発達障害のある人が転職するには?進め方や大事なポイント、働きやすい環境の見つけ方を解説
公開日:2025/02/14

発達障害のある方は、特性と環境がマッチしないことにより、仕事上でさまざまな困りごとを抱えやすい場合があります。結果として、長く働き続けることが難しかったり、転職を繰り返してしまったりする可能性もあるでしょう。
本記事では、発達障害のある方が転職をする上での進め方や大事にしたいポイントについて解説します。自分自身の特性とそれに合った働き方を理解し、転職活動を前向きに進めたいと考えている方、必見です。
「発達障害」とは
発達障害は、生まれつきの脳の特性により、コミュニケーションや行動、学習などの面で特定の困難が生じる状態を指します。主に「自閉スペクトラム症(ASD)」「注意欠如・多動症(ADHD)」「学習障害(LD)」といった分類があり、それぞれ異なる特徴を持ちます。たとえば、ASDでは対人関係やコミュニケーションの困難、ADHDでは集中力や注意の持続が難しいことが挙げられます。
発達障害は見た目からは分かりにくく、「グレーゾーン」と呼ばれる診断がつかない場合もあります。個々の特性に応じた環境やサポートがあれば、持ち味を活かして働くことも可能です。
さらに詳しい解説については、関連記事をご覧ください。自分の特性を知り、適切な転職活動を進める第一歩として役立つはずです。

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発達障害のある方の転職・雇用状況
障害のある方の雇用は、障害者雇用促進法に基づき、企業が積極的に採用や職場環境の整備を行うことが義務付けられています。この法律により、障害者を一定数雇用することが企業に求められ、その中には発達障害の方も含まれます。しかし、発達障害特有の課題や支援が不十分な現状もあり、雇用状況には課題が残っています。
厚生労働省が発表した「令和4年 障害者雇用状況の集計結果」によると、発達障害を含めた障害のある方の就業率は年々向上しています。
また同じ厚生労働省の調査では、発達障害のある方の定着率は就職後3ヶ月時点で84.7%、1年時点では71.5%となっています。特に職場でのコミュニケーションの難しさや業務の適応に苦労することが、定着率を下げる要因と考えられます。より定着力を上げるためには、職場での支援体制の拡充が望ましいでしょう。
また、発達障害のある方の平均賃金は、令和5年の賃金構造基本統計調査によれば、障害者全体の平均賃金よりも低い傾向があります。この背景には、非正規雇用が多いことや、本人の特性に合わせて短時間業務を行うケースなどが影響しています。
こうした状況を改善するためには、適切な転職支援や職場環境の整備が不可欠です。しかし、発達障害のある方の場合、コミュニケーション上の特性によって、一般的な面接形式での採用プロセスが転職の際に不利になったり、スキルや適性が正しく評価されづらかったりする場合があります。発達障害のある方が転職を成功させるためには、自身の特性について知るとともに、支援機関を活用しながら転職活動を進めると良いでしょう。

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発達障害のある方が仕事上で感じやすい困りごと
発達障害のある方は、その特性により、仕事の場面で特有の困りごとを感じることが少なくありません。これらの困りごとは、発達障害の種類や特性によって異なり、それぞれに対処法が必要です。以下では、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)の3つのタイプ別に解説します。
①ASD(自閉スペクトラム症)の場合
ASD(自閉スペクトラム症)の場合、下記のような困りごとを仕事上で感じることがあります。
・コミュニケーションの困難さ:表情や言葉のニュアンスを読み取ることが苦手で、職場での意思疎通が難しい場合があります。
・ルールや手順への強いこだわり:変更や柔軟な対応が求められる場面で、強いストレスを感じやすいケースがあります。
・感覚過敏:音や光などに対する過敏さにより、業務中の集中力が妨げられることがあります。
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②ADHD(注意欠如・多動症)の場合
ADHD(注意欠如・多動症)の場合、特性により下記のような困りごとが生じる場合があります。
・集中力の持続が難しい:興味のない作業や単純作業に取り組む際、注意が散漫になりがちな傾向があります。
・多動性・衝動性:じっとしていることが苦手なため、業務中に落ち着かない行動を取ることがあります。
・時間管理が苦手:締切を守ることやスケジュール通りに動くことが難しい場合があります。
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③LD(学習障害)の場合
LD(学習障害)は、読み・書き・計算などに特性が表れることがあり、それが原因で仕事上に下記のような困りごとを感じる場合があります。
・特定のスキルに苦手さがある:読み・書き・計算のうちのいずれか、または複数が極端に苦手で、文書・資料作成や集計・統計など、特定の業務が困難になることがあります。
・情報処理に時間がかかる:読みや書きが苦手なため、上司や取引先からの指示や依頼内容を理解するのに時間がかかる場合があります。
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発達障害のある方が転職を繰り返しやすい理由
