものころは本人や周りも気づかずに、大人になってから診断されるという場合もあります。
大人になってから知的障害かもしれない、と感じている方は「知的障害更生相談所」に相談するようにしましょう。
知的障害とは?原因や発達障害との違い、種類・診断基準などを解説します。
知的障害の種類
知的障害は、症状の程度によって「軽度」「中程度」「重度」「最重度」と4つの種類に分けられています。
この種類はIQとも呼ばれる知能指数と、日常生活能力と呼ばれる生活するための力との兼ね合いで分類されています。
例えば軽度知的障害のある方は、インターネットなどで日常的に情報を仕入れることができ、家事などもおおむねできることが多いようです。
重度知的障害のある方では、言葉や数の理解があまりできず、サポートを得ながら軽作業などができるといった方が多いようです。
こういった分類は支援の目安などに用いられていますが、実際にはその人一人ひとりの性格や環境によって困ることは大きく変わってきます。
軽度とついているからといっても、本人はつらい思いをしているかもしれないため、困難を解消するために支援機関を頼るなど対策を取っていくことが大事です。
関連ページ:軽度知的障害とは?特徴や原因・チェック・診断方法を紹介します。
知的障害を伴う障害はある?
知的障害のある方は、知的障害以外の障害もある場合があります。このように障害が複数生じていることを「併存」などと呼んでいます。
知的障害と併存しやすいといわれている障害は、注意欠如・多動症、自閉スペクトラム症などの「発達障害」や、不安障害、うつ病、統合失調症などの「精神障害」があるとされています。
知的障害と発達障害などが併存している場合は、障害ごとに治療や対策を行う必要がありますので、知的障害と診断されている方の中で他の障害の症状も表れている方は主治医などに相談するようにしましょう。
発達障害とは?
発達障害とは、生まれつきの脳の働きの違いにより認知や行動に特性が生じ、日常生活や仕事などの場面で困ることがある障害のことです。
発達障害は表れる特性によって、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(LD)などの分類があります。分類が同じでも、特性の表れ方やその人の性格、周りの環境などによって困難なことも変わってきます。
発達障害の特徴とは?大人の発達障害の特徴や困りごとを場面・診断別に解説します。
注意欠如・多動症(ADHD)
注意欠如・多動症はADHDとも表記され、「不注意」「多動・衝動性」という特性のある発達障害の一つです。
不注意では、注意を向け続けるのが難しいことから、頻繁にケアレスミスをしたり、忘れ物や失くしものが多くなったりといった困りごとがあります。
多動・衝動性では、じっとしていられなかったり頭に浮かんだことをすぐ実行したくなることから、遅刻が多い、仕事に優先順位がつけられないといった困りごとがあります。
また、注意欠如・多動症のある方の中には、知的障害を伴う方もいるといわれています。
自閉スペクトラム症(ASD)
自閉スペクトラム症(ASD)とは、対人関係の困難や興味関心の偏りなどがある発達障害の一つです。以前は自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害と呼ばれていたものが統一されてできた診断名です。
対人関係の困難では、「できるだけ」「もう少し」などのあいまいな表現の理解やほかの人の立場に立つことが苦手で、仕事の指示理解などで困る場合があります。
興味関心の偏りは、特定の物事や順番に強いこだわりがあり、急な予定変更の時にパニックになるなど困ることがあります。
また、自閉スペクトラム症は知的障害が併存していることが多いともいわれています。
学習障害(LD)
学習障害(LD)は、「読み」「書き」「計算」といった学習に困難が生じている発達障害のことです。限局性学習症(SLD)とも表記されます。
例えば読みの分野では、「漢字が読めない」「鏡文字のように見える」などがあるといわれています。
また、書きの分野では、「似た文字を書き間違える」「枠内に文字を書くのが難しい」などがあるとされています。
計算の分野では、「繰り上がりや繰り下がりができない」「四捨五入などの概念の理解が難しい」などの苦手が見られます。
学習障害は全体的な知的機能に遅れがない方で、特定の学習に困難がある場合に該当するとされています。
知的障害と発達障害で障害者手帳の違いはある?