発達障害のある方が仕事を続ける中で、特性と環境がマッチせず、転職を繰り返してしまうケースは少なくありません。以下では、発達障害のある方が転職を繰り返しやすい主な理由を3つ挙げ、それぞれについて詳しく解説します。
①自身の特性と職場環境がマッチするか、事前に確認しづらいため
発達障害の特性によって、特定の環境や業務が強いストレスの原因になる場合があります。
しかし、採用プロセスでは、職場環境や業務内容を十分に把握するのは難しいことがほとんどです。多くの場合、働き始めてみないと、実際の業務内容やそれによるストレスの強さなどは分からないでしょう。
たとえば、ASD(自閉スペクトラム症)の方にとっては、曖昧な指示が多い職場や、頻繁なタスク変更が求められる環境は、適応が難しいことが多いです。一方で、どのように指示が出されるかといったことは、実際に配属された職場環境や周囲の働くメンバーにより変動します。このため、「働き始めてみたら想定と違っていた」という事態が起こり、転職や早期離職につながる場合があります。
②コミュニケーションの課題を感じやすいため
職場では、上司や同僚とのコミュニケーションが円滑でないと、仕事のパフォーマンスや人間関係に悪影響を及ぼすことがあります。
たとえば、ADHD(注意欠如・多動症)の方は、思ったことをすぐ口にしてしまい、誤解を招くことがあります。また、ASD(自閉スペクトラム症)の方は、相手の気持ちを読み取るのが難しく、意図せずトラブルを引き起こすこともあります。こうしたコミュニケーション上の問題が積み重なると、職場に居づらさを感じ、転職を考えるきっかけになる可能性があります。
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③自身で中長期的なキャリア計画を立てることが難しいため
発達障害の特性により、目の前の課題には集中力を発揮しやすい一方で、中長期的な視点で物事を計画するのが苦手という場合があります。
その結果、「転職がキャリアにどう影響するか」「自分のキャリアを長い目で考えた時に、転職するべきか、今の職場で働き続けるべきか」を客観的に考えることが難しく、短期間で次々と職場を変える場合があります。特にADHD(注意欠如・多動症)の方は、衝動的な決断をしやすい傾向があるため、注意が必要です。
発達障害のある方が転職を考えるときに大事にしたいポイント
発達障害のある方が転職を検討する際には、自身の特性や状況に応じて慎重に判断することが重要です。転職はキャリアの転機であると同時に、新しい環境に適応する負担がかかるため、事前の準備や専門機関への相談・サポートが成功の鍵となります。以下では、特に意識したい3つのポイントについて解説します。
①一人で判断しない
転職は大きな決断です。自分一人で判断すると、重要な要素を見落とす可能性があります。家族、友人、または専門のキャリアアドバイザーや障害者雇用の支援サービスを活用し、第三者の視点を取り入れることが大切です。
具体的な相談機関については、後述の「発達障害のある方が転職を進める時に活用できる支援機関」を参照してみてください。
②転職が可能な体調か、医師にも相談する
転職は精神的・体力的に負担がかかります。特に、過去ストレスによる体調不良やメンタルヘルスの問題を経験している場合は、医師や専門家に相談し、現在の体調が転職活動に耐えられるかを確認すると良いでしょう。
診断を受けて、一度休職して治療に専念した方が良いと判断される場合もあります。医師からアドバイスを受けることで、自身の健康を第一に考えた転職活動が可能になります。
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③自身に合った働き方を考える
転職を成功させるためには、自分の特性や得意な分野を活かせる働き方を見つけることが重要です。苦手な業務や環境を避けることも大切ですが、それ以上に「どのような職場なら長く働けるか」「自分の強みが発揮できるのは、どのような環境か」を具体的に考えることが求められます。
たとえば、ASD(自閉スペクトラム症)の方は明確なルールや静かな環境がある職場が向いていることが多く、ADHD(注意欠如・多動症)の方は動きのある業務やスピード感のある職場が適している場合があります。特性に配慮された働き方が可能かどうか、事前に判断するためにも、「自分自身にはどのような働き方が合っているか」を整理してみましょう。
また、働き方にはさまざまな選択肢があります。たとえば、障害者雇用やオープン就労を利用するのも一つの方法でしょう。詳しくは、参考記事をぜひご覧ください。
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障害者雇用で働くメリットとは?デメリットや企業側の採用メリットも解説
発達障害のある方の転職の進め方
発達障害のある方が転職を成功させるためには、自分の特性を理解し、計画的に行動することが重要です。自分に合った環境や働き方を見つけることで、転職後の安定した就労が実現しやすくなるでしょう。
以下では、転職の進め方を4つのステップに分けて解説します。
①自分の得意・不得意を知る
まず、自分の得意なことや苦手なことを理解することが大切です。過去の経験を振り返りながら、どのような業務や環境で力を発揮できたかを明確にしておきましょう。
たとえば、ASD(自閉スペクトラム症)の方はルーティン業務や集中が求められる作業に適性がある場合が多く、ADHD(注意欠如・多動症)の方は動きのある仕事やアイデアを活かせる業務が得意なことが多いと言われています。
ただ、得意なこと・苦手なことは一人ひとり異なるため、「自分は〇〇だから」と考えるのではなく、自分自身のこれまでの経験を振り返ってみましょう。成功した経験とその背景を振り返ってみたり、苦手な業務や環境を具体的に書き出してみたりすると、自己分析が進みやすいです。一方で、自分だけで振り返ることが難しい場合は、家族や友人、支援者に客観的な意見をもらうことも有効です。
②理想の働き方を考える
転職活動を進める前に、自分が理想とする働き方を具体的に考えてみましょう。特に、職場環境や業務内容、働く時間などについて自分の希望を明確にしておくことが重要です。
たとえば、職場環境としては静かな環境が合っているのか、動き回っても周囲が気にしないようなにぎやかな環境が合っているのか、働き方としてはフルタイム以外にも、パートタイムや在宅勤務など、さまざまな選択肢が考えられます。また、感覚過敏などの特性が強い場合、職場で合理的配慮を得る必要があるかどうかも判断材料になります。
ただし、すべての条件を満たした求人を見つけることは決して簡単なことではないでしょう。そのため、理想の働き方の中でも、これだけは譲れないポイントなどの優先順位を決めておくことがおすすめです。
③求人を探し応募する
自分の特性や理想の働き方が明確になったら、それに合った求人を探しましょう。障害者雇用枠を活用する場合、特性に配慮された職場を見つけやすくなります。また、応募時には自分の特性やそれに対してどのような配慮を求めたいかだけでなく、自分自身の経験やスキルを活かしてどのように貢献できるか、アピールすることが大切です。
④必要に応じて支援機関を活用する
発達障害のある方の転職をサポートする専門機関やサービスを利用することで、効率的かつ安心して転職活動を進めることができます。これらの機関では、求人情報の提供だけでなく、面接練習や職場適応のサポートも受けられます。
具体的な支援機関については、後述の「発達障害のある方が転職を進める時に活用できる支援機関」を参照してみてください。
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発達障害のある方が転職を進める時に活用できる支援機関
発達障害のある方が転職を進める際には、自分一人で全てを抱え込むのではなく、支援機関を活用することで、スムーズかつ安心して活動を進めることができます。それぞれの機関では、専門的な知識を持つスタッフが相談に応じたり、具体的なサポートを提供してくれます。以下に、活用できる支援機関を5つご紹介します。
①ハローワーク
ハローワークでは、発達障害を含む障害のある方を対象とした窓口を設置しています。障害者雇用の求人情報を提供するだけでなく、転職活動全般に関する相談やアドバイスも受けられます。採用プロセスにおいては、面接対策や履歴書の書き方の指導が受けられたり、職場実習の紹介を通じて、事前に仕事内容を確認できる場合もあります。
②障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、仕事と生活の両面でサポートを行う機関です。就労相談に加えて、生活面での課題や悩みも相談できるため、より総合的なサポートを受けることができます。生活における課題(住居、健康管理など)についても相談可能で、地域密着型のサポートが特徴です。
③地域障害者職業センター
地域障害者職業センターでは、障害のある方の職業適性を評価し、それに基づいたアドバイスを提供しています。具体的には、職業準備性や適性を評価するためのプログラムが充実しています。加えて、職場での配慮事項や適応に向けた支援も行っており、事業主への助言を通じて、配慮のある職場づくりがスムーズになる場合があります。
④就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、発達障害のある方がスムーズに就職できるよう支援する機関です。仕事のスキルを学ぶプログラムや、面接練習、実際の職場体験などを提供しています。採用においては、障害者雇用枠の求人を多く紹介してもらえる可能性があり、転職後の職場定着支援も受けられることが特徴です。
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⑤自立訓練(生活訓練)
自立訓練(生活訓練)は、障害のある方が自立した生活を送ることができるよう、訓練・支援を行う場です。就労に向けては、生活スキルや社会スキルを身につけるための支援を受けることができます。
特に、就労に必要なコミュニケーション能力や生活リズムの構築に向けたサポートは、転職時に役立つでしょう。自分に合った生活スタイルを確立しながら、転職に向けた行動が起こせることが特徴です。
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まとめ
発達障害は、生まれつきの脳の特性により、コミュニケーションや行動、就労などの面で困りごとを感じる状態のことを指します。特性ごとに異なる課題があり、仕事上でもさまざまな困りごとを感じることが多く、結果として転職を繰り返してしまう可能性があります。
発達障害のある方が転職を成功させるためには、自身の特性を理解することが必要です。苦手なことや不得意なことについては、合理的配慮や支援が受けられるかという観点も重要ですが、自分の強みや得意なことが何なのか、それを活かせる職場とはどのような環境なのかを整理することは、「自分らしく働き続けること」につながるでしょう。
ただ、自分自身の特性を客観的に整理し、転職・就労に活かすことは簡単ではありません。自分一人で考えることが難しい場合は、医師や支援機関の専門家などに相談してみましょう。
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