知的障害や発達障害のある方は、障害者手帳を取得することが可能です。
障害者手帳を所持していると、税金の控除や施設利用料など各種割引を受けることができるなど、さまざまなメリットがあります。また、仕事の面では障害者雇用求人に応募できるようになります。
障害者手帳には3種類があり、障害種別によって「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」と分かれています。
まず、知的障害のある方は療育手帳が対象となります。療育手帳は自治体によって名称が異なることがあり、東京都や横浜市では「愛の手帳」という名称で運用されています。
発達障害のある方は、精神障害者保健福祉手帳が対象となるほか、療育手帳が対象となる場合もあります。ただ、発達障害で療育手帳の申請ができるかは自治体によって異なります。
また、知的障害と発達障害が併存している場合は、療育手帳と精神障害者保健福祉手帳両方が対象となります。
どちらの手帳も基本的な部分は同じですが、精神障害者保健福祉手帳は2年で更新が必要で、療育手帳は自治体によって更新の決まりが異なるなど違いもあります。
知的障害と発達障害が併存していて、どちらの手帳を取得するか迷ったときは、自治体の障害福祉窓口、通院している方は主治医や病院のケースワーカーなどに相談するといいでしょう。
知的障害と発達障害の相談先は?
知的障害と発達障害で日常生活や仕事などに困りごとがある場合に相談できる窓口があります。ここでは、全般的な障害についての相談先と、知的障害と発達障害それぞれの専門的な機関を紹介します。
障害についての相談先
障害全般について相談したい場合の相談先として自治体の障害福祉窓口があり、活用できる支援機関などの紹介を受けることができます。
自治体によって名称が異なることがありますので、わからない場合は総合案内に「障害について相談したい」と伝えるといいでしょう。
また、障害に関するサポートを受けたい場合は、地域の相談支援事業所に相談する方法もあります。
相談支援事業所では、障害や悩みに応じて適した障害福祉サービスの紹介などをしてもらうことが可能です。
知的障害の相談先
知的障害についての相談がしたい場合の専門機関として、大人の場合は知的障害者更生相談所があります。
知的障害者更生相談所では、相談対応だけでなく知的障害の判定や療育手帳の手続きなども行うことができます。
発達障害の相談先
発達障害についての専門機関として、発達障害者支援センターがあります。
発達障害者支援センターは、年齢関係なく発達障害のある方や家族からの相談を受け付けている支援機関です。発達障害の診断を受けるか悩んでいる場合にも相談することができ、発達障害の専門医がいる病院を紹介してもらえることもあります。
知的障害と発達障害の仕事や自立に関する支援やサポート機関は?
ここでは知的障害や発達障害のある方が、仕事や自立のために活用できる支援機関を紹介します。
基本的に知的障害や発達障害の診断がなくても相談することが可能なので、仕事などにお悩みがある方はまず相談してみるといいでしょう。
ハローワーク
求人の紹介や雇用保険の手続きができるハローワークでは、障害のある方専門の窓口があります。
障害についての専門的なスタッフにより、仕事の相談や求人の紹介、面接の練習など就職に関して一貫した支援を受けることができます。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、就職だけでなく生活についての支援を受けることもできる支援機関です。地域によって「なかぽつ」「しゅうぽつ」などの愛称で呼ばれることもあります。
仕事に関しては必要なスキルを身につける講座や訓練、就職活動のサポートなどを受けることが可能です。生活については家事や金銭管理、生活リズムの整え方など悩みに応じたサポートを受けることができます。
就労移行支援
就労移行支援とは、知的障害や発達障害をはじめとする障害のある方の就職をサポートをしている支援機関です。
利用者は2年間の中で、仕事に関するスキルを身につけるトレーニングや、職場実習、面接練習など、働くためのさまざまな支援を受けることができます。また、就職後も定着支援といって、職場で働き続けるための支援も受けることも可能です。
自立訓練
自立訓練とは、知的障害や発達障害のある方が地域で自立した生活を営めるように、さまざまなサポートを提供している支援機関です。
自立訓練は機能訓練と生活訓練の2種類があり、機能訓練では身体的なリハビリテーションも行っています。
自立訓練では、コミュニケーションなどの対人関係の講座や訓練、家事や金銭管理、体調管理などの日常生活のサポートなどを受けることができます。
また、就職を見据えての自己理解や働きやすい環境を整理するためのプログラムを行っている事業所もあります。
他にも、一人ひとりの日常生活や仕事の悩みや困りごとに応じて計画を作成し、適切なサポートの提供を行っています。「人間関係で悩んでいる」「仕事ができるか不安」という方は、一度ご相談ください。
知的障害と発達障害の違いまとめ
知的障害と発達障害は、コミュニケーションや勉強、仕事などの困りごとで共通点があるため、「自分はどちらなのだろう」と悩む方も少なくない障害です。
表れている困りごとが同じでも障害によって原因が違うため、対処方法もまた違ってきます。そのため、自身の障害を把握して適切な対策を立てていくことが大事です。
自分だけで対策するのが難しいと感じる場合は、知的障害や発達障害のある方が利用できる支援機関もたくさんありますので、一度相談してみるといいでしょう